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「2009年問題」の総括と今後の対応

弁護士 竹花 元
2010年8月掲載

「2009年問題」という言葉がかつて新聞や雑誌の紙面を賑わせていましたが、実際には去年1年間はあまりその言葉を聞かなかったように思います。2009年問題は現実化しなかったのでしょうか?2010年になったからもう心配する必要はないのでしょうか?

未曾有の不況の影響でいわゆる派遣切りが急増したため、結果的に2009年問題は社会的大問題には発展しませんでした。しかし、派遣期間満了後の派遣労働者の処遇は今後も問題となりえますので、企業には慎重な対応が求められます。

1 2009年問題とは
 平成15年の派遣法改正により、自由化業務の派遣期間が平成16年4月1日より最長3年間に延長され、製造業務にかかる労働者派遣も解禁されることとなりました。また、偽装請負が社会問題化した平成18年頃から、従来請負により処理していた業務を労働者派遣により処理するように切替えが進められました。そして、この時期に派遣を開始した者は平成21年に3年間の派遣可能期間が満了することから、派遣元および派遣先において、大量の派遣労働者に対して、直接雇用等の適正な対処が求められることが予想されていたのです。
これがいわゆる2009年問題です。
2 大きな社会問題にならなかった理由
 現実には、世界同時不況により、非正規雇用労働者の雇用調整弁としての役割・機能が顕在化し、派遣労働者にも「派遣切り」と呼ばれる事態が生じ、当初は、派遣期間満了を待たずに、その後、労契法17条1項等の規整を受けて、雇止めにより、職を失う派遣労働者が急増しました。その結果、3年間の雇用期間満了時の対応を本質とする2009年問題は、はからずも社会的大問題に発展するには至りませんでした。
 しかし、今後も、26業務以外の派遣労働者の派遣期間が3年間を経過したあとは、企業には同様の対処が必要となることに変わりはありません。
3 派遣期間満了後の派遣労働者の処遇
 派遣先指針(平11・11・17労告、最終改正平21・9・14厚労告)において、3ヶ月間のクーリング期間が定められています。すなわち、派遣先が3ヶ月の期間をあけずに労務の提供を受けた場合には、当該派遣先は、直前に受け入れていた労働者派遣から継続して役務の提供を受けているものとみなされます。そのため、3年間の派遣期間満了後3ヶ月以内に再度当該派遣労働者から労働者派遣の形式で役務の提供を受けることはできません。
 そこで、以下の対応策を講じることが必要となります。

対応策

期間満了後の3ヶ月のクーリング期間中に引き続き労務の提供を受けるためには、
① 派遣先において派遣労働者を直接雇い入れる、
② 請負に切り替える、
③ 直接雇用と請負を繰り返す、
などといった対応をすることが考えられます。
しかし、①から③を行う際にはいずれも注意すべき点があります。
まず、①は、(ⅰ)派遣先が直接雇い入れ、(ⅱ)クーリング期間経過後に派遣元が旧派遣労働者を改めて雇い入れることを派遣先と合意している場合等には問題が生じます。すなわち、この場合、旧派遣労働者が自由な意思に基づいて結果的に派遣先と雇用契約を締結する場合を除き、派遣先が旧派遣労働者を直接雇い入れている期間に旧派遣元と旧派遣労働者との間に支配従属関係が認められるため、業として行う場合には、禁止された労働者供給事業(職安法44条)となる可能性があります。
次に、②は、クーリング期間中に、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分基準」(昭61・4・17労告37号)に照らし、適正な請負事業として実施されている場合は、特段の問題は生じません。しかし、当該請負事業がいわゆる偽装請負によりなされている場合は、労働者派遣事業に該当し、労働者派遣法に違反することになります(平08・09・26通達)。
最後に、③は、直ちに派遣法違反とはなりません。ただし、派遣先において、同一の業務について恒常的に行われ、かつ、業務の取扱状況等に何ら事情の変化がないにもかかわらず、労働者派遣と請負または直接雇用を繰り返している場合などには、派遣法の趣旨に反するものとして雇止制限法理が適用される可能性があります(以上、対応策について、詳しくは岩出誠「実務労働法講義[第3版](上)」<民事法研究会、2010>272~275頁)。
なお、クーリング期間が経過しても、同一の業務に受け入れる場合には直接雇用又は請負によるべきであるとされています(平成20・9・26職発0926001号)。そのため、単に前回の派遣から3ヶ月期間をおけば再度の派遣が当然に適法になるわけではないことにもご留意ください。

予防策

 ②の対応策をとる場合には、前もって「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分基準」(昭61・4・17労告37号)の内容を正確に押さえたうえで労務管理を行う必要があります。
また、③で問題となる、雇止制限法理の適用には、雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況(契約更新時の新契約締結の形式的手続の有無)、雇用継続の期待を持たせる使用者側の言動(採用に際しての雇用契約の期間等についての雇主側の説明等)・制度の有無(正社員登用制度、定年、更新回数、同様の地位にある他の労働者の継続雇用の有無等)などが考慮されます。そこで、これらの要素を常に意識して労務管理を行うことが、問題の発生を予防します。

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