法律Q&A

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労働契約と請負契約の区別

弁護士 木原康雄(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2011年05月:掲載

労働契約と請負契約の区別

ハローワークでシステムエンジニアの仕事を探していたところ、「SE/プログラマー」を募集しているA社があり、面接を受けたところ、「別の会社でシステムエンジニアとして働き、報酬は、当初3ヶ月間は月額35万円、その後は能力・業績により40万円~50万円に増額する」との説明を受けました。私としても異存はなかったため、A社と期間を定めずに契約しました。その後、A社はB社との間で労働者派遣契約を締結し、これに基づき私は、B社のEC事業部に配属され、B社の正社員の指示を受けてシステムエンジニア兼通訳業務に従事していました。ところが今般、B社との間の労働者派遣契約が終了することになったようで、A社社長が私に対し、「B社との契約がなくなるので、あなたとの契約も終了となる」と通告してきました。私は、A社と労働契約を締結しており、B社の仕事がなくなったとしても労働契約は続くものと思っていたのですが、A社社長は、「請負契約だから、仕事がなくなったら終了となる。請負契約であるので、報酬から源泉徴収もしていない」と主張しています。A社の主張は認められるのでしょうか。

A社との関係は労働契約関係であり、契約終了通告(解雇の意思表示)は無効と判断される可能性が高いといえます。

上記事例の題材となっているのは、インフォメーション・コンポーズ・クリエイション事件(東京地判平21・1・14判例集未搭載)ですが、この判決は、A社との関係は労働契約関係であるとした上で、期間の定めのない労働契約であるから、B社の仕事がなくなったからといって労働契約が終了するものではなく、A社による契約終了の通告(解雇の意思表示)は、合理的理由を欠き、権利濫用にあたり無効であるとしました。労働契約であると認定した理由は以下のとおりです(一般的な労同意契約と請負・委託との判断基準に関しては、岩出誠「実務労働法講義〔第3版〕」上巻[民事法研究会・平22]25頁以下、本Q&Aの岩出 誠「派遣労働者から個人事業主への変更」 https://www.loi.gr.jp/knowledge/businesshomu/homu04/houmu10-02-07.html 参照)。

①労働者(X)は、労働者派遣契約に基づき、B社に派遣され、システムエンジニア兼通訳として稼動していた

②業務の遂行に際しては、B社の正社員である上司から指示を受けていた

③B社によって稼動場所、就業時間及び休日が定められており、出退勤を業務日報で報告し、職場の上司の確認を受けて管理されていた

④A社から基本給と諸手当で計算された月給制による報酬を受領し、時間外労働に対しては割増単価に残業時間を乗じた残業代が支払われていた

⑤そうすると、Xは派遣先であるB社の指揮命令下で労務を提供し、派遣元事業主であるA社から、この労務提供の対価として報酬を得ていたと評価することができるから、Xは労働基準法上の労働者に該当し、本件契約は労働契約であると認められる

⑥A社は、Xが源泉徴収されない報酬を受領していたことを主張して労働者性を否定するが、A社が源泉徴収を行わなかった結果にすぎず、Xの労働者性を否定する事情にはあたらない

予防策

「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区別に関する基準」(昭和61・4・17日労告37号)では、請負と認められるには、

①完成すべき仕事の内容、目的とする成果物、処理すべき業務の内容を具体的に特定していること
②業務上の独立性や業務を遂行する上での裁量があること
③就業時間等の労務管理を請負人自身が行なっていること
④仕事の完成等に対する報酬又はその定め方を明確にしていること
⑤使用する機械、工具、消耗資材等は原則として請負人が用意すること
⑥仕事の依頼に対する諾否の自由があること

等を求めていますが、上記裁判例もほぼこの基準に沿って検討し、請負に該当しないと判断しているものといえます。上記紛争は、契約当初に、契約の内容を明確に約束していなかったために生じたものといえます。紛争を防止するためには、契約当初に、労働契約なのか請負契約なのかを明確にし、請負契約であるとすれば、上記区別基準に沿った定めをしておくことが必要です(上記裁判例もいうとおり、源泉徴収や社会保険の控除をしないからといって、請負契約になるわけではありません)。なお、労組法上の労働者概念に関する判断ですが、高裁判決があいついで覆されて、労働者性が認められた最近の最高裁判例にも注目すべきです(国・中労委(INAXメンテナンス)事件・最小判平成23.4.12最高裁HP掲載、国・中労委(新国立劇場運営財団)事件・最三小判平23.4.12最高裁HP、厚労省の労使関係法研究会の労組法上の労働者性の判断基準の検討資料も参考になります。http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000017yod.html 参照 )。

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