法律Q&A

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企業のネットの私的利用への対応

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)2007年1月補正:掲載
特定社会保険労務士 深津 伸子(坂本・深津社会保険労務士法人)2008年5月:掲載

企業のコンピュータ・ネットワークを私的に利用している従業員に対して、制限ができますか?又、その違反に対しては懲戒処分などができるでしょうか?

A社では、IT(情報技術)化に対応するため、社内LAN(ローカル・エリア・ネットワーク)で接続されたパソコン(PC)を全従業員に使用させています。勿論、PCはインターネットに接続され、業務のためのe-mailやホーム・ページの利用も推奨されていました。ところが、A社のシステム担当者が、最近通信費とサーバーへの情報蓄積量の異常な増加に気づき調査したところ、従業員Bらが、就業時間中や、休憩時間中に、PCをネット取引などの私的通信や、ポルノ・サイトの閲覧や画像のダウンロードなどに使用していることが判明しました。A社はBらに対してどの処分で対応したら良いでしょう?又、今後の不正行為の予防策はないでしょうか?

回答ポイント

 ネットの私的利用禁止規定があればそれにより、なくとも一般的な就業規則中の企業施設の私的利用禁止規定に基づき、休憩時間中であっても同禁止違反として、就業時間中であれば、それに業務懈怠が加わり、いずれにせよ懲戒処分の対象になり得ます。実際の処分の軽重は私的利用の頻度等企業に与えたダメージや危険に応じて定められますが、最終的には懲戒解雇が、又、付随的には、不正利用時間に応じた賃金減額や損害賠償等の問題もあり得ます。
解説
1.企業内コンピュータ・ネットワーク化の急速な進展・普及
 最近、企業内外のコンピュータ・ネットワーク化は、一般の予想をはるかに超えて急速に進展し、これに伴い、マスコミで頻繁に、企業内コンピュータ・ネットワーク化が引き起こす顧客情報の漏洩等を始とする犯罪、ウィルスへの感染、セクハラ、質問のようなネットの私的利用等の人事管理上等のトラブルが報じられ、これらに対応するためのルール作りの必要性の指摘がなされています。しかし、多くの場合、企業は、未だ十分には、この動きに対応できてはいないようです。例えば、IT先進国の米国においても、社員による勤務時間中における私的なウエブ・サーフィンが問題になっていて、ポルノサイトの利用をモニターしている SexTrackerの調査によれば、ポルノのサイト閲覧の 70%が勤務中に行われており、ホワイトカラーの5人に1人が仕事中にポルノのサイトを開いた経験を持っており、オンラインショッピングのオークション、夏休みの旅行計画、株式の売買など、さまざまな私的利用が広まり、オンラインによる株式投資で知られるCharles Schwab社の顧客は、取引の 70%を事務所からしているとされ、  International Data Corp.(IDC)は、労働生産性のロスの30-40%がこうしたインターネットの私的利用に原因があると指摘しています(Michelle Conlin 「WORKERS, SURF AT YOUR OWN RISK 」Business Week 2000/06-12号p78-79、MF2-0030-MNX/株式会社情報工場参照) 。 そこで、ここではネットの私的利用の問題に限って、インターネット、e-mailを含めた企業内コンピュータ・ネットワーク化に伴う社内規定整備の必要性について、検討してみます。
2.問題の所在
 ネットの私的利用が孕む問題としては、質問の例のように、業務研究用のインターネットによる情報検索やその検索文字情報のダウンロードと思いきや、情報量が膨大になり易いアダルト系の画像情報などをキャプチャーなどで取り込まれていたのでは、回線容量を超えてシステムダウンを起こしたり、勝手なソフトのインストールが、コンピュータ・ウィルスの蔓延や他のソフトの誤作動を招くセキュリティー上の危険に留まらず、今や前述の通り生産性の低下を招くまでに至っています。
他方、社内ネットの私的利用の監視のためのモニタリングは従業員のプライバシーへの侵害との批難を招く虞があります。
3.モニタリングが許される場合は
 米国でも、一時期は、社内ネットへのモニタリングに関して、プライバシー侵害の成否が問題とされていました(この点に関しては、山田省三「職場における労働者のプライヴァシー保護」学会労働法78号53頁)。しかし、最近では、前述のように、ネット化の普及とその私的使用等の濫用が進むにつれ、個人情報保護法上の個人情報や不正競争防止法上の営業秘密の保護態勢の整備の一環として一定の合理性を要件としながらも、会社設備のPCへのモニタリングについては許容する方向にあるようです。例えば、モニタリング規定や事前の警告なくなされた電子メールのモニタリングが適法とされた裁判例が現れています。F社Z事業部事件(東京地判平 13.12.3労判826-76)は、セクハラに絡んだ調査の過程で、異常な私的利用が発覚した事案です。裁判所は、プライバシー侵害について、「会社のネットワークシステムを用いた電子メールの私的使用に関する問題は、通常の電話装置におけるいわゆる私用電話の制限の問題とほぼ同様に考えることができる。」としました。その上で、勤労者として社会生活を送る以上、日常の社会生活を営む上で通常必要な外部との連絡の着信先として会社の電話装置を用いることが許容されるのはもちろんのこと、さらに、会社における職務の遂行の妨げとならず、会社の経済的負担も極めて軽微なものである場合には、これらの外部からの連絡に適宜即応するために必要かつ合理的な限度の範囲内において、会社の電子装置を発信に用いることも社会通念上許容されており、これは、会社のネットワークシステムを用いた私的電子メールの送受信に関しても基本的に妥当するとしました。次に、社員の電子メールの私的使用がこの範囲に止まるものである限り、その社員に一切のプライバシー権がないとはいえないとして電子メールに関してもプライバシー保護が及ぶ旨の一般論を述べました。その上で、「通信内容等が社内ネットワークシステムのサーバーコンピューターや端末内に記録されるものであること、社内ネットワークシステムには当該会社の管理者が存在し、ネットワーク全体を適宜監視しながら保守を行なっているのが通常であることに照らすと、利用者において、通常の電話装置の場合とまったく同程度のプライバシー保護を期待することはできず、当該システムの具体的状況に応じた合理的な範囲での保護を期待し得るに止まる。」として、電子メールの場合の保護の範囲について、通常の電話装置の場合よりも相当程度低減されるといった限界を指摘しています。さらに、プライバシー侵害の判断基準として、「監視の目的、手段及びその態様等を総合考慮し、監視される側に生じた不利益との比較衡量の上、社会通念上相当な範囲を逸脱した監視がなされた場合に限りプライバシー権の侵害となる」としました。その具体例としては、[1]職務上社員の電子メールの私的使用を監視するような責任ある立場にない者が監視した場合、[2]責任ある立場にある者でも、これを監視する職務上の合理的必要性が全くないのに専ら個人的な好奇心等から監視した場合、[3]社内の管理部署その他の社内の第三者に対して監視の事実を秘匿したまま個人の恣意に基づく手段方法により監視した場合、などをあげています。そして、電子メール閲読行為の相当性について、「X1らによる社内ネットワークを用いた電子メールの私的利用の程度は、...限度を越えているといわざるを得ず、Yによる電子メールの監視という事態を招いたことについてのX1側の責任、結果として監視された電子メールの内容およびすでに判示した本件におけるすべての事実経過を総合考慮すると、Yによる監視行為が社会通念上相当な範囲を逸脱したものであったとまではいえない。」と判断しました。 続いて現れた、日経クイック情報事件(東京地判平14.2.26労判825-50)は、社内の誹謗中傷電子メールへの調査の過程で発覚した電子メールの濫用的私的利用に関するモニタリングが適法とされた例です。裁判所は、「企業秩序に違反する行為があった場合に、違反行為の内容等を明らかにし、乱された秩序回復に必要な業務上の指示、命令を発し、または違反者に対し制裁としての懲戒処分を行うため、事実関係の調査をすることができる」とした上で、その調査や命令は、[1]企業の円滑な運営上必要かつ合理的なものであること、[2]方法、態様が労働者の人格や自由に対する行き過ぎた支配や拘束ではないことを要し、調査等の必要性を欠いたり、調査の態様等が社会的に許容しうる限度を超えていると認められる場合には労働者の精神的自由を侵害した違法な行為として不法行為を構成することがあるとの一般論を述べました。その上で、[1]私用メールは、送信者が文書を考え作成し送信することによりその間、職務専念義務に違反し、私用で会社の施設を使用する企業秩序違反行為になること、[2]私用メールを読ませることにより受信者の就労を阻害し、受信者が送信者からの返信メールの求めに応じてメールを作成・送信すれば、受信者に職務専念義務違反と私用による企業施設使用という企業秩序違反となること、[3]多量の業務外の私用メールの存在が明らかになった以上調査する必要が生じたこと、 [4]業務外の私用メールであるか否かは、その題名から的確に判断することはできず、その内容から判断する必要があることなどから、モニタリングの必要性を認めました。その上で、「Xのメールファイルの点検は、事情聴取によりXが送信者である疑いを拭い去ることができず、また、Xの多量の業務外の私用メールの存在が明らかになった以上行う必要があるとし、その内容は業務に必要な情報を保存する目的で会社が所有し管理するファイルサーバー上のデータ調査であることから、社会的に許容しうる限界を超えてXの精神的自由を侵害した違法な行為とはいえない」としました。モニタリングの事前告知のなかったことに関しても、「事前の告知による調査への影響を考慮せざるを得ないことからすると、不当なこととはいえない。」などとしたものです。つまり、これらの裁判例はいずれも、電子メールに関する規定等がなかった事案であるところから、電子メールの特殊性と、労働者による電子メールの私的濫用が判断の大きな要素になっているものと解されます。そこで、これらの裁判例を踏まえると、ネットの私的利用は、それに関する禁止規定があればそれにより、なくとも一般的な就業規則中の企業施設の私的利用禁止規定に基づき、休憩時間中であっても同禁止違反として、就業時間中であれば、それに業務懈怠が加わり、懲戒処分の対象になり得る行為です。特に、その私的利用が濫用にわたるように頻発した場合や、セクハラへの利用や、従業員や企業への誹謗中傷に使用されている合理的な疑いがある場合等には(労働政策研究・研修機構事件・東京地判平成16.9.13労経速1882-14)、モニタリングは上述の規定の実効性を保つため、違反の有無に関する必要な調査として合理性があり、適法とされると解されます。
4. 労働者の個人情報保護に関する行動指針とその解説への留意の必要
しかし、余計な紛争を回避するためにはネット管理規程の整備が望ましいでしょう。その際には、労働者の個人情報保護に関する行動指針(H12.12.20労働省。以下、行動指針)とその解説(H12.12.20労働省。以下、解説という)に留意して作成するころが望まれます。解説も、「行動指針は、民間企業等が労働者の個人情報の保護を図る上で必要となる社内規程等を整備する際のよりどころとして活用されることを通じて、各企業等において個人情報保護のため自主的な取組みが促進されることを期待するものである。」と指摘しています。そして、e-mailのモニタリングについても、行動指針は、その第2の6の(4)で、「使用者は、職場において、労働者に関しビデオカメラ、コンピュータ等によりモニタリング(以下「ビデオ等によるモニタリング」という。)を行う場合には、労働者に対し、実施理由、実施時間帯、収集される情報内容等を事前に通知するとともに、個人情報の保護に関する権利を侵害しないよう配慮するものとする。ただし、次に掲げる場合にはこの限りでない。/(イ)法令に定めがある場合/(ロ)犯罪その他の重要な不正行為があるとするに足りる相当の理由があると認められる場合」との原則を示しています。その上で、その(5) で、「職場において、労働者に対して常時...モニタリングを行うことは、労働者の健康及び安全の確保又は業務上の財産の保全に必要な場合に限り認められるものとする」として、これにつき、解説は「最近話題になることが多い電子メールやインターネットの接続状況のモニタリングについては、私用の防止や企業等の機密情報の漏洩による損害防止、企業内の情報システムの安全確保等の目的で行われるものについては、『業務上の財産の保全』のために行われるものに当たると考えられる。/電子メール等のモニタリングのあり方については、なお今後の議論に待つところもあるが、その実施に当たっては、電子メール等の利用規則にその旨を明示すること等により、あらかじめその概要を労働者に知らせた上で行うことが適当と考えられる。具体的な運用に当たっては、例えば、電子メールのモニタリングでは原則として送受信記録あるいはこれにメールの件名を加えた範囲について行うこととし、必要やむを得ない場合を除いてはメールの内容にまでは立ち入らないようにするなど、あくまでも目的の達成に必要不可欠な範囲内で行い労働者等の権利利益を侵害しないよう十分配慮することが望ましい。」と指摘しています。 なお、モニタリングの実施は、他方で、社内ネット利用のセクハラ等の人格権侵害などに対しての企業の責任(使用者責任による損害賠償責任等)を招き易いため、ネット利用上の規制がより必要となります。
5. 社内ネット私的利用の違法性
前述の通り、ネットの私的利用は、それに関する禁止規定があればそれにより、なくとも一般的な就業規則中の企業施設の私的利用禁止規定に基づき、休憩時間中であっても同禁止違反として、就業時間中であれば、それに業務懈怠が加わり、いずれにせよ懲戒処分の対象になり得る行為です。ただし、私用メールの頻度が低いことや、誹謗中傷のメールにつき、問題行為から1年間会社が注意等を行わず放置していたなどの理由から解雇無効とされた例もありますので、注意が必要です(北沢産業事件・東京地判平成19・9・18労判947-23)。 更に、業務懈怠による懈怠時間相当分の賃金の減額や、インターネットの定額料金での利用をしていない中小零細企業では、アクセス時間に対応する通信費用分の損害賠償の問題なども発生することが考えられます。

対応策

従って、上記の「答え」の通りとなり、最終的には懲戒解雇や、付随的には賃金減額や損害賠償等の問題もあり得ます。

予防策

(1)ネットワークの私的利用規制への企業内規定整備の必要性とその進め方
 一般的な社内ネットの私的利用への監視・防止システムについては、前述のe-mailへのモニタリング(データ内容の企業による監視)などと同様の問題があります。つまり、就業規則等で、明確に、企業施設であるコンピュータの一般的利用、e-mailを含めたインターネット利用に関しても、業務外利用の禁止やそのためのモニタリング実施の明確化、従業員の使うパソコン等のパスワードや導入したソフト、一定のインターネット情報のダウンロードへの上司等への事前承認・届出制と勝手な変更の禁止や、これらの違反に対する制裁等を明文化しておくべきです。 
明文化の手法としては、前述のように就業規則の服務規律に挿入したり、不正アクセス対策、個人情報の保護等の一般的なシステム管理に関する別規定(例えば、「コンピュータ及びデータ等管理規程」)に統合するのも可能です。各企業の規模、コンピュータ利用のレベル等に応じて判断すればよいでしょう。但し、平成11年4月1日以降、就業規則内容の別規程化が自由化されているので(労基法89条)、詳細な規定を置き、かつ、それに就業規則としての拘束力、懲戒処分を課しやすくしたいのであれば、その規程が就業規則の別規程でも、就業規則の一部であり、その違反が懲戒処分の対象になることを所定の作成手続を得た上で、明確にしておくべきでしょう。また、下記の賃金規程等も含め労働条件の不利益変更となるような場合は、労働契約法第8条乃至第10 条への留意が必要でしょう。

(2)賃金規程等への対応の必要
 又、前述の通り、業務懈怠等による懈怠時間相当分の賃金の減額や、インターネットなどの回線利用につき定額料金での利用をしていない中小零細企業では、アクセス時間に対応する通信費用分の損害賠償の問題なども発生することが考えられます。そこで、少なくともこれらの場合の賃金の減額や賞与・昇給査定への関係や損害賠償の方法等ついても詰めておくことが、実際の処理上有効であるのみならず、違反への威嚇効果も発生させるでしょう。なお、不就労時間に対応する賃金控除は、それに応じた賃金の減額が認められることについてはさほど問題はないででしょう。但し、いわゆる完全月給制で、遅刻・早退等の賃金控除を行っていない企業においては、通常は、昇給や賞与の査定などで調整・対応するのが妥当でしょう。なお、通信費等の一方的相殺・控除については、労基法24条1項の賃金全額払いとの関係で、同項の控除協定が必要なことに注意して下さい。

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