法律Q&A

分類:

派遣元の不法行為責任

弁護士 村林 俊行
2010年8月掲載

設問

派遣労働者Aが、派遣就業中、派遣先Xにおいて施設を損壊する等の違法行為を行った場合に、派遣元Yも派遣先Xに対して使用者責任(民法第715条第1項)に基づき損害賠償義務を負うのでしょうか。

回答ポイント

 派遣先Xの派遣元Yに対する使用者責任(民法第715条第1項)に基づく損害賠償請求が認められ得るが、その場合でも過失相殺により損害賠償額が減額される可能性があります。
解説
1 労働者派遣の意義
 労働者派遣とは、自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとされています(労派遣第2条1号)。具体的には、①派遣労働者と派遣元との間においては労働契約が、②派遣元と派遣先との間においては労働者派遣契約が、③派遣先と派遣労働者との間においては①及び②の各契約に基づき派遣先が派遣労働者に対して指揮命令するという関係が存在することになります。
2 派遣元の指揮命令関係(使用関係)は存在するか。
 派遣元と派遣労働者との間においては、労働契約が締結されています。しかし、派遣においては、派遣先が派遣労働者に対して指揮・命令することが予定されていることから(派遣法第2条)、派遣元と派遣労働者との間には「指揮命令関係(使用関係)」が存在するのかとの疑問が生じます。しかし、この問題は、結局は派遣元と派遣労働者との間において、「実質的な指揮命令の関係」が存在するか否かに帰着するのであり、ケースバイケースで判断せざるをえません。具体的には、派遣元からの給与支払の有無、派遣元からの監督の有無・程度、実質的な派遣料が派遣元による派遣労働者に対する指導・監督の対価の意味があるか、労働者派遣契約における派遣元の派遣先に対する損害賠償の規定の有無等を勘案して判断することになります(パソナ事件・東京地判平8・6・24 判時1601号125頁参照)。
3 派遣元に監督注意義務履行による免責は認められるか(民法第715条1項但書)
 民法上は、使用者は、被用者の選任監督につき相当の注意を払った場合には使用者責任を免責されます(民法第715条1項但書)。しかし、使用者責任は、「利益の存する所損失も帰す」という報償責任・「危険を支配する者が責任も負う」という危険責任を根拠として、被用者の不法行為責任を代位責任と解する見解が支配的となったことから、戦後において判例上において免責を認めた例は報告されていません。従って、派遣元が監督注意義務履行による免責を主張しても、認められる可能性は低いものといえます。
4 派遣先の注意義務違反による過失相殺は認められるか
 仮に派遣元が使用者責任を負担することを前提としても、派遣先による指揮・命令上の監督・注意義務違反の有無・程度を主張・立証することにより、過失相殺による損害賠償金額の減額を図ることが考えられます。というのは、派遣においては、派遣先が派遣労働者を指揮・命令する関係にあることから、派遣先にも損害の公平な分担の観点より損害を負担させることもありうるからです。
この点、判例においては、派遣労働者の派遣先での業務上の文書偽造行為につき、派遣元の使用者責任は認めつつ、派遣先に5割の責任を認めて過失相殺をしているものもありますが(テンプロス事件・東京地判平15・10・22 判時1850号70頁)、前記パソナ事件判例においては、派遣元の労務管理が不十分であったこと等を理由として過失相殺を認めませんでした。

対応策

実際上、派遣元として効果的な主張とすれば、派遣元が使用者責任を負担することを前提としても、派遣先による指揮・命令上の監督・注意義務違反の有無・程度を主張・立証することにより、過失相殺による損害賠償金額の減額を図ることになると解されます。

予防策

1 派遣先としては、派遣元との労働者派遣基本契約において、派遣元に対する損害賠償請求ができる条件・範囲等を明確にしておく必要があります。2 派遣先としては、派遣元に派遣労働者の不法行為に関する身元保証的な包括的根保証特約を求めておくことが賢明であるといえます。3 仮に派遣元につき派遣先に対する損害賠償責任が認められる場合にも、派遣先の過失相殺が認めやすいようにするため、派遣元につき労務管理に遺漏ないように対応しておく必要があります。

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