一定の事業の完了に必要な期間で有期雇用する場合の制限
7年間の中期経営計画期間中、新事業立ち上げに必用な人材を有期雇用したいと考えています。労基法14条では「一定の事業の完了に必要な期間を定めるもの」については、法定3年の契約期間の制限対象外とみられますが、この場合、条文にある「事業」や有期契約期間については制限がないものと考えてよいでしょうか。また、雇用契約書上では、中期経営計画の年度開始日と終了日を示すだけでよいのでしょうか。
ご質問のケースは「一定の事業の完了に必要な期間を定めるもの」に該当するとは考え難いため、3年(一定の要件に該当する場合には5年)を超える期間の労働契約を締結することはできないものと考えます。したがって、雇用契約書におきましても、3年(または5年)の期間内で具体的な契約期間を定める必要があるでしょう。
- 1.労働契約の期間
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期間の定めのない労働契約は、原則いつでも(民法627条の定める予告期間は必要ですが)、労働者の側から解約することが認められています。しかし、労働契約の期間が定められると、当事者は、やむを得ない事由がない限り、契約を途中で解除することはできません(民法628条)。このため長期労働契約による人身拘束の弊害を排除するため、労働基準法では、労働契約の期間は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、3年が上限とされています。
ただし、①専門的な知識、技術又は経験(以下この号において「専門的知識等」という。)であって高度のものとして厚生労働大臣が定める基準(※1参照)に該当する専門的知識等を有する労働者(当該高度の専門的知識等を必要とする業務に就く者に限る。)との間に締結される労働契約、または②満60歳以上の労働者との間に締結される労働契約(①に該当する場合を除く。) のいずれかに該当する場合には、上限が5年となります(労基法第14条第1項)。従って、今回の採用予定者が、①または②に該当する場合には、最長5年の契約とすることが可能です。※1
労働基準法第14条第1項第1号に基づき高度の専門知識等として、厚生労働大臣が定める基準(平15・10・22厚労告356号)概略
イ.博士の学位を有する者
ロ.公認会計士、医師、歯科医師、獣医師 、弁護士、一級建築士、税理士、薬剤師、社会保険労務士、不動産鑑定士、技術士及び弁理士、
ハ.システムアナリスト、またはアクチュアリーの資格試験に合格した者
ニ.特許発明の発明者、登録意匠を創作した者または登録品種を育成した者
ホ.農林水産・ 鉱工業・ 機械・電気・土木・ 建築の技術者、システムエンジニア、デザイナーであって、大学卒業後5年、短大・高専卒業後6年、高校卒業後7年以上の実務経験を有する者、またはシステムエンジニアとしての実務経験5年を有するシステムコンサルタントであって、年収1,075万円以上の者
ヘ.国、地方公共団体、公益法人等によって知識等が優れたものと認定されている者
- 2.「一定の事業の完了に必要な期間を定めるもの」という例外への該当性
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前述のように、「一定の事業の完了に必要な期間を定めるもの」については、労働契約の期間について、3年(または5年)という制限を受けないことになります。
ここでいう「一定の事業の完了に必要な期間を定めるもの」とは、「例えば4年間で完了する土木工事において、技師を4年間の契約で雇い入れる場合のように、その事業が有期的事業であることが客観的に明らかである場合であって、その事業の終期までの期間を定めて契約することが必要である」とされています(平成22年版 厚生労働省労働基準局編『労働基準法』改定新版 労務行政 上巻213頁参照)。
このほか、学説としては、「事業」について、「ダム、トンネル、橋梁工事、コンピューターの特定システム開発、展示会などのイベント事業のように、時限的に特定性(または独立性)のあるプロジェクト業務」と広く解する見解もありますが、その一方、「一定期間事業所を設置し、終了の際には閉鎖をするプロジェクトのためのもの・・・」とし、例外に該当するには、特別の事業所の設置を求める見解もあります(東京大学労働法研究会『注釈労働基準法』有斐閣 上巻275頁)。
ご質問のケースをこれらに照らして検討した場合、中期経営計画には、期間の定めがありますが、計画終了後も会社の事業は継続していくわけで、例外でいうところの「事業」に該当するとは言い難いため、3年(または5年)を超える期間の労働契約を締結することはできないものと考えます。
したがって、雇用契約書におきましても、当該制限期間内で具体的な契約期間を定める必要があります。 - 3.上限期間を超える契約が締結された場合
- なお、3年(または5年)の上限期間を超える契約が締結された場合には、実際に当該期間を超える労働をさせなくとも、当該契約を締結した時点で労基法14条違反が成立すると解されます(前掲『労働基準法』上巻2271頁)。また、労基法13条の強行的・直立的効力が適用され、契約期間は、3年(前述1.①または②に該当する場合には5年)となります(平15・10・13基発1022001号。裁判例として、旭川大学事件札幌高判昭56・7・16労民集32巻3=4号502頁など。)。
対応策
前掲のように、労働契約の期間は、期間の定めのないものを除き、労基法14条1項による契約期間の上限があります。
しかし、同条は、更新を制限するものではありませんので、更新をすることによって、結果、上限を期間を超えたとしてもそれは本条に違反するものではありません。
逆に下限については、労基法には定めはありませんが、労働契約法17条2項において、「使用者は、期間の定めのある労働契約について、その労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。」とされています。また、いわゆる「雇止め基準」(「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」平成15年厚生労働省10月22日厚労告357号(平成20年3月1日一部改正))でも、「使用者は、契約を1回以上更新し、かつ、1年を超えて継続して雇用している有期契約労働者との契約を更新しようとする場合は、契約の実態及びその労働者の希望に応じて、契約期間をできる限り長くするよう努めなければならない」とされています。
なお、紛争予防の観点から、有期労働契約の更新状況等については、運用管理マニュアルを作成するなどして全社的に周知・徹底した管理を行うことが必要でしょう。