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議員に当選した社員の活動について,どこまでを公民権行使の範囲として保障すべきか

弁護士 村木高志(ロア・ユナイテッド法律事務所)

議員に当選した社員の活動について,どこまでを公民権行使の範囲として保障すべきでしょうか?

ある従業員が地方議会の議員に当選し,業務に就く時間が大幅に短くなりました。これまでは、労基法による公民権保障の範囲と考え、本人から申告されるまま休務を認めていましたが、やはり業務への影響は大きく、何らかの制限を検討したいと考えています。このような場合、議会や委員会の出席以外の議員活動に関して、法的にはどこまでが公民権行使の範囲と評価されるのでしょうか。また、現在は休務時間の賃金も支払っていますが、ほとんど業務に就けないケース等では無給の休職とし、場合によっては解雇としても問題はないでしょうか。

議会や委員会出席以外の議員活動も公民権行使(「公の職務」の執行)の範囲と評価されると考えられますが、労使間の合意で、休務時間中の賃金を無給とすることは可能です。また、業務に就く時間が大幅に短く、会社の業務への影響が重大で、業務を阻害する程度が著しい場合には、解雇をすることも可能であると考えられます。

1 公民権行使の範囲について
 労基法第7条は、「使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。但し、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる」と規定しています。
 設問のケースの場合も、地方議員としての活動は、「公の職務」の執行として、法律上保障されているということになります。したがって、当該従業員が、「公の職務」の執行に必要な時間を請求してきた場合には、会社はこれを拒めないということになります。
 もっとも、必要な限度を超える時間が請求された場合には、会社は超過部分については、その請求を拒むことができると考えられています。そして、当該活動にどのくらいの時間が必要なのかについては、当該職務の具体的な内容により、客観的に判断されます。設問の地方議員の場合、議会や委員会の出席のみならず、日常、住民と接触して住民の苦情、要望等を処理する時間や、日常の調査研究(所管事務、議案審査、議案発案、一般質問等に関連する調査研究)の時間も、客観的には議員活動に必要な時間であると言えますので、当該従業員からこれらの時間の請求があった場合には、会社はこれを拒めないことになるでしょう(上記活動を町議会議員の活動に要する時間であることを前提として判断している例として、森下製薬事件・大津地判昭58・7・18労判417号70頁参照)。

2 休務時間を無給とすることについて
 このように、従業員から、勤務中の時間について、地方議員としての活動に必要な時間を請求された場合に、時間の変更を求めることはありえますが、この請求自体を拒むことはできません。
 しかし、法律上、その活動時間に対して、賃金を支払うことを義務付けられているわけではありませんので、賃金を支払うか否かについては、当事者間の合意に委ねられているということになります(昭和22.11.27基発399号参照)。
 ただし、公民権の行使等に要した時間に対応する賃金を支給しないこととした就業規則の不利益変更につき、"労働者に与える経済的不利益は些少であるにしても、「有給扱いという待遇の下、公民権の行使等の公的活動に容易に参画し得る地位ないし権利」に対してかなり大きな負の影響を与えるものであって、重要な労働条件につき実質的な不利益性を有するものであるにもかかわらず、「高度な経営上の必要性」に基づいて本件就業規則等変更が行われたとはいいがたく、その他の諸事情(労働組合との交渉の状況等)を勘案したとしても、変更に同意しない原告XのようなY職員に対して、これを法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるということはできない"とされた例がありますが(全日本手をつなぐ育成会事件・東京地判平23・7・15)、不利益の程度の低さからは、労契法10条の他の要素との関係では疑問があります(菅野和夫・野川忍・安西愈編『論点体系 判例労働法1』(第一法規)[岩出 誠]134頁から135頁参照)。
3 解雇とすることについて
 また、従業員が地方議員に就任した場合は、上記のとおり、議会や委員会への出席のみならず、調査・研究、所属する政党や会派の会合への出席、有権者と接する時間など、その活動は多岐にわたっており、当該活動に必要な時間は、かなり長いものになりますので、会社業務への影響も重大なものになると思われます。このような場合には、設問のように、会社としては、当該従業員の解雇を検討せざるを得ないという場面も出てくるでしょう。
 判例では、公職に就いた者を懲戒解雇にする旨の就業規則の条項は、労働基準法第7条の趣旨に反して無効とされていますが、傍論で、「公職に就任することが会社業務の遂行を著しく阻害するおそれのある場合」には普通解雇が許されるものとされています(十和田観光電鉄事件・最二小判昭38・6・21民集17巻5号754頁参照)。
 すなわち、従業員から「公の職務」の執行に必要な時間として請求のあった時間について、無給にすることは許されますが、地方議員に就任したということだけを理由にして解雇にすることは許されないということになるのですが、当該議員活動によって、業務に支障が生じ、会社の業務遂行が阻害されるような場合には、その阻害の程度に応じて、解雇をすることや、休職させることは、判例上認められるものと考えられます(上記森下製薬事件、社会保険新報社事件・東京高判昭58・4・26労民集34巻2号263頁、社会保険新報社事件・東京高判昭和58・4・26労民34巻2号263頁、パソナ事件・東京地判平成25・10・11労経速2195号17頁<私企業には営業活動の自由に係る権利利益も存するところであり、私人間において、労働者のいかなる公務就任権の行使のあり方をも受忍しなければならないものではないとされた>も普通解雇につき同旨参照)。

対応策

 したがって、設問のケースでは、まず、休務中の賃金について無給にするということについては、当事者間で自由に決定できることになります。
 また、当該従業員が、議員活動のためにほとんど仕事をすることができず、会社の業務への影響が重大であり、業務に著しい阻害が生じているということであれば、解雇をすることも可能であるということになります。

予防策

今日では、国民の政治参加への意識の高まりもあり、従業員が地方議員等に立候補するケースが今後も増えていくことが予想されます。また、選挙権の行使や、裁判員制度における「裁判員」の職務や、労働審判制度における「労働審判員」の職務なども、「公の職務」ということになります。したがって、従業員の定着化を図る観点や、会社の業務の必要性との調整の観点からも、公民権行使の時間に関する賃金等や休職制度(復職時の処遇を含む)等について、予め類型化して規定化しておくことや、会社としての方針を確立しておくことなども有用であると考えられます。

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