法律Q&A

分類:

残業命令の効力

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2000年10月:掲載
特定社会保険労務士 深津 伸子(坂本・深津社会保険労務士法人)
2008年5月:掲載

従業員がデートのため残業できませんと言ってきたら?

 A社の労働組合とA社との間では、三六協定があり、またA社の就業規則には「会社は必要に応じ従業員に残業を命じることができる」と定められているのに従業員Bは会社の都合よりプライベートライフを重視する考え方で「デートがあるので」と残業を拒否してきました。こんなBの態度を放っておくと他の従業員への影響もあるので、Bに対し然るべき処分をしたいのですが何とかならないでしょうか。
[問題] A社の労働組合とA社との間では、三六協定があり、またA社の就業規則には「会社は必要に応じ従業員に残業を命じることができる」と定められているのに従業員Bは会社の都合よりプライベートライフを重視する考え方で「デートがあるので」と残業を拒否してきました。こんなBの態度を放っておくと他の従業員への影響もあるので、Bに対し然るべき処分をしたいのですが何とかならないでしょうか。

三六協定と就業規則などに残業義務に関する定めがあれば、解雇などで対応することもできます。

(1) 残業させるには三六協定が必要
 残業、つまり時間外労働は、災害等の臨時の必要ある場合(労基法33条1項)と公務のため臨時の必要がある場合(同条3項)とを除き、書面による協定(いわゆる三六協定)をして労基署長に届出をした場合にのみ認められています(同36条)。この協定は、その事業場の労働者の過半数を組織する労働組合があるときはこの組合と、これがない場合には労働者の過半数を代表するものと使用者との間で行うものです。三六協定を締結し届け出た場合には、使用者はその有効期間中は協定の定めるところに従い8時間労働制・週休制の基準(労基法32条・35条)を超える労働をさせても、それらの基準違反の責任を問われません。このような効果は事業場の労働者全体について生じ、たとえば過半数を組織する労働組合との協定は非組合員や別組合員の時間外・休日労働をも可能とさせます。
(2)三六協定だけでは残業させられない
 しかし、三六協定の締結・届出だけでは個々の労働者に対し協定上定められた時間外・休日労働を当然に義務付けるものではありません。個々の労働者の時間外・休日労働義務が発生するためには、労働契約上そのような義務が認められなければならないのです。この点に関して、最近、最高裁は、「使用者が当該事業場に適用される就業規則に当該三六協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは、当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契約の内容をなすから、右就業規則の規定の適用を受ける労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負う」、との判断を示し、就業規則に時間外労働に関する規定があれば原則として時間外労働義務があることを認めました(日立製作所事件・最一小判平成3・11・28民集45-8-1270)。
(3)就業規則に基づく残業命令違反には懲戒解雇も可
 そして、最高裁は、右日立製作所事件で、時間外労働の具体的内容は三六協定に定められているが、同協定は、その時間を限定し、かつ、一定の残業の必要ある事由を特定しているのであるから、結局就業規則の規定は合理的であり、一部の事由はいささか概括的、網羅的ではあるが、企業が需給関係に即応した生産計画を適宜かつ円滑に実施する必要性は労基法三六条の予定するところで相当性を欠くとは言えないとして、時間外労働を拒否した労働者の懲戒解雇が正当であるとしました。

対応策

 設問を検討してみますと、A社では、三六協定により労基法上有効に残業労働を行い得る枠が設定され、さらに、やや抽象的な表現ながら就業規則が残業義務を定めている以上Bの残業義務が認められることになります。但し、残業命令拒否に対する懲戒処分については労働契約上の義務違反という責任は免れないとしても、次の点に留意すべきとの指摘があります。つまり、労基法36条に基づく時間外・休日労働は、同法があくまで例外として許容するもので、通常の労働時間に対する遅刻・欠勤という義務違反とは性格が異なるはずで、懲戒処分としての「量刑」は、それ相当に軽微なものでなければならない、という指摘です。
右日立製作所事件も、一回の残業命令違反でいきなり懲戒解雇というものではありません。懲戒解雇が最終的な処分であるという点からの配慮の必要性については設問[10-5-2]で詳しく触れることにしますが、訓戒や懲戒解雇よりは低い懲戒処分を含めた勤務態度の改善への努力を重ねても残業拒否を続けるような場合には懲戒解雇も止むを得ないでしょう。

予防策

 残業など必要のない人員体制や所定時間内労働の効率アップが基本ですが、顧客との関係等により残業が止むを得ないとすれば、次善の策は、やはり残業を明確に命じることができるような就業規則、三六協定の整備が必要です。特に、右日立製作所事件でも、残業の必要性に関する規定の抽象性が争点になったことからも、業務の必要性に関して、できる限り具体的かつ明確に規定し、従業員の納得性を高めることも必要です。そして、違反があった場合の指導・説得・処分が機動的に行えるような人事管理のマニュアルを作成し、これを管理職に徹底しておくことです。なお、36協定で定める延長時間は、一般の労働者の場合、下記[1]の表の限度時間を超えないものとしなければなりません(「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」平成10年労告154)。また、対象期間が3ヵ月を超える1年単位の変形労働時間制により労働する者については、[2]の表の限度時間を超えないものとしなければなりません。
  ただし、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合に備えた特別条項付き協定を結べば、限度時間を超える時間を延長時間とすることも可能です(前記労告154)。 しかし、この特別条項に関しては、総労働時間の上限が設けられておらず、特別の事情の限定も十分なされていないため、働き過ぎとなることも想定されます。これを防止するため、「特別の事情」を臨時的なものに限ることを明確し、その回数も期間中の2分の1以下にすることとされています(平成15・10・22厚労告355)。

[1]一般の労働者の場合
時間外労働の限度に関する基準
期 間 時間(単位時間)
1週間 15
2週間 27
4週間 43
1カ月 45
2カ月 81
3カ月 120
1年間 360
[2]対象期間が3ヵ月を超える1年単位の変形労働時間制の対象者の場合
期 間 時間(単位時間)
1週間 14
2週間 25
4週間 40
1カ月 42
2カ月 75
3カ月 110
1年間 320

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