法律Q&A

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派遣先のセクハラ防止措置義務

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
弁護士 難波 知子(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2011年01月:掲載

派遣先のセクハラ防止措置義務

派遣先の社員が派遣労働者に対しセクシャル・ハラスメント(以下「セクハラ」といいます)を行なった場合、派遣先は責任を負うのでしょうか。派遣先は社内でのセクハラに関しどのような対応をする必要があるのでしょうか。

均等法のセクハラ防止措置義務に関する規定が派遣元のみならず、派遣先にも適用されますので、派遣先もセクハラ防止措置をとる必要があります。派遣先が被害派遣労働者に損害賠償責任を負うことも十分にありえますので、派遣先は就業規則の整備、当事者の意識改革等を行い、トラブルを未然に防ぐ必要があるでしょう。

1 均等法のセクハラ防止措置義務
労働者派遣においては、派遣労働者には、派遣先との間には直接雇用関係がありませんので、派遣労働者がセクハラを受けた場合、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保に関する法律(以下「均等法」といいます。)11条1項のセクハラ防止措置義務は事業主に課せられていることから、派遣元に訴えるしか手段がないかにも思われます。
2 派遣先のセクハラ防止措置義務
 しかし、労働者が現実に就労しているのは派遣先の事務所であり、作業の指揮命令、業務管理を行なっているのも派遣先です。また、派遣労働者には女性が多く、現実に派遣先においてはセクハラに関する問題が数多く生じています。そこで、労働者派遣法47条の2では、派遣先にも、均等法11条1項の規定が適用されると定められており、男女問わず派遣先も当該労働者が就労する職場におけるセクハラ防止のために雇用管理上及び指揮命令上必要な措置を講じなければならないとされています。そして、「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」(セクハラ指針。平成18・10・11厚生労働省告示第615号)によれば、事業主は①事業主の方針の明確化及びその周知・啓発(就業規則への記載、社内報等への記載及び配布、研修等の実施等)②相談・苦情への対応(相談窓口の定め、適切な相談への対応等)③職場におけるセクハラが生じた場合における事後の迅速かつ適切な対応(双方からの事実確認、謝罪、配転等適切な措置等)④被害申出等を理由とした不利益取扱いの禁止等のいずれについても適切な措置を講じなければならないとされています。
3 損害賠償請求の可能性
なお、派遣労働者がセクハラ被害に合った場合には、派遣元会社、セクハラを行った社員のみならず、派遣先会社も損害賠償責任(使用者責任、債務不履行責任)を負う可能性があります。近時、派遣労働者が、派遣先の会社の上司からセクハラを受けたため抑うつ神経症を発症したとして、派遣元会社と派遣先会社に対して不法行為に基づく損害賠償を求めた訴訟において、派遣先会社の上司のセクハラ行為を認定し、派遣先に対する慰謝料請求を認めた裁判例が出ました(奈良地判平成22・6・15(平成20年(ワ)第1020号)判例集未登載、なお、セクハラと抑うつ神経症の発症との間の因果関係は否定。)ことからも、十分な注意が必要といえます。

予防策

1 就業規則等の整備の必要性
以上より、派遣先企業も、上記指針に沿った対応をし、未然にセクハラを防止すべきです。企業の最近の就業規則の上でも、明確に、派遣労働者等企業内で稼動する労働者に対するセクハラ禁止規定が置かれるようになっています。例えば、

(セクシュアル・ハラスメント等の人権侵害の禁止)
第●条 職員は以下に該当することのないようにしなければならない。
(1)人種、宗教、性の違い等に関して、関係者に不快感を与え、あるいは、正当な理由なく、威嚇・恫喝し、又は、身体に接触したりするなど、職場及び職場外での性的な言動等によって他の会社関係者(職員、その他の雇用関係下にある者の他、派遣や委託等により就労する者、取引先関係者を含む。以下、「関係者」という)に不快な思いをさせることなどにより、人格権を侵害し、職場の環境を悪くすること
(2)職務中の関係者の業務に支障を与えるような性的関心を示したり、性的な行為をしかけること
(3)職責を利用して交際を強要したり、性的関係を強要すること
のような規定が考えられますので、未だ自社の就業規則に当該事項が記載されていない場合、規定の挿入を検討してください。

2 また、単にセクハラと軽く見ていると、企業・加害者・被害者の3者(及びその代理人)を交えた示談交渉や、訴訟に発展する等予想外の大きな問題になる可能性が十分にあります。したがって、派遣先としては、セクハラ指針を踏まえて、セクハラ発生防止と苦情相談窓口の整備等の損害拡大防止態勢の整備等に関する諸規定整備、研修会等によりセクハラは大きな問題であるとの意識改革等に加え、問題が発生した場合には、前述の相談窓口で、加害者、被害者双方の言い分を確認するとともに、派遣元と連携し早期に円満に解決すべく最大限の努力をすべきでしょう。

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