法律Q&A

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雇用契約申込義務

弁護士 竹花 元
2010年8月掲載

受け入れ期間中に部署が変わった派遣社員について、どの時点から直接雇用の申し込み義務が発生するか

当社に来て2年半となる派遣社員がいます。これまで経理部門で勤務していましたが、来月から、人事部で働いてもらいたいと考えています。この場合、受け入れてから3年目となる半年後に、直接雇用の申し込み義務が発生するのでしょうか。あるい は、部門が変わった時点で勤務期間がゼロに戻り、新たにカウントし直すことになるのでしょうか。

人事部門に移動した時点を起算点として新たに派遣期間が開始すると考えられます。ただし、経理部門と人事部門における職務の実態が変わらない場合は、両方の派遣期間が通算され、経理部門で働き始めた時が起算点となる可能性もあります。

1 派遣法上の受入可能期間
[1]経理部門での業務が26業務にあたるか
 経理部門(以下単に「経理」ということもあります)での業務がいわゆる26業務にあたるか否かで派遣可能期間が異なるので、まずはこの点について確定します。
 26業務とは、派遣法の40条の2第1項1号を受けて派遣法施行令4条に限定的に列挙されている業務のことですが、本件で該当する可能性があるのは、施行令4条10号の「財務の処理の業務」くらいです。
経理で働いていれば、「財務の処理の業務」に当然に従事しているとも思えます。しかし、労働者派遣は、労働力の需要・供給双方のニーズに基づく労働力需要調整システムとして認める必要性がある一方、企業にとっての便利な雇用調整弁としての側面からは長期雇用システムを侵食する危険を孕んでいるため、派遣法は、長期雇用システムを侵食しにくい一定の専門的業務に限定し、平成15年改正派遣法施行前は、期間も限定していました。しかし、同改正により、現在では、26業務については、派遣期間の制限を設けていません(このことは、派遣法40条の2第1項1号に「・・・雇用慣行を損なわないと認められるもの」などと明記されていることにも現れています)。
そうすると、「財務の処理の業務」の範囲も専門的業務に限定されるべきであり、具体的には、迅速かつ的確な実施に習熟を必要とする業務に限られ、単なる現金、手形等の授受、計算や書き写しのみを行うような業務の処理について特に習熟していなくても、平均的な処理をしうるような業務は含まれません(厚労省HP掲載の労働者派遣事業関係業務取扱要領第9の4)。
そうすると、2年半で経理から人事部門(以下単に「人事」ということもあります)に異動していることからは、その派遣労働者が26業務にあたるほどの専門性は有していないとみなされる可能性が高いことがうかがわれます。
そこで、以下では、経理において26業務以外の業務(以下「自由化業務」といいます)に就いていたことを前提にして検討します。

[2]自由化業務の派遣可能期間
 自由化業務の派遣期間は原則として1年間ですが、労働者の過半数代表者等の意見を聴取することで、派遣期間を3年間まで伸張することができます(派遣法40条の2第3項・第4項)。そして、3年に伸張した場合、派遣期間が同一の「就業の場所」で「同一の業務」に3年間を超えて従事するときは、希望する労働者に対して雇用契約の申込みをしなければなりません(派遣法第49条の4、35条の2、4条の2第1項)。
 ご相談のケースでは、経理で2年半勤務したあとに人事に異動しておりますが、仮に経理と人事が同一の「就業の場所」、「同一の業務」でなされたといえるときには、両者の派遣期間が通算されて、経理の派遣開始日が3年間の起算点となります。
 そこで、次に、同一の「就業の場所」・「同一の業務」の意味が問題となります。

2 同一の「就業の場所」、「同一の業務」とは

 同一の就業の場所、同一業務といえるかの判断基準について、以下のとおりに考えられています(派遣先指針(平11労告138号、平21年厚労告245号)第2の14)。

[1] 同一の「就業の場所」とは
 ①課・部・事業所全体等、場所的に他の部署と独立していること、②経営の単位として人事、経理、指導監督、労働の態様等においてある程度の独立性を有すること、③一定期間継続し、施設としての持続性を有すること等の観点から実態に即して判断します。

[2]「同一の業務」とは
 労働者派遣契約を更新して引き続き当該労働者派遣契約に定める業務に従事する場合は同一の業務に当たります。そして、派遣先における組織の最小単位において行われる業務は、同一の業務であるとみなされ、この場合における最小単位の組織としては、業務の内容について指示を行う権限を有する者とその者の指揮を受けて業務を遂行する者とのまとまりのうち最小単位の者をいい、係または班の他、課、グループ等が該当する場合もあり、名称にとらわれることなく実態により判断すべきものとされています。

3 本件の結論
 平成15年改正派遣法施行前は、「同一の業務」の判断の曖昧さを利用して、部署の移動を行うなど、企業による、本末転倒的対応が少なからず見られました(岩出誠「実務労働法講義[第3版](上)」<民事法研究会、2010>271頁)。そこで、形だけ異動させて派遣期間の制限を潜脱することを防ぐため、名称にとらわれることなく実態により判断する必要があります。
 たとえば、「経理部門と人事部門が別々の部屋である」、「同じ部屋にあってもそれぞれに『部長→課長→係長』といった指揮系統が構築されている」、「人事と経理で給与査定が別々に行われている」などといった要素があれば、場所の同一性または業務内容の同一性が否定され、派遣期間は、人事に異動した時点でゼロに戻る、と考えることができます。
 通常の会社であれば上記要素を満たすでしょうから、人事への異動が脱法的に行われ勤務の実態が変わらない場合を除くという留保つきで、人事に異動した時点が派遣期間の起算点となると考えられます。

対応策

就業場所の同一性および業務の同一性が認められない部門に配転すれば、派遣可能期間がゼロに戻ります。これらの「同一性」は名称ではなく実態により判断されるので、会社としては配転先の部署を選択する際に注意して下さい。

予防策

派遣法は今後も法改正が予想され、それにより運用の指針も変化する可能性があります。そのため、派遣業務の取扱いについては、とくに、制度の変化を正確に把握して対応することが必要となります。4 もう一つの可能性(参考)[1]問題の所在 以上は、前述1[1]のように、経理にいたときに実態としては26業務には従事していなかった場合についての検討です。しかし、可能性としては、経理部門での業務が専門的であり、26業務にあたるということも当然ありえます。しかし、人事部門での業務が26業務にあたることは考えにくいので(派遣法施行令4条参照)、その場合は、「26業務に2年半従事したあとで自由化業務に異動した場合の派遣期間の起算点」という問題が生じます。[2]考え方 この問題についても、26業務に該当する同一の業務に3年間従事した当該派遣労働者に対して属人的に発生する雇用契約申込み義務を定めた派遣法40条の5に照らすと、26業務に3年間従事する前に異動しているのですから、当該条項にあたりません。そこで、結局のところ、人事に異動した時点で、派遣期間のカウントはゼロに戻り、それ以後は、自由化業務の派遣期間がスタートすると考えるべきです。

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