法律Q&A

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使用者の言論の自由と支配介入

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2007年1月補正:掲載

使用者にも言論の自由が保障されている筈ですが、役員又は管理職による朝礼や各段階の会議における発言が不当労働行為とされないようにするには、どのような点に注意すべきでしょうか?

A社の社長や管理職が、団交に留まらず、経営会議や職場での営業会議で、同社のB労組の活動につき、批判したり、B組合のストライキ突入に対して抗議したり、あるいは、A社の経営方針の説明などをすることにつき、B組合は、ことある毎に、そのような経営側の発言は、支配介入の不当労働行為といって抗議してきます。A社はどのような点に注意して対応すべきでしょうか。

回答ポイント

 発言の内容、それがなされた状況、それが組合の運営や活動に与えた影響、推認される使用者の意図などを総合して支配介入の成否が判断されますので、それらの状況への配慮が必要です。具体的には、単なる意見表明(賃金の考え方、賃金相場の呈示、ストの中止の要請)に止まるものは問題は少ないのですが、争議行為直前に、些細な組合活動に対してことさら違法性を誇張して主張し、組合の動揺を狙って、不利益処分を含めた恫喝的・威嚇的な発言をすることなどは支配介入の非難を免れないでしょう。
解説
1.使用者の意見表明と支配介入
 使用者側の言論の自由とそれへの支配介入による一定の制約については、学説や裁判例が色々な基準を呈示していますが、裁判例・労働委員会の命令例全体では、必ずしも一貫はしていないようです。抽象的に最大公約数的に言えば、使用者の意見表明と支配介入発言の内容、それがなされた状況、それが組合の運営や活動に与えた影響、推認される使用者の意図などを総合して支配介入の成否が判断されることになります(菅野和夫「労働法」第7版補正版607頁以下、東大労働法「注釈労働組合法」上巻459頁以下、竹林節治「使用者の言論の自由と不当労働行為<経営法曹会議編・団結活動と使用者の権利>241頁以下、拙著「実務労働法講義」改訂増補版下巻698頁以下等参照。近時の裁判例で同旨の一般論を判示するのが東京高判平成11.12.22労判779-47 西神テトラパック事件)。以下、少し裁判例や労働委員会命令から具体例を紹介しておきます。
2.具体例の紹介
(1)単なる意見表明
 単なる意見表明(賃金の考え方、賃金相場の呈示、ストの中止の要請)に止まるものは問題ないとされます。例えば、会社が経営危機に直面してその打開策を従業員に訴えるなかで、「ストをやれば会社はつぶれる」などと発言しつつストライキの自粛を訴えたことは、不穏当な部分はあるが、全体としては会社の率直な意見の表明にとどまるとされています(中労委昭57.6.2 日本液体運輸事件 命令集71集 636頁)。

(2)組合の不当違法な言動への反論の場合

 組合の不当違法な言動への反論の場合は、相対的に使用者の発言の許容範囲は拡大します。例えば、就業時間中のワッペン等の取り外し命令が問題とされる中での農協組合長の組合員Tに対する発言は、組合員Tの荒々しい言動に対する非難及び顧客との接触等に関する配慮から出たもので支配介入にはあたらないとされています(富山地労委平元.1.24 富山市中央農協事件 命令集85集 149頁)。

(3)組合創立期や分裂の徴候や脱退の動きのある場合

 組合創立期や分裂の徴候や脱退の動きのある場合など組合自身がセンシティブになっている場合の言動には要注意です。例えば、団交決裂後、社長声明で、「会社の重大な決意」を表明したところ、スト反対派の動きが強まりスト中止となったという事例が、支配介入とされたことがあります(最判昭57.9.10  プリマハム事件 労経速1134号5頁等)。

(4)団交の場での発言

 団交の場での使用者の発言の許容範囲は拡大すると言われています。例えば、学園の理事が、組合に対して団交席上での「第三組合なるものに存在というものを認めない」との発言につき、団交の席上における理事の発言が申立人組合の合法性についての見解を表明したもので、組合側として幾多反論の機会があるのであるから、不当労働行為の成否を云々すべき限りでないとされています(東京地労委平3.3.19 武蔵野音楽学園事件 命令集92集331頁、中労委平成 8.5.22 同再審査事件 中労時報911号17頁)。但し、団交の場でも、会社社長が、「Oが委員長をやっている間は駄目だ」等の発言をしたことが支配介入に当たるとされた例もあるので何でも許される訳ではありません(長野地労委平成2.12.19 飯田風越タクシー事件 命令集91集522頁)。

(5)不利益の予告等の威嚇的な発言

 不利益の予告等の威嚇的な発言には要注意です。これが決め手とされ支配介入が認められた事案は少なくありません。例えば、社長が工場従業員とその父兄の集会において、工場労組が企業連に加入したことを非難し、企業連から脱退しなければ人員整理もありうると述べたことや(最2小判昭29.5.28 山岡内燃機事件 民集8巻5号990頁)、信用組合が、争議行為中に、組合員全員に警告書を交付したこと及び支店長が組合員8名に対し争議行為としての一斉ランチに参加しないよう働きかけたことが不当労働行為に該当するとされた例(岩手地労委平 2.5.19 岩手信用組合事件 命令集90集241頁)などがあります。

(6)誇張されたり過剰な警告

 違法な争議でもないのにことさら違法性を指摘したり虚偽又は誇張された事実に基く過剰な警告も支配介入とされやすい態様です(大阪地労委平成 4.10.9 大坂ケミカル工業事件 命令集95集349頁、塩ビコーティング場で休憩時間中に組合員らが集まり雑談あるいは組合活動について話し合っていたところ、多数の管理職が解散を命じる等の言動を行ったことが支配介入に当たるとした初審命令は相当であるとされた中労委平成4.12.16 東洋シート事件 命令集95集959頁、組合のストが違法であり謝罪を求める旨の社長訓示及び組合に交付した抗議書により、組合の正当な活動を誹謗・中傷したことが支配介入に当たるとされた 青森地労委平成3.7.10 陸奥製菓事件 命令集93集36頁、組合が横暴で、行き過ぎで、歪んだ行動で、職場の荒廃を進行させたなどのニュースを施設内に回覧・掲示したことを不当労働行為に当たるとした中労委命平成17.7.20労判900号93頁 ノテ福祉会事件等)。

(7)故意に従業員を集めての組合批判

 従業員を集めて組合批判をことさらになすのも支配介入とされやすい態様です(社長が年頭挨拶で組合の役員選挙を前に文書をもって、組合執行部の期末手当についての取組み姿勢を誹謗したことが支配介入にあたるとされた東京地労委平成 3.5.14 東宝舞台事件 命令集92集460頁等)。しかし、逆に自然発生的な集会での偶発的で受け身な発言は支配介入に当らないとされます(愛知地労委平2.8.27 名古屋西運輸事件 命令集90集617頁)。同様に、個人的に職制が自宅で組合員と歓談する中で、たまたま組合の闘争主義批判をしたことは公正さに疑いは残るが支配介入とは言えないとされた例もあります(最 3小判昭58.12.20 新宿郵便局事件 判時1102号140頁)。

 この点に関連して、最近の判例(最二小判平成18・12.8最高裁HP JR東海事件)では、JR東海で分裂した片方の労働組合に対する介入の有無が争われた事件で、最高裁として「経営側に近い職制上の地位にある者が使用者の意を体して労組への支配介入を行えば、使用者との具体的な意思の連絡がなくても不当労働行為にあたる」との初判断を示し、組合員資格があるなど経営側そのものとは言えない中間管理職であっても、経営側の意向を察して組合に介入すれば不当労働行為になると認め、科長の立場は「所長を補佐し、経営側に近接する地位」と認定し、スト権確立の方針を巡り同社の労組が分裂し、新A組合が発足した直後、科長が乗務員ら2人に居酒屋などで「あなたはこの職場にいられなくなる」などと、元のB労組に戻るよう説得した発言が,「B労組の組合員としての発言であるとか,相手方との個人的な関係からの発言であることが明らかであるなどの特段の事情」がないかどうか審理させるため、同高裁に差し戻しました。

(8)経営会議や営業会議における組合批判

 経営会議や営業会議において組合批判をことさらなすのも支配介入とされやすい態様です。但し、既に会社の公式見解として発表されている組合への要請等を各現場で理解を求めるために役員又は管理職から説明したり、質問に答えるものについては許容範囲と言えます。しかし、組合との間で特定の問題については全て組合を通じての協議とするなどの合意・慣行があれば別です。

(9)組合内部問題への干渉

 組合内部問題への干渉の文書配布も支配介入とされやすい態様です。例えば、社内報による執拗な組合の運動方針批判等が支配介入に当たるとされた例など(大阪地労委昭40.8.31 三菱製紙事件 命令集32=33集320頁、前掲・東京高判平成 11.12.22 西神テトラパック事件、東京高判平成 15.9.30労判862号41頁中労委(朝日火災海上保険)事件等)、多くの例があります。

(10)個々の組合員への威嚇

 組合自体への警告でなく個々の組合員の自宅宛の争議参加への威嚇による警告も支配介入とされやすい態様です(前掲岩手信用組合事件)。

(11)未妥結賞与等の一方的支給

 組合との間で未妥結のボーナスについて個々の組合員宛に一方的に支給通知することも支配介入とされやすい態様です。例えば、会社部長ら管理職らが夏季一時金をめぐり、労使間に紛議が生じている時期に、組合員個々に直接一時金を受領するよう働きかけたことが支配介入に当たるとされたりします(中労委平 4.5.6 富田電機製作所事件 命令集94集696頁)。

(12)職制による上部団体加入批判

 社長らによる上部団体加入先に関する干渉発言も支配介入とされやすい態様です(前掲山岡内燃機事件)。近時の「新労働組合は労働協約を結んでいないので、賞与などが出ません。あなた、家族のために考えなさい」などの管理職の発言が会社の意を体して行われたものではないとして団結権侵害にはあたらないとされた例があるが(京王電鉄事件・東京地判平15.4.28労判851-35)。前掲・最二小判平成18・12.8 JR東海事件では、前述の通り、「あなたはこの職場にいられなくなる」などの科長の発言につき、使用者の利益代表者に近接する職制上の地位にある者が使用者の意を体して行った労働組合に対する支配介入行為は,使用者との間で具体的な意思の連絡がなくとも,使用者の不当労働行為と評価することができる、とされています。

(13)社長の組合委員長に対する非難

 会社社長が、団交で、「Oが委員長をやっている間は駄目だ」等の発言も支配介入とされます(前掲飯田風越タクシー事件等)。

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