法律Q&A

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不更新条項の有効性

弁護士 竹花 元(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2011年09月:掲載

有期労働契約を反復継続した後の不更新条項に基づく雇止め

有期労働契約が反復更新している労働者との間で、更新の際に「今回の更新が最後であり、次回は更新しない」という文言(不更新条項)が記載された新たな契約書を取り交わしました。契約期間満了時に労働契約を終了(雇止め)できるのでしょうか。

不更新条項を入れることによって基本的に次回の更新時に労働契約が終了しますが、契約書に不更新条項が明記されていても、不更新条項への合意が認められなかったり、詐欺・脅迫・錯誤による合意であるとされ、雇止めができない場合があるので注意が必要です。

1 問題の所在
  本稿では、不更新条項が付される前の有期労働契約が、反復継続されることにより解雇権濫用法理(解雇をするには合理的かつ相当な理由が必要であるという考え方。労契法16条参照。以下略して「解雇法理」ともいいます。)が類推適用される状態にあることを前提に考えます。解雇法理が類推適用されない有期労働契約であれば、不更新条項がなくても使用者は有効に雇止めをできるからです。
  それでは、有期労働契約に解雇法理が類推適用されるとして、労働者が不更新条項付きの契約書にサインしたのであれば、「期間満了時に雇用契約終了の合意がある」として契約期間満了により労働契約は終了するのでしょうか。この点、労働者の雇用契約終了の意思について有無を評価するにあたっては次の2点に留意する必要があります。
 ①労使間には立場の優越性があること

     労働者は不更新条項が付された契約書にサインするか、これにサインせずにその時点で雇止めされるかのいずれかを選択せざるを得ない状況に置かれがちです。多くの労働者はその時点で雇止めされる(法的な有効性評価は別問題ですが)よりも、少しでも長い間就労できる方が「まし」と考え、不更新条項付の契約に同意せざるをえないことが多分に予想されます。

 ②解雇法理類推いかんにより労働者の地位に決定的な違いがあること

     解雇法理が類推されるか、されないかにより、労働者の保護の度合いに極めて大きな違いが存します。すなわち、不更新条項への合意を認めることは、解雇法理の類推が排除され、期間満了により労働契約が終了することを意味します。

 これらの2点に鑑みると、労働者の不更新条項への合意を認定するには相当に慎重な判断が要求されるといえます。

2 裁判所の判断
[1]雇止めが無効とされた例
 労働者が継続雇用を希望していることが明らかな場合には、労働者が不更新条項を含む契約書に単に署名・押印しただけでは、雇止めに対する合意が認められないとするものがあります(たとえば、ダイフク事件・名古屋地判平7・3・24労判678号47頁)。
 最近でも、京都新聞COM(仮処分)事件・京都地決平21・4・20 労判981号165頁では、更新年限の上限の定めが認められず雇止めが否定され、明石書店事件・東京地判平21・12・21労判1006号65頁でも、不更新予定条項の追加の理由や不利益変更の目的について説得力のある説明をしていなかったことに加え、契約社員との間で有期労働契約を締結しておきながら、その取扱いを正社員登用か不更新予定条項の追加のいずれかに限定し、契約の反復更新の可能性を排除するというY社の方針は、それ自体不合理であることなどが認められ、これらの事実等によれば、本件契約は、これまでの更新回数は少ないが、少なくともある程度の継続が期待されるとされ、アンフィニ(仮処分)事件・東京高決平21・12・21労判1000号24頁でも、期間の途中で契約期間を短縮する合意の有効性も否定され、京都新聞COM事件・京都地判平22・5・18労判1004号160頁では、3年を超えて更新しないという取り決めが周知されていなかったことなどを理由として雇止めが無効であるとされ、明石書店(製作部契約社員・仮処分)事件・東京地決平22・7・30労判1014号83頁でも、1年有期契約の3回目の契約に挿入された(最終)不更新条項についても、雇用調整を行うことの合理性なしとしてその効力が否定されています。

[2]雇止めが有効とされた例
 一方、不更新条項付きの契約書に本人の署名・押印があるだけでなく、退職餞別金の通知を受けていること、期間満了前に有給休暇を取得していること、契約更新前に説明会を開いたこと、使用者を訴えた者もそこに出席をしたこと、使用者に対して事前に不更新条項について反対の意思を表明していないこと等から不更新の合意は存在し、その合意に基づき労働契約は期間満了により終了すると判断する裁判例があります(近畿コカ・コーラボトリング事件・大阪地判平17・1・13労判893号150頁)。また、複数回の面談を行い、その中で使用者が労働者に労働契約を更新しない旨を明確に告げるなどの事情から、労働者が事態をよく理解して任意に意思決定をしていることが推認され、使用者が脅迫・詐欺により不更新条項に同意させたとか、労働者に錯誤があったとはいえず、不更新の合意に基づき期間満了により労働契約が終了すると判断した裁判例もあります(日立製作所(帰化嘱託従業員・雇止め)事件・東京地判平20・6・17労判969号46頁)。
 また、更新回数限度の合意が有効とされて雇止めが有効と去る場合もあります(報徳学園(雇止め)事件・最一決平22・9・9労判1023号98頁では、学校法人Yの美術科常勤講師の更新回数限度の有効性を認め、専任教諭への登用の期待も合理性な根拠が乏しいとして雇止めを認めた高裁判決を維持されました)。

対応策

以上見てきたように、使用者としては、不更新条項が付された契約書を取り交わすだけでは必ずしも不十分で、「不更新合意の不存在」、「錯誤無効」(民95条)、「詐欺・強迫」(民96条)にあたらないようにしなくてはなりません。そのために、労働者に対して、労働契約法4条1項を踏まえた説明責任の観点からも、個別面談や説明会を通して使用者側の事情をよく説明し、労働者に自らの意思で契約書に署名・押印させることが必要です(なお、本稿では触れるにとどめますが、「変更解約告知類似のケースとしての留保付承諾」も問題となりえます。最近でも、河合塾事件・最三小判平22・4・27労経速2075号3頁が、担当コマ数を削減するという法人の判断はやむを得ず、合意に至らない部分につき労働審判を申し立てるとの条件で週4コマを担当するとの被上告人の申入れに上告人が応じなかったことも、上記事情に加え、そのような合意をすれば全体の講義編成に影響が生じ得ることからみて、特段非難されるべきものとはいえず、更新の交渉過程で不適切な説明をしたり、不当な手段を用いたりした等の事情があるともうかがわれないこと等の事情の下では、平成18年度の出講契約の締結へ向けたBとの交渉における法人の対応が不法行為にあたるとはいえないとし、25年間毎年更新された契約の雇止めが認められています)。

予防策

 究極のところ、使用者として更新してきた有期契約の雇止めに当たって円満に対応するための予防策は、雇止めの直前の最終の更新に当たって「今回の更新をもって最終とし、次回の更新をしない」とか「時期の更新がなされないことについて合意する」といった不更新の合意を当事者間ですることですが、その際に重要なことは、この点について、客観的にかかる雇止めの必要性が一定認められたうえで、その事情を使用者が誠実説明し、労働者の自由意思によって合意がなされることです。
 実務上、この「自由意思による合意」の立証のためのプラスアルファの措置や条件が重要です。たとえば、期間満了による一時金の支払い、期間満了前の年休完全消化の合意、期間満了時の年休の買上げ、期間満了後の他への求職上の便宜の提供などが、自由意思を基礎づける+αの条件・要素となります。

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