法律Q&A

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労働組合結成の手続と注意

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2007年1月補正:掲載

組合を作る場合、どのような手続が要りますか。役所に届け出る必要がありますか。まず規約を作らなければなりませんが、それにはどういうことを規定すべきでしょうか。

回答ポイント

 現行法上、労働者は、労働組合を自由に作ることができますし、またできた組合が労働組合法上の労働組合であるとされるためにも届出や許可も要りません。
解説
1 現行法上の労働組合の概念
 労組法上は、「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体またはその連合団体」(労組法2条本文)はその名称のいかんを問わずすべて労働組合です。つまり、労働者がこれから作ろうとする団体あるいはできた組織がこれだけの条件(組合の団体性と自主性等に関する実質的要件)を備えていれば、労働者は民事・刑事の免責(労組法1条2項、8条)、および不当労働行為からの救済を受け(同7 条)、組合の締結した労働協約は規範的効力(労組法16条、労働協約・労使委員会決議・労使協定・就業規則[基礎編]Q2参照)ならびに一般的拘束力(同 17、18条、同[実務編]Q1参照)をもつことになります。

 労組法は、憲法28条の労働三権の保障を受けて、労使対等の理念に基づく団体交渉の助成のために右のような積極的な保護を与えているのです(労組法1条1項)。
2 組合の団体性
 但し、仮に組合員が「孤立」している状態が、「全くの一人」を意味するとなると、組合の実質的要件としての団体性を欠くこととなり労組法上の保護が受けられなくなります。つまり、労組法上の労働組合は、「団体またはその連合団体」であり、ここでいう「団体」とは、二人以上の複数人の結合であって、規約を有し、その運営のための組織(とくに役員と財政)を持っているものをいうと解されているからです(例えば、岡山地判昭39.7.7 友浦鉄鋼所事件 労民 15巻4号825頁)。しかし、一旦成立した労働組合が使用者の切崩し等によって組合員一人となってしまった場合にも、組合員増加の一般的可能性があるかぎり団体性を失わないと考えられていますし、個人加入と団体加入の双方を認めている混合組織も「団体またはその連合団体」に該当すると解されています。
3 組合の自主性
 労組法は、労働組合の実質的要件として、前述の通り「自主性」を挙げています。自主性は、とりわけ使用者からの「独立性」を重要な内容としており、結成についてばかりでなく、その後の維持・運営についても必要とされています。問題は、「独立性」の内容乃至程度です。この点については、結成や運営につき実質的に使用者の支配を受けていると認められる組合は労組法の保護を受けられない組合であると説く(そしてそのような組合を「御用組合」と呼ぶ)見解が従前から有力です。

 これに対し、最近、実質的に使用者の支配を受けているか否かということは、微妙な判定を要するばかりでなく、労使対決か協調かといった自主的運動方針とも混同されやすく、実質的支配を目論む使用者の行動は「支配介入」の不当労働行為によって対処することが予定されている(労組法7条3号)ことなどから、「自主性」は、実質的独立性を指すのではなく、組織・機構上の独立性(制度的独立性)を意味すると解し、労働組合の要件の問題ではないと考える見解が有力に主張されています。

 しかしながら、不当労働行為制度の救済があったとしても、そのような労働組合の存在を認めると、その組合の労働協約による労働者への不当な拘束力の問題(時間外労働・出向労働義務等の発生)が防止できず、認定上の困難は別として、理論上は旧来の有力説が妥当ではないかと解されます。

 なお、「労働組合」の要件である「自主的に」について労組法は、定義規定(2条)の但書に二つの要件を規定しています。

 第一は、使用者の利益代表者を参加させてはならないことです(但書1号)。これは、労働組合の自主性確保の見地から、団体交渉関係において使用者側の立場にある者を非組合員とした規定です。これによって非組合員とされるのは、[1]「役員」(取締役・監査役・理事・監事など)、[2]「雇入解雇昇進または異動に関して直接の権限をもつ監督的地位にある労働者」(人事権をもつ上級管理者)、[3]「使用者の労働関係についての計画と方針とに関する機密の事項に接し、そのためにその職務上の義務と責任とが当該労働組合の組合員としての誠意と責任とに直接抵触する監督的地位にある労働者」(労務・人事部課の管理者など)、および、[4]「その他使用者の利益を代表する者」(社長秘書・会社警備の守衛などです。ただし、従業員に対する取締的権限を持たず、外来者の受付、施設の巡視などだけを行なう守衛は入りません。

 ところで、ここで管理職組合という言葉が話題になっています(管理職ユニオンという組合も有名です)。上記の利益代表者たる管理職を参加させた組合は労働組合とは言えないのではないかとの議論があります。しかし、裁判例は、この点につき、やや柔軟な対応を示しています。即ち、管理職の参加を許す労働組合も、労働組合法7条2号の「労働者の代表者」に含まれるので、当該組合に利益代表者たる管理職が参加していたとしても、また参加していないことを使用者に対して明らかにしていないとしても、そのこと自体は、当然には団交拒否の正当な理由にはならないとして、労働組合としての資格を認めた裁判例があります(東京地判平成11.6.9労判763-12 セメダイン事件、同控訴審・東京高判平成 12.2.29労判807号7頁、上告審・最一小決平成 13.6.14労判807号5頁でも支持されています。その他、東京地判平成12.2.7労判779-20 伊藤製菓事件は、取締役として役員手当を受け、社内でも部門責任者的な立場にあった者であっても、その者の加入が労働組合の自主性を損なう危険が大きいとはいえない場合には労組法2条ただし書1号の利益代表者には該当せず、同組合と会社とが締結した退職金に関する労働協約は有効であるとして、会社の元従業員らによる未払退職金の支払請求を認容しています。その他、スタッフ専門職が利益体表者にあたらないとされた例として、東京地判15.10.1労判864号13頁 日本アイビーエム事件等があります)。

 第二の要件は、「団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助を受け」ないことです(但書2号)。ただし、労働時間内における有給での使用者との協議乃至交渉、組合の福利厚生基金への使用者の寄付および最小限の広さの事務所の供与は、「経理上の援助」に該当しません(同号但書)。

 「経理上の援助」に該当し得るものとしては、組合用務のための出張旅費・手当の支給、組合専従役職員の賃金の負担などです。しかし、組合事務所の光熱費負担、就業時間中の組合活動に対する賃金の不控除などは、以上列挙された例外に準ずるものとして、それに該当しないとの見解が有力です。

 そして、不当労働行為制度上も、使用者の経費援助は、右同様の規定をもって右第二の但書の場合を除いて禁止されています(労組法7条3号)。

 ところで、労組法2条本文の自主性の要件と以上の二つの但書の関係については、上記二つの要件は、特別の要件を設定したものであり、二つの要件のいずれかに該当する場合は、自動的に労組法上の組合とは認められないとの見解も有力ですが、多数学説と裁判例は、但書の二要件は、本文の自主性要件の充足を判断するための例示規定であり、したがって、但書の二要件に当たるような場合でも、例えば会計人事担当者のような使用者の利益を代表する者が組合員であり、または専従に対する給与支払いといった経費援助を受けていてもそれだけでただちに組合の自主性がないとはいえないのであり、実質的に自主性を失っていなければ労働組合であると解しています。

 労組法7条3号により使用者に対して禁止して、労働組合を保護しようとしている正にその行為にさらされた労働組合を形式的に「自主性不備組合」として排除するというのは労組法上の論理解釈上矛盾を生じるものであり、多数説・裁判例が妥当と解されます。
4 結成手続
 質問については、前述の通り現行法は、労働組合の作り方については、自由設立主義をとり、なんらの規制も行なっていません。旧労組法のような届出も、ましてや会社の場合のような登記手続も必要ありません。もちろん使用者の認知・承認を受ける必要もありません。したがって、労働組合を結成するということは、その名に値する前述のような目的と、団体性や自主性等の要件を満たす団体が存在するという実体を作ることにつきるわけですが、団体性については、これらの構成員を結合し組織づけるための規約があり、それに基づいて代表者が決まっている、という事実が存在しなければなりません(最判昭25.7.11 茨城貨物自動車事件 刑集4巻7号1275頁)。つまり、いわゆる争議団は原則として入らないということです。

 ともあれ、結成手続についての法の定めはなくても、右のような労働者の団体としての実体をそなえるという目的にそって、労働組合を結成するには、おのずからおおよそ一定した手続ができ上がっているようです。まず、労働組合を作ろうという意欲に燃える労働者が現われて発起人となり、これに幾人かが加わって結成準備委員会が作られます。そこでは、どのような労働組合を作るかということで、組合規約の原案になる事項や構成員とすべき者などが具体的に話し合われます。これが終わると、ついで結成趣意書などを配布し、結成への参加呼びかけが行なわれ、賛成者によって署名簿が作られます。このようにして構成員が決まっていき、その中で組合規約案も固まってくると、最後に組合結成大会が開かれます。ここで組合規約が承認され、構成員が確定し、規約に基づいて組合三役などの代表者が選出されます。ここに至って労働組合という団体が完全に出現したことになるわけです。そして、この段階で、団体交渉の労働者側当事者が生まれたことを相手側に伝える意味で、使用者に対して労働組合結成通知が行なわれることが多いようです。
5 組合規約の記載事項
 前述4のように、組合規約は労働組合の結成に当たって欠かすことのできない重要なものとされています。というのは、組合規約というものは、労働組合という団体についての組織・運営に関する根本規則で、その労働組合のあり方を方向づけ決定するものだからです。組合規約が決まりますと、結成当時の構成員はもちろん、将来の加入者までもそれによって拘束されることになります。したがって、組合規約を作るときは、どのような組合を作ろうとするのかをよく検討して、自主的に作るという心構えが必要です。また、でき上がった組合が民主的に運営されるような配慮をしておくことも忘れてはなりません。労組法5条2項は、労働組合が民主的に運営されることを確保する意味で、組合規約に最小限含まれなければならない事項(いわゆる組合の民主性に関する形式的要件)として、名称、主たる事務所の所在地、組合員の平等取扱い、組合員資格についての差別的取扱いの禁止、役員の直接無記名投票による選出、総会の少なくとも毎年年一回開催、会計報告の公表、直接無記名投票の過半数による同盟罷業開始の決定、規約改正方法など9項目を挙げています。したがって、質問については、以上のような項目は法の要求を待つまでもなく、組合規約に盛り込むべきですが、このほか、目的、事業、議決機関、執行機関、それら機関の権限・運営、財政などにわたって、組合のあり方を考えながら、記載していくべきでしょう。
6 規約不備組合
 ところで、労組法2条本文・但書1号2号の実質的な自主性の要件には合致するが、規約の必要記載事項(同5条2項)の要件を満たさない労働組合(いわゆる規約不備組合)は組合自体としては資格審査(同5条1項)を通過せず、したがって労組法に規定する手続に参与する資格を持たず、かつ同法に規定する救済を与えられません。また、法人格も取得できません(同11条)。しかし、労働組合の定義の基本的要件(2条本文)を満たすので、民・刑事の免責および裁判所における不利益取扱いからの保護を受けるのはもちろん、右定義の全要件に合致する以上、労働協約の締結主体たる労働組合(同14条)には該当しますので、それを締結すれば関係規定(同14条乃至18条)の適用は受けます。もっとも、資格審査の実務においては、補正勧告によってほとんどすべての組合が規約上の要件を備えることとなるようです。
7 個人加盟の企業横断的組合への加入
 なお、以上の説明は、主に、企業内で新たに労働組合を結成する場合についての説明でした。実際、我が国の労使関係は、欧州の労働組合法制よりは、従業員代表委員会法制に近いものに変質してきた言われている通り(菅野和夫「雇用社会の法」新版(有斐閣)226頁)、今でも、労動組合の主流はいわゆる企業別労働組合です。

 ただし、最近の重要な傾向としては、企業別組合が組織率・組合数自体を減らしている中で(平成17年の組織率に関しては、連合の予測でも、18.2%で、戦後最低記録を更新中です)、企業の枠内に関係のない、企業横断的な個人加盟の合同労組・一般労組(全国一般、管理職ユニオン、女性ユニオン等)が、労使紛争の中で、大きな役割を果たしていることです。

 そして、企業内に前述のような二人以上の組織を結成できない場合には、このような個人加盟を認める組合に参加して、前述の団体交渉等の労働組合の権利を有効利用することも検討されるべきでしょう。

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