法律Q&A

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正当な組合の活動の限界

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2007年1月補正:掲載

労働組合が社内で集会を開いたり、組合員が腕章やワッペンを着用したまま業務に従事したりすることは適法ですか?

ファミリーレストランのA社の労働組合員が春のベースアップ要求のため、A社に断りなく、昼休み中ながら社内の会議室を使って、集会を開いたり、お客に直接接するウエイトレスが「要求貫徹!」などと書かれた腕章やワッペンを付けたまま仕事に付きました。上司が再三これを注意しても、「組合活動であるから許される」などと言って従いません。A社はどんな対応をすることができるのでしょうか。

回答ポイント

 正当性のない組合活動としてその中止を要求したり懲戒処分の対象とすることができる可能性があります。
解説
会社は、労働組合の活動のすべてを受け入れる義務はなく、組合の活動が正当なものでないときは(労組法1条2項、7条、8条)、これに対する対抗措置が可能です。
 社内集会を認める義務はありません。元来会社には組合活動のために便宜を提供すべき義務がある訳ではなく、組合活動のために会社が便宜を提供しないことによって労働者の団結権が侵害されることもありません。裁判所も、労働組合による企業施設の利用は、本来使用者との団交による合意に基づいて行われるべきで、利用の必要性から組合が利用権限を持ったり、使用者がその利用についての受忍義務を負うようなことはなく、組合が使用者の許可を受けないで勝手に企業施設内で組合活動を行うことは、その利用を許さないことが使用者の施設管理権の濫用と認められる特別の事情のない限り正当性はないとしています(最3小判昭54.10.30 国鉄札幌運転区事件 判時944号3頁)。ここで管理権の濫用を認められる例としては、複数組合が並存する場合に、一方の組合に企業施設を組合事務所として貸与したが他方の組合には貸さないというような差別をした場合が考えられます(最2小判昭62.5.8 日産自動車村山工場事件 労判496号6頁)。従って、A社の組合が休憩時間とは言いながら、A社にその使用を求めることもせず、一方的に、無断で会社施設を使用したことは違法となります

 腕章やワッペン等の着用は、これらを着用のまま仕事に付くことに対しては、先ず、社会性・公共性の強い公社職員が勤務時間中政治的なスローガンを表示したプレートを個人として着用した行為は、身体活動の面だけからみれば作業の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、精神的作業の面からみれば注意力のすべてが職務に向けられなかった点で職務専念義務(電々公社法34条2項)に違反するとされています(最判昭52.12.13  目黒電報電話局事件 判時 871号3頁)。次に一流ホテル内で従業員組合員が勤務時間中「要求貫徹」等の記入されたリボンを団結誇示のため五日間に亘り着用したまま仕事に就いたリボン闘争は正当性がないとされています(最3小判昭57.4.13 ホテルオークラ事件 判時1042号140頁)。しかし他方で工場内の勤務時間内の組合活動について、通常の私企業における労働者の職務専念義務は、公社職員の負う義務よりは弱く「労働契約上要請される労働は誠実に履行する義務」に留まるものであり「労働契約上の義務と何ら支障なく両立し使用者の業務を具体的に阻害することのない行為は、必ずしも職務専念義務」に違反しないとされます(東京高判昭63.6.23 オリエンタルモーター事件 労判521号20頁、同最判平3.2.22 判時1393号145貢)。

 結局、裁判所の考え方は、一般の民間企業の場合は、組合によるワッペンなどの着用が直ちに正当性を欠くことになるというのではなく、それらの着用が、接客サービスする場面でなされれば客足を遠ざける恐れのある場合や(前掲最判昭57.4.13 ホテルオークラ事件)、そのワッペンなどの着用物の形状・大きさが見苦しい場合(東京地判昭60.8.26 東京急行事件 労判458号32頁-大きなプレート-、福岡高那覇支判昭53.4.25 在沖縄米軍基地事件 判時821号151頁-針巻き-)、着用者の勤務内容、勤務場所を考慮し、その着用が他の対立組合員との紛争をあおる恐れのある場合(福岡地判昭 46.3.15 三井鉱山三池鉱業所事件 判時626号93頁)など、労務の提供に支障をもたらすか、もたらす具体的な恐れのある場合には正当性がないものと考えられます。従って少なくとも各社の受付などの接客担当者やその他の従業員が接客する場合にも職員のワッペンなどの着用を禁止することは可能でしょう。

 但し、それらの禁止措置や禁止違犯への懲戒処分等が団結権否認や組合嫌悪等の意図を決定的動機とする場合には、支配介入とされることがありますのでご注意下さい(組合バッジやネクタイなどの着用をめぐる最近のJ中労委命平成16.7.7労判878号93頁 R西日本(兵庫・支配介入)事件、中労委命平成 16.10.27労判881号92頁 JR西日本(福地山・受験拒否)事件、神奈川地労委命平成16.12.16労判885号92頁 JR東日本事件等も同様な判断を示しています)。

ワッペン等の着用による就労拒否と賃金

 もし会社がワッペンなどを着用しての就労を拒否した場合の賃金の処理については次のように考えられています(菅野和夫「労働法」第7版補正版578頁)。つまり、会社が就労しようとする労働者の就労を拒否しても賃金支払義務を負わない場合としては、第一に、労働者が労働契約の本旨に従った履行の提供をしないで、しかもその労務提供上の不完全さが受領を完全に拒否できる程度・態様のものだという場合です(前掲沖縄米軍基地事件判決)。その不完全さ(リボンの着用)の程度・態様が労務遂行に実質的な支障を生じさせるものでない場合、会社は労務を受領した上でその不完全さに対して懲戒処分や査定などの労務管理上の手段で対応すべきこととなります。

 次に、会社は、労務提供の態様それ自体としては受領を拒否できるほどの瑕疵を持つものではないが、なおその受領を拒否する正当理由がある場合、受領拒否につき賃金支払義務を負いません(民法536条4項)。例えば、炭鉱内でのゼッケンを着用しての就労が労務の遂行上は支障とならないが、対立組合員との紛議を生ぜしめるので保安上の具体的危険を有するとして就労拒否が正当理由ありと判断されています(前掲三井鉱山三池鉱業所事件)。

対応策

 質問の場合、第一に、会社施設の利用や勤務時間内のワッペン着用などを含めた組合活動についての労使協議によるルールの確立が図られるべきです。労働組合にしても、何らの承認や対価もなく、会社施設を当然に使えると考えたり、実質的な団結誇示行為としての組合活動(ワッペン着用など)を勤務時間中に何らのペナルティーなしに当然に行うことができるなどという旧来の発想を転換する時期に来ているのではないでしょうか。第二に、右のようなルールができない場合は、解説で触れたように正当性のない組合活動に対しては、労組法の保護はないのだから、行為態様・状況、その影響などに応じて、懲戒処分や賃金カットなどの措置で対応する外ありません。
 しかし第三に、第二の対抗措置を取る際にも、組合に対して、いずれも文書で、事前のルール作りの話し合いを求め、更にそれに組合が協力しなかった場合も事前の警告を伝えた上で、各処分を実施するなど、会社側としても誠意を尽くした経過や組合が強行した行為の内容(ワッペンなどの形状、人数、着用時間、場所など)を記録に止めておくことが必要です。第四に、右第二の対抗措置の具体的経過や実施時期についても、紛争をより泥沼化させないような配慮が必要です。具体的には、大争議の最中にこれを行っても効果はありません。むしろ、第五に日常的な組合の行為に対し常々注意を払い、少なくともこれらの会社施設利用やワッペン等の着用が慣行的に許されているなどの弁解の余地を与えないような工夫が必要です(労使関係における労使慣行については菅野・前掲書613貢参照)。

予防策

以上述べてきた組合活動や会社施設利用のルールを、労使が落ち着いて話せる労使協議会などで確立していくことです。そこでの労使協議や団交を重ねた結果として不幸にも争議になった場合にも労使は、合理的な争議ルールの下で正攻法(ストライキ対ロックアウト)でお互いに痛みを分かち合うという、労使関係上の信義則から生ずるフェアプレーの原則により闘い合って決着すべきものだということを再認識すべきでしょう。例えば賃金カットなしに片方が無傷で一方的に相手を攻撃できるような争議行為とか(労働組合の結成と活動[実務編]Q6参照)、組合活動や勝手な施設利用というのものはとてもフェアとは言えないのではないでしょうか。

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