法律Q&A

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懲戒処分・懲戒解雇と手続

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2007年1月補正:掲載

就業規則に記載された手続きを省略して行われた懲戒処分は法的には問題ないのでしょうか。

つい魔がさして会社のお金を横領してしまいました。懲戒されるのは覚悟していますが、会社は、就業規則に記載された懲戒委員会の設置や本人の弁明などの手続きを全部省略していきなり懲戒解雇の処分をしてきました。法的に問題はないのでしょうか。

回答ポイント

 原則として、会社に対して就業規則に従って、弁明の機会を与えるよう請求できます。又そのような措置を経ない処分を無効として争う可能性もあります。
解説
1.懲戒処分の種類と内容
 懲戒処分は企業秩序への違反者に対する制裁です。厚生労働省の平成17年9月15日の労働契約法制研究会の「最終報告」(以下、最終報告ともいう)によれば、労働者に対する懲戒処分の規定を有している企業は80.5%となっています。そのような企業の割合は企業規模が大きくなるほど高くなり、従業員 1000人以上の企業では98.9%となっています(独立行政法人労働政策研究・研修機構「従業員関係の枠組みと採用・退職に関する実態調査」平成16 年)。多くの企業の就業規則では大体次のような種類と内容の処分が規定されています。ほぼ軽い処分から挙げてみると、戒告(将来を戒めるのみで、始末書の提出なし)、けん責(始末書を提出させて将来を戒めること)、減給(労働者が受け取ることができる賃金から一定額を差し引くこと)、出勤停止(労働契約をそのままとして就労を禁止することです。普通賃金を支払わず、最長10日乃至15日間の期間が多い)、懲戒休職(出勤停止の期間を数ケ月以内とすること)、賞与の支給停止、昇給又は昇格の停止・延期、降格、論旨解雇(退職願や辞表の提出を勧告し、即時退職を求め、催告期間内に勧告に応じない場合は懲戒解雇に付するもの)、そして、後で詳しく触れる極刑としての懲戒解雇などです。この中で、労基法は減給だけについて「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」と規定しています(91条)。
2.懲戒権を持つには就業規則が必要
 懲戒権の根拠について最高裁は、労働者が、労働契約を締結したことによって企業秩序遵守義務を負い、使用者は労働者の企業秩序違反行為に対して制裁罰として懲戒を課すことができるが(最一小判昭和58.9.8 関西電力事件 判時 1094号121頁)、その行使に当っては就業規則の定めるところに従ってなしうるとしていましたが(最三小判昭和54.10.30 国鉄札幌運転区事件 民集33巻6号647頁)、最近、この理を明示した(最二小判平成 15.10.10フジ興産事件事件 労判861号5頁は、「使用者が労働者を懲戒するには,あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する」と判示している)。特に10人以下の事業所のため就業規則の作成義務のない事業所では(労基法89条1項)、懲戒規定がない場合があり注意が必要です。ただし、最終報告書も指摘しているように、「就業規則作成義務のない小規模事業場においても、個別の労働契約等で懲戒の根拠が合意されていれば、使用者は懲戒権を行使し得ることには問題はないと考えられ」ます。

 他方、東京高裁は、最高裁と同様に企業の一般的な秩序維持権限を認めながら、懲戒処分は企業秩序違反者に対し使用者が労働契約上行いうる通常の手段(普通解雇、配転、損害賠償請求、一時金・昇給・昇格の低査定など)とは別個の特別の制裁罰で、契約関係における特別の根拠を必要とするとの考え方から、使用者はこのような特別の制裁罰としての懲戒解雇を実施するために、その事由と手段とを、労働協約、就業規則や個別の労働契約などにおいて具体的に定めることが必要としました(東京高判昭和61.5.29 洋書センター事件 労民37巻2・3号257頁)。結局、実務的には懲戒に関する規定を詳細に置くことが無難です。特に10人以下の事業場のため就業規則の作成義務のない事業場では(労基法89条1項)、懲戒規定がない場合があり注意が必要です。

3.懲戒処分が有効となる条件
 具体的に懲戒処分を行う場合には、大体次のような基準でその効力の有無が判断されています(菅野和夫「労働法」第7版補正版378頁以下参照)。

(1)罰刑法定主義

 刑法の適用についての罰刑法定主義の応用で、2で述べた通り、懲戒処分をするためには、その理由となる事由とこれに対する懲戒の種類・程度が就業規則上明記されていなければなりません。又、同様にこのような根拠規定はそれが設けられる以前の違反に対して遡って適用することはできません(不遡及の原則)。更に、原則として同一の違反に対し重ねて懲戒処分を行うことはできません。但し、他の懲戒処分と共に命じた始末書が提出されない場合に、それをもって、何ら反省の色を示さず、将来も同様の業務命令違反を繰り返すであろう気配を見せていたものとみなして「懲戒を受けたにも拘らず、なお改悛の見込みがないとき」との懲戒事由に当るとすることができる場合があります(神戸尼崎支判和49.1.25 和光タクシー事件 労判198号64頁)。

(2)平等取扱の原則

 同じ規定に同じ程度に違反した場合には、これに対する懲戒は同一種類、同一程度であるべきとされます。従って、懲戒処分は、同様の事例についての先例を踏まえてなされなければなりません。又、ここから従来黙認してきた種類の行為に対し処分を行うには、事前の充分な警告が必要となります。

(3)相当性の原則

 特に懲戒解雇について 懲戒は、規律違反の種類・程度その他の事情に照らして相当なものでなければなりません。懲戒処分に対して裁判所が処分が有効かどうかを決める主要な基準はこの原則です。つまり、多くの懲戒処分(特に懲戒解雇)が、懲戒事由には該当するとされながらも、当該行為や被処分者に関する諸般の事情を考慮され、重過ぎるとして無効とされています。使用者が重すぎる量刑をした場合は、懲戒権を濫用したものとされるのです。

 特にこのチェックは懲戒解雇に対して厳格になされています(最近の東京地判平18.2.7光輪モータース(懲戒解雇)事件 労判911-85でも、通勤経路の変更後も約4年8ヶ月にわたって従前の定期代(合計347,780円)を不正受給していたことを理由とする懲戒解雇につき、就業規則上の服務規律「故意又は重大なる過失により会社に損害を与えた」ものとして軽視できず、その後の対応も不誠実であったといえるが、その動機、損害労使交渉の経緯等を考慮すれば、本件不正受給について最も重い懲戒処分である懲戒解雇をもって臨むことは企業秩序維持のための制裁としては重きに過ぎ、客観的な合理的な理由を欠き、社会通念上相当性を欠くものとして無効とされた)。なぜなら「懲戒解雇」は一般に処分の中での極刑であって、通常は解雇予告も予告手当の支払もせずに即時になされ、又退職金の全部又は一部が支給されない、とされているからです。しかし、懲戒解雇と労基法上の即時解雇(20条1項但書)とは必ずしも一致しません。労基署が予告手当なしの即時解雇の事前認定をそう簡単には出してくれないため、予告手当を支払って即時解雇を選ぶべき場合が多いのです。又、退職金が全額支給される懲戒解雇もあります。結局、懲戒解雇に特有の性質は、「懲戒」という名が付けられることによって再就職の重大な障害となるという不利益を伴うことです。

 いずれにせよ、以上の(1)ないし(3)の判断基準を要約すれば、使用者の懲戒権の行使が客観的に合理的な理由を欠き、又は社会通念上相当として是認し得ない場合には懲戒権の濫用として無効とされる(東京高判昭和61.5.29 ダイハツ工業事件 判時1093号135頁)という訳です。

(4)適正手続

 最後に懲戒処分を行う際には適正手続の保障が要求され、就業規則上(又は労働協約上)組合との協議などが要求される場合は、この手続を遵守すべきは勿論、そのような規定がない場合にも本人に弁明の機会を与えることは最小限必要とされています。多くの場合、これらの弁明の機会が与えられない懲戒処分は、軽い処分についてささいな手続上のミスがあるに過ぎないとされるものでない限りは、懲戒権の濫用として無効とされています(福島地会津支判昭 52.9.14 東北日産電子事件 労判289号63頁、東京地判平8.7.26 中央林間病院事件 労判699号22頁等)。ただし、裁判例の中にはこれを余り重視しない例も少なくないことに留意する必要があります(東京高判平11.7.19時事通信社事件 労判765-19 等)。最近、懲戒解雇に関する事案においてさえ、日本工業新聞社事件(東京高判平成15.2.25労経速1880号25頁)は、「弁明の機会の付与」等の懲戒手続きが、「内部的な自律的制限機関」にすぎないとして、処分の有効性に影響を与えないとしています。しかし、千代田学園(懲戒解雇)事件(東京高判平成16.6.16労判886号93頁)では、被控訴人労働組合員ら12名に対する懲戒解雇につき、賞罰委員会の推薦または申告により行われたことが認められず、同人らに弁明の機会を与えていないから,本件懲戒解雇は就業規則ないし賞罰委員会規制の手続規定に違反するものとして無効とした一審判決が維持されており、裁判例はかならずしも統一されていません。

 なお、手続に関連して、非違行為と処分の時間的間隔が相当大きい場合、前述の相当性や信義則にも関連して懲戒処分の有効性に否定的に傾くことが予想されますが、ネスレジャパンホールディング事件(東京高判平成16.2.25労経速 1890号3頁)では、懲戒事由(暴行)が発生してから本件解雇がされるまで7年半もの時間が経過しているが、懲戒事由が発生してから解雇がなされるまで相当な期間が経過しているがゆえに本件解雇が解雇権の濫用、信義則違反とはいえず、使用者の懲戒権は、商法522条本文に規定する商行為によって生じた債権とはいえず、懲戒権が時効により消滅したとはいえないとして、同解雇を有効としており注目されました。しかし、いかにも座りが悪い感は否めなかったところ、その上告審・最二小判平成18・10・6裁判所時報1421号17頁にて、「本件各事件から7年以上経過した後にされた本件諭旨退職処分は,原審が事実を確定していない本件各事件以外の懲戒解雇事由について被上告人が主張するとおりの事実が存在すると仮定しても,処分時点において企業秩序維持の観点からそのような重い懲戒処分を必要とする客観的に合理的な理由を欠くものといわざるを得ず,社会通念上相当なものとして是認することはできない。」とされ懲戒解解雇は無効とされました。

予防策

 判例・学説に従えば、懲戒処分の根拠や手続きは就業規則の定めの有無と内容に大きく左右されるため、各種の非違行為・服務規律違反等と懲戒手続(弁明の機会等)に関する規定を整備し、それがルーズにならないように、管理職による管理を徹底することです。
 なお、最終報告の「不当な懲戒を抑制し、懲戒をめぐる紛争を防止する観点から、懲戒解雇、停職(出勤停止)、減給のような労働者に与える不利益が大きい懲戒処分については、対象労働者の氏名、懲戒処分の内容、対象労働者の行った非違行為、適用する懲戒事由(就業規則等の根拠規定)を、書面で労働者に通知させることとし、これを使用者が行わなかった場合には懲戒を無効とすることが適当である。」「使用者が懲戒事由等の書面通知を行うことは、労働者が懲戒に納得できない場合に不服申立て等をできるようにするためにも、また、使用者が慎重に懲戒事由等を検討するようになることからも、非常に重要である。/加えて、労働者の不利益に比較して使用者の負担はあまり大きくない。このことから、使用者が書面通知を行わなかった場合の懲戒解雇、停職、減給は無効とすることが適当である。」「使用者の意図として口頭注意を懲戒として行う場合にこれを書面通知させることの整合性や、戒告、口頭注意を無効とすることの法的意義が不明確である(昇進・昇給や賞与等への影響がある場合であってもそれは総合的な評価の結果であって、懲戒それ自体の直接的効果とは必ずしも認定できない。)こと及び使用者の負担を考慮するならば、労働者に与える不利益が明確な懲戒処分に限って書面通知を求めることが適当である。」「懲戒は労働者の弁明を聴取した後でなければできないとすることについては、弁明の聴取を促進することは適当であるが、これを行わない懲戒を一律に無効とすることについては、労働者が所在不明であるなど使用者が手続を遵守し難い場合があることや、使用者の負担が大きく中小零細企業が対応できないおそれがあること、懲戒処分に時間を要することとなるため、懲戒手続の実施中に労働者が退職してしまう場合があること等の弊害が生じ得ることから適当でない。まずは書面通知によって、懲戒の理由等に納得がいかない労働者が自ら使用者に対して不服申立てをしたり紛争解決制度を利用したりするための材料を提供することが重要と考えられる。」との提言は、立法論ではありますが、懲戒処分時の対応や、就業規則等での懲戒規定を定める際には、十分に参酌されるべきものと考えます。

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