法律Q&A

分類:

兼職禁止

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2007年1月:掲載
特定社会保険労務士 深津 伸子(坂本・深津社会保険労務士法人)
2008年5月:掲載

従業員がアルバイトをしているようです。どう対処すべきでしょうか?

A社の女子従業員Bが、会社に無断で、就業時間終了後である午後6時から午前2時までスナックC店で、会計係として勤務し、しかも時々客席にも出てホステスのようにして酔客の接待をしていました。そのことが取引先やライバル会社の間でも話題となっていることがA社の社長が親しくしていた取引先の専務からの連絡で分かりました。就業規則では懲戒理由として「会社の承認を得ないで在籍のまま他に雇われたとき」が規定されていました。会社としては、然るべき処分をしようと思っているのですが、どの程度の処分をどのようにしたら良いでしょうか。

回答ポイント

 就業規則に兼業禁止が定められ、業務や会社への評価・評判への影響も予想されるような態様のアルバイトに対しては解雇も可能です。
解説
1.兼職禁止の有効性
 多くの会社の就業規則で、「会社の許可なく他人に雇い入れられること」などを禁止し、その違反が懲戒事由として定められています。

 厚生労働省の平成17年9月15日の労働契約法制研究会の「最終報告」(以下、最終報告ともいう)によれば、兼業を禁止している企業は51.5%、許可制としている企業が31.1%となっています(三和総合研究所「二重就職にかかる通勤災害制度創設のための調査研究」平成11 年)。一方、二重就職者数は増えており、平成14 年の二重就職者数は約81.5 万人であって、15 年前に比べて約1.5 倍となっています(総務省「就業構造基本調査」)。

 しかし、勤務時間中はともかく、勤務時間外には、労働者は、本来、使用者の支配を離れ、自由である筈であるとしてその効力が争われることがあります。これについて、裁判所の大勢は、就業規則で二重就職・兼職を禁止することの合理性を一応認めているようです。例えば、懲戒事由である「会社の承認を得ないで在籍のまま、他に雇われたとき」との規定は、労働者が就業時間外に適度な休養をとることが誠実な労務提供のための基礎的条件であり、又、兼業の内容によっては会社の経営秩序等を害することもあり得るから、合理性があるとしています(東京地判昭57.11.19 小川建設事件 労民集33巻6号1028頁)。又、競合関係のある兼職については合理性が認められ易いようです(名古屋地判昭 47.4.28 橋元事件 判時680号88頁、東京地判平3.4.8 東京メディカルサービス事件 労判590号45頁等)。

 余り裁判例では指摘されませんが、もう一つの規制の実質的根拠として、労働基準法38条1項の「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」の定めとの関係が上げられることがあります。同規定は、単に同一企業内の異なる事業場間での通算に留まらず、異なる企業間の異なる事業場間での労働時間の通算を含むものと解されています。そうすると企業としては、兼職禁止をしていかないと、企業は知らない間に、労働基準法32条違反や割増賃金不払いなどの責任を負担することになりかねません。そこで、兼職禁止を根拠付ける理由とされる訳です(最終報告も、立法論としてであるが、「兼業の制限を原則無効とする場合には、他の企業において労働者が就業することについて使用者の管理が及ばなくなることとの関係から、労働基準法第38 条第1 項(事業場を異にする場合の労働時間の通算)については、使用者の命令による複数事業場での労働等の場合を除き、複数就業労働者の健康確保に配慮しつつ、これを適用しないこととすることが必要となると考えられる。」と指摘していた)。
2.兼職禁止の範囲
 しかし、裁判所の大勢は、勤務時間外の時間については、本来、使用者の支配が及ばないことを考慮して、二重就職の禁止の制約の範囲を限定的に解釈しています。例えば、会社の職場秩序に影響せず、かつ会社に対する労務の提供に格別の支障を生ぜしめない程度・態様の二重就職は禁止規定への違反とは言えないとしています(前掲橋元事件)。
 特に、いわゆる非正規雇用で、勤務日数や勤務時間も少なく、しかも給与も低く、複数の企業で稼動しなければ生活も成り立たないような労働者にも一律に兼職禁止規定を適用することに合理的な理由を求めるのは困難な場合が多いでしょう。
3.裁判所の具体的な判断
 そのような観点から、裁判所では、a.従業員が、会社代表者の実弟の設立した競争会社の取締役に就任したことを理由としてなされた懲戒解雇につき、例え、解雇当時、右従業員が競争会社の経営に直接関与していなかったとしても、将来、直接関与する事態が発生する可能性は大きく、経営上の秘密が競争会社に漏れる可能性もあるから、右二重就職は、企業秩序を乱すもので、懲戒事由である「会社の承認を得ないで在籍のまま他に雇い入れられ、就職した者」に当たるとして、懲戒解雇が有効とされ(前掲橋元運輸事件)、b.木工、家具の制作等を業とする会社の家具組立工が、同業の会社に就労したことを理由とする懲戒解雇につき、右就労は、会社が従業員の長時間労働による肉体的疲労度を軽減することなどを目的として特別加算金を支給して残業廃止する特別措置を実施中に、再三にわたる会社側の警告を無視してされたものであるから、就業の規律を乱したものとして、懲戒解雇事由である「他へ就業しないとの規定に違反したとき」に当たるとされ(福岡地判昭47.10.20 昭和室内装置事件 判タ291号355頁)、c.建設会社の事務員が、会社に無断で、就業時間終了後である午後 6時から午前0時までキャバレーの会計係として二重就職したことは、右懲戒事由に当たるとした上、右のような懲戒事由を定めた規定が置かれている以上、労働者が、使用者に対して兼業の具体的職務内容を告知してその承諾を求めることなく無断で二重就職したこと自体が、企業秩序を阻害する行為と評価されること、更には、本件の兼業は、毎日6時間にわたり、かつ、深夜に及ぶもので、単なる余暇利用のアルバイトの域を超え、労務の誠実な提供に支障を来すがい然性が高いこと等を総合すると、解雇は、企業秩序維持のために止むを得ないもので、権利濫用に当たらないとされています(前掲小川建設事件)。

 但し、近時の事案として、d.浦和地決平9.1.27 東京貨物社事件(労経速1680号3頁)は、労働者が会社と競業関係にある新会社を設立して業務を開始したことにつき、競業禁止特約等に基づき差止の仮処分命令を求めた事案ですが、判旨は、職業選択の自由が保障され、公正で自由な競争を促進すべきものとされるわが国では、「基本的には、競業禁止は、たとえ合意によるものとしても、無制約に許されてはならないものというべきであり、それが許されるのは、それを必要とする合理的理由があるとき、その必要を満たすに必要な範囲でのみ競業を禁止する合意が、正当な手続きを経て得られ、かつ、禁止に見合う正当な対価の存在を認められる場合に限られる」との枠組みから判断し、本件競業禁止特約はその時間的範囲に関してみると無効であるとしています。ここでは、代償措置が明確な要件とされている点が、注目されます(石橋 洋「判例回顧と展望・労働法」法時71巻5号116頁参照)。

 なお、最終報告でも、従前の裁判例の分析を踏まえ、「裁判例においては、企業への労務提供に支障を生ぜしめる兼業について、就業規則の兼業禁止規定に基づく懲戒処分の有効性を認めたものがあるが、このような事案は、本来、現実に企業への労務提供に支障が生じた場合に、当該支障に対する人事考課や懲戒において対処されるべきであって、一律に兼業の禁止により対処することは適当でない。」と指摘しているのも現行法や裁判例の解釈として参酌されるべきと考えます。

対応策

以上の検討によれば質問の場合は、d.の特殊な裁判例を除けば、兼業時間の長さの点でも上記c.の裁判例の小川建設事件以上に悪質な行為と言えましょう。又、女子従業員がホステスの業務につき取引先でも評判になるなど企業秩序への影響も出ていることからは、小川建設事件のように単なる普通解雇にとどまることなく、懲戒解雇にも該当する行為と言え、会社の他の従業員への波及効果や取引先への信用の回復のためには懲戒解雇を行なうのも止むを得ないものでしょう。

予防策

このようなトラブルを避けるためには、何よりも従業員が兼業など必要のない労働条件の整備・充実が必要ということになります。次善の策としては、単純に設問のような就業規則を置くことだけにとどめず、その趣旨を研修や社員手帳等を通じて徹底する外、普段から従業員の社外の行動に対してもプライバシーを侵害しない範囲で注意しておく以外にはないでしょう。特に若者のクレジットカード漬などから、A社のBのような兼職への、のめり込みの事態を招き易い現実があります。アルバイトのつもりが夜の世界にはまり込んでしまう例は、野暮を承知でスナックの若い女性の身の上話でも聞けば枚挙にいとまない程でしょう。

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