法律Q&A

分類:

個人破産への対応

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2007年1月補正:掲載

従業員がサラ金・クレジット破産してしまいました。会社はどう対処すべきでしょうか?

1.大手リース会社A社の経理部長Bが、借入金で株の信用取引に手を出し、バブル崩壊後の株の暴落で、大損を被り、金利の支払もできない状態となって、弁護士会のサラ金相談所に駆け込み、個人破産の申立てをしていたことが分かりました。BはA社に対しても、住宅資金の借入れをしていて裁判所からの破産宣告の通知でこのような事態が分りました。
2.更に、このことが一部のマスコミにも分ってしまい、“大手リース会社部長サラ金で破産”の大見出しとなりA社イメージが大きくダウンすることになりました。A社はどのような処置を取れるでしょうか?

回答ポイント

 質問の場合は、以下に解説するように、就業規則の内容が不明ですが、普通解雇や懲戒解雇が検討されて良いでしょう。但し、実際の破産の運用に当っては、破産管財人が付く場合には管財人から、これが付かない同時廃止のような場合は破産申立人代理人を通じて、裁判所の意向としてBを退職させ、その退職金をもって債権者への返済に回すようなことが事実上求められることがあります。社内貸付金がある場合はこれとの合意相殺された範囲で退職金の提供の問題はなくなるでしょうが、社内貸付金との相殺などがない場合は事実上破産手続への協力が妥当でしょう。なお、破産の直前に退職金や給料への差押などあり得ますがこれらの問題への対応についても支払うのか、供託するのか等の事前の検討をしておく必要があります。
解説
1.自己破産急増の理由としての免責・復権
 自己破産の急増の理由は免責・復権にあります。クレジットやサラ金問題(いわゆるクレ・サラ問題)については、給料の差押という形でも勤務先に負担をかけますが、事態が、更に進んで従業員が支払不能になれば、借金の棒引きである免責(破産法253条)を求めて、自己破産の申立が予想されます。現在、破産申立が年間20万件余に及ぶなど、裁判所の機能がパンクするまでに急増しています。これは一般のサラリーマンには個人破産となっても実際には、選挙権等の制限も居住制限もないに等しく、ほとんど不利益がなく、免責されれば、各種の資格制限も復権(破産法255条以下)によりなくなるためです。例外は、弁護士、公認会計士などの一定の専門職、公務員や取締役は破産が欠格事項とされていることです。これらの職業では資格喪失に伴い解雇や免職となります。
2.私生活上の問題に対する懲戒処分
 ところで、私生活上の問題に対する懲戒処分への判例の態度は慎重です。しかし、就業規則で、破産やこれにより会社が実害を受けたことが退職理由・解雇理由に掲げられている場合や、会社からの借入金を不払いとしたり、又、破産の申立をしたり、その宣告を受けたことがマスコミなどに流れ会社の信用を傷付けるような事態になった場合はどうなるでしょうか。実は、これらの問題は今まで余り検討されていません。

 従業員の破産自体は、私的な行為と言えるでしょう。そこで、最高裁が私的な行為を理由とする懲戒処分について示している判断を参考としてみましょう。最高裁は、先ず、a.最2小判昭49.2.28 国鉄中国支社事件(民集28巻1号66頁)で、従業員の職場外の職務遂行に関係のない行為であっても、企業秩序に直接関連するもの及び企業の社会的評価を毀損するおそれのあるものは企業秩序による規制の対象となるとして、組合活動に関連した公務執行妨害行為を理由とする懲戒免職処分を有効としました。次にb.最3小判昭45.7.28 横浜ゴム事件(民集24巻7号1220 頁)で、深夜酩酊して他人の家にちん入し、住居侵入罪として罰金刑に処せられた従業員に対する「不正不義の行為を犯し、会社の体面を著しく汚した者」の条項による懲戒解雇を、行為の態様、刑の程度、職務上の地位などの諸事情から無効としました。更に、c.最2小判昭49.3.15 日本鋼管事件(民集28 巻2号265頁)で、鉄鋼会社従業員が米軍基地拡張反対の示威行動の中で逮捕・起訴され、「不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚したとき」に該当するとして懲戒解雇ないし論旨解雇された事件について、「従業員の不名誉な行為が会社の体面を著しく汚したというためには、必ずしも具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生を必要とするものではないが、当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から総合的に判断して、右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない」との判断基準を示した上、従業員三万名を擁する大企業の一工員のそのような行為が会社の体面を著しく汚したとは認められない、として懲戒解雇を無効としました。
3.破産者の地位や会社の業種に応じた対応
 これらの判例を踏まえて検討すると、先ず、先のように就業規則で破産が解雇理由などに掲げられる場合、破産申立や宣告だけを理由として通常の事業所が一般平社員に対して一律にこれをそのまま適用して解雇とすることは難しいようです。しかし、特に、対外的信用を重んじる業種や(資格そのものに破産が欠格条項とされている弁護士や公認会計士の業務は入るでしょう)、質問のようなもろに金銭に関する業務を取扱う上級の管理職従業員で、しかも会社が大手金融関係ということになると、職務能力、適格性を欠くものとして解雇もあり得ます。特に、ヘッドハンティングなどで一定の職務能力を期待されてキャリア採用された場合などには、他の職場への配転などまでして解雇を回避すべき義務がないため、解雇が認められる可能性が高くなります(東京地判昭57.2.25 フォード自動車事件 労判382号25頁等)。

 次に、会社からの借入金への破産の免責による不払いについてです。これ自体が、会社に損害を与えたことは明白です。しかし、破産手続は抵当権、質権等の担保権には優先せず、これらの担保権者は別除権者とされ破産手続に関係なく優先弁済を受けられます(破産法65条)。従って、多くの会社のように社内貸付について、退職金や社内預金等との関係で質権が設定されている場合は、実損害は少なくなる可能性があります。この質権の行使によっても会社に大きな損害を与える場合は、正に、会社に損害を与えたという点で従業員の誠実義務違反・信頼関係の喪失により、懲戒解雇は困難としても、それ自体が、普通解雇理由として認められる可能性が高まるでしょう。

 更に、質問2の場合には、上記最高裁判例の基準に照らして会社の業績、問題の従業員の地位、負債額などにより、懲戒解雇もあり得ます。特に、破産法 265条の詐欺破産(財産の隠匿等)などに当るような場合は、正に犯罪的行為を犯したことになるため、一般の犯罪行為を行った場合への処分の問題と同様に処理すれば良いでしょう。一つの判断基準は免責の有無です。というのは、これらの行為に当る場合は免責とされないからです(破産法252条)。

(1)回避のための事前策

 これからの従業員の職務適性能力には正常な金銭感覚、金銭管理能力も不可欠と思われます。とりわけ、金融関係の業種や職場ではなおさらです。従って、就業規則に解雇理由又は退職理由として「破産宣告を受けたとき」を規定しておくのが必要です。その規定の効力については未だ確定した裁判所の考えは示されてはいないとしても、以上述べたような常識的な判断が、業種や従業員の地位、破産における負債額、破産に至る経緯などの総合的な事情の中で判断されて、そのような規定がない場合よりは有利な解決が得られることが予想されるからです。

 なお、社内貸付の回収のためには、社内貸付金の返済に関する破産申立てや破産宣告にうおる期限の利益喪失条項と退職金の前払いによる相殺を認める労働基準法24条の賃金控除協定の締結と、そのような控除を認める規程の整備が必要です。なお、この控除協定が無い場合にも、判例は合意相殺を認めていますが、最高裁は、労働者の同意に基づくと認めうる合理的な理由が客観的に存在することを求めていますので、交渉経緯等を証拠として残しておく必要があります(最判平2.11.26日新製鋼事件 民集44巻8号1085頁)。

 企業が確実に優先的に社内融資金を退職金から回収するためには、前述の控除協定や規程の整備だけでは足りず、企業の貸付債権を被担保債権とする質権を社員の退職金請求権に設定しておくことなどが工夫されるべきです。

 第二には、貸付金には、連帯保証人を取っておくことです。

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