法律Q&A

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兼業禁止規定に違反した従業員に対する懲戒処分

弁護士 村木 高志(ロア・ユナイテッド法律事務所)

就業規則の兼業禁止規定に違反した従業員に対して懲戒処分をすることはできるのでしょうか?

 当社の従業員が、土日の休みの日に警備員のアルバイトをして収入を得ていることが判明しました。事実関係を本人に確認したところ、間違いないと認めています。
 当社では、就業規則で、会社の許可なく副業をすることを禁止する兼業禁止規定を定めているので、当該規定に違反する行為があったことを理由として、懲戒処分を課すことを検討しています。ただし、今のところ、当該従業員は無遅刻・無欠勤で、表立った会社業務への影響はなく、その勤務態度や勤務成績にも全く問題がありません。このような場合に、当該従業員を、兼業禁止規定に違反することを理由として懲戒処分にすることは可能なのでしょうか。

週末のアルバイトは、形式的には兼業禁止規定に抵触するものではありますが、本件のように会社業務への支障がないような状況では、簡単な指導程度ならともかく、規定違反であるとして懲戒処分にすることは難しいでしょう。

1 兼業禁止規定は有効
 兼業禁止規定とは、例えば、「会社の許可なく業を営み、又は、在籍のまま他に雇われてはならない」というような、兼業(副業)を禁止する規定のことをいいます。多くの会社で、就業規則の中にこの兼業禁止規定が定められ、その違反が懲戒事由とされていると思います。
 そして、このような兼業禁止規定自体は、事情の如何を問わず絶対的に兼業を禁止するようなものでなければ、その合理性が認められ、有効であると考えられており、裁判例でも、その有効性自体は認められています(小川建設事件・東京地判昭57・11・19労民集33巻6号1028頁、橋元運輸事件・名古屋地判昭47・4・28判時680号88頁、東京メディカルサービス事件・東京地判平3・4・8労判590号45頁等。本Q&Aの別稿岩出誠「Q従業員がアルバイトをしているようです。どう対処すべきでしょうか?」も参照下さい)。
2 兼業禁止に違反する行為とはどのようなものか
 しかし、他方で、いわゆる職業選択の自由が認められているので、本来であれば、勤務時間外に何をするのかは、従業員の自由に委ねられているはずです。
そのため、形式的に兼業禁止規定に反する行為が行われたからといって、そのことが直ちに兼業禁止規定に違反しているということにはならないものと考えられています。
裁判例の中にも、一時的なアルバイトではなく、相当期間継続する意図で開始された二重就職で、しかも、会社を継続して欠勤していたというケースについて、懲戒解雇にあたるとしたもの(阿部タクシー事件・松山地判昭42・8・25労判27号3頁)がある一方で、病気休職中に内職をしていたというケースにつき、会社の企業秩序に影響せず、会社に対する労務提供に格別の支障を生じさせないものについては、就業規則で禁止される二重就職にはあたらないから、その内職についても二重就職にはあたらず、これを懲戒解雇にすることはできないとしたもの(平仙事件・浦和地判昭40・12・16労判15号6頁)があります。
3 懲戒処分ができるかについての具体的な判断
 このような裁判例などを考えると、現実に兼業に当たるような事実があったとしても、例えば、これを黙認してきたという社内慣行があった場合や、会社の秩序を乱すようなことがない場合、会社に対する労務の提供に支障がない場合などについては、兼業禁止規定に違反しているとまでは言えず、これを理由として懲戒処分にすることは難しいと言えます。

対応策

質問のケースでも、休日のアルバイトで疲れてしまうこともあるでしょうから、会社業務への支障が全くないとは言い切れないですが、実際には、無遅刻・無欠勤で、表立った会社業務への影響はなく、勤務態度や勤務成績にも全く問題がないということなので、本人から事情を聞いたり、会社業務に影響を与えないように指導をしたりすることは出来るでしょうが、その他の特段の事情(例えば、競合会社でのアルバイトの場合や、深夜にまで及ぶアルバイトの場合等)がない限りは、兼業禁止規定に違反しているとして、当該従業員に懲戒処分を課すことは難しいでしょう。

予防策

なお、兼業の予防策としては、従業員が兼業を必要としないように労働条件を充実させるということや、普段の指導の徹底などが考えられるところではあります。しかし、最近では、会社の業績悪化によって賃金が抑制されているという状況から、むしろ、従業員の副業を積極的に認めるという企業も現れてきているようです(ただし、実際の許容要件の判断は厳しいようです)。会社の業務に支障があるような副業は論外ですが、会社の業務に支障がないような副業であれば、それを認めて、従業員の生活不安を解消するというような対応をすることも、会社にとって有用な方法となる場合もありえます。いずれにしても、懲戒処分の困難性を踏まえた上で、会社としての方針の確立が必要だと言えます。

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