法律Q&A

分類:

労働組合による企業内ネット利用

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)

企業が労働組合に対してLANなどの企業内ネットの利用させる場合にはどんな問題がありますか?

A社のB労働組合(B組合)が、A社に対して社内LANなどの企業内ネットの利用を認めるよう求めてきました。そもそも、認めて良いのでしょうか。また、認めて良いとしたら、認める義務はあるのでしょうか。更に、その利用を認めた場合には、労使双方どんな点に注意したら良いでしょうか。

回答ポイント

 A社内の企業内ネットをB組合に利用を認めても違法とは言えません。しかし、A社には、当然に企業内ネットをB組合の利用に提供すべき義務はありません。また、B組合の企業内ネット利用に関しては、個々の従業員の企業内ネットの私的利用に準じたモニタリングなどの問題が起こり得ます。
解説
1.組合の企業内ネット利用は労働組合法の経費援助・支配介入に当たるか
 先ず、A社のB労働組合(B組合)が、A社に対して社内LANなどの企業内ネットの利用を認める際の第1の問題は、それが、労働組合法上の経費援助・支配介入にならないかという観点です。この点は、前に検討しました通り(12実務編Q2)、労働組合の自主性の要件と(労組法2条2号但し書き)、不当労働行為制度上から(同法7条3号但し書き)、問題とされ得ます。しかし、双方の観点においても、使用者の経費援助は、明文で、組合の福利厚生基金への使用者の寄付および最小限の広さの事務所の供与については認められ、また、組合事務所の光熱費負担、就業時間中の組合活動に対する賃金の不控除なども、上記に列挙された例外に準ずるものとして、経費援助に該当しないとの見解が有力です。

 すると、未だ、裁判例等はありませんが、質問の企業内ネットやパソコンを利用したインターネットの組合活動への提供も、それ自体は、従前から議論されていた例外的に許容されてきた便宜供与の一環として、労働組合法上、違法とはされないものと解されます。
2.使用者には組合に対して企業内ネット利用許諾義務はあるか
 企業内ネットの提供が違法とされないとすれば、次に、A社にはB組合に.対して、ネット利用を認める義務はあるのでしょうか。この点は、「正当な組合の活動の限界」で触れました通り(12実務編Q3参照)、労働組合による企業施設の利用は、本来使用者との団交による合意に基づいて行われるべきで、利用の必要性から組合が利用権限を持ったり、使用者がその利用についての受忍義務を負うようなことはなく、組合が使用者の許可を受けないで勝手に企業施設内で組合活動を行うことは、その利用を許さないことが使用者の施設管理権の濫用と認められる特別の事情のない限り正当性はないとして解されていますので(最判昭 54.10.30 国鉄札幌運転区事件 判時944号3頁)、A社には、当然に企業内ネットをB組合の利用に提供すべき義務はないということになります。
3.企業内ネットの組合利用上の諸問題
 したがって、B組合が、企業内ネットをA社の許諾なく、組合活動に利用した場合には、前述の「企業内ネットの私的利用への制限」で説明した通り(19実務編Q1)、懲戒処分などの問題が起こり得ます。

 同様に、企業内ネットの許諾の如何に拘らず、その私的利用や企業秘密の漏洩、違法・不当な情宣活動等の防止のためのモニタリングなどの問題が起こり得ます。そのため、「E-MAILへのモニタリング」でも指摘した通り(19実務編Q2)、モニタリングを行なう際には、ネット利用とモニタリングに関する規定があればそれにより、少なくとも、一般的な就業規則中の企業施設の私的利用禁止や機密漏洩禁止規定に等に基づき、十分な警告・告知の上で、それらの違反に関する合理的な疑いがある場合には、調査目的の達成に必要不可欠な範囲内で行い労働者等の権利利益を侵害しないよう十分配慮した上で、モニタリングを行なうことが望まれます。

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