法律Q&A

分類:

身元保証人の責任範囲

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2000年10月掲載:補正

従業員がコンピュータを壊してしまって、身元保証人に賠償を求めようとしたら?

A社の従業員BがA社のコンピュータを壊してしまいました。ハード自体もさることながら中の色々なデータについてたまたまバックアップを取っていなかったため、その復元には莫大な費用がかかることが分かりました。Bは責任を感じて賠償をしたいと申し出ていますが、一人ではとてもその支払いを負担しきれません。A社としては、Bには身元保証人Cが居るのでCに対しても、その負担を求めたいのですがどのように求めたら良いでしょうか。

賠償を請求できますが、一部減額去れることがあります。

1.身元保証人の意味
「身元保証人」の言葉からすると、何か「本人の出身・素性・経歴について間違いないことを確認する人」といったイメージがあります。現にそのように理解して安易に身元保証人となっている人も多いようです。会社の方でもその程度の効果しかないと思っている向きもあります。裁判例でも、一般に身元保証の場合は、身元保証人の証書を差し入れるのが通常であり、これがないということは単に人物の保証をしたに過ぎないとされた例もあります(東京地判昭和40・12・23判時437-50)。しかし、一般的に用いられ、設問のような場合に法的に意味がある身元保証とは、「従業員の行為に因って会社が被った損害を賠償することを約束すること」です(身元保証法1条)。このような身元保証人は、極めて責任の範囲が広いため、保証人の責任が重くなり過ぎる危険があるため、身元保証法によって、次のような制限が加えられています。
2.身元保証法による責任の制限
先ず、期間は定めがあれば5年までとされ、なければ3年とされ(2条)、いわゆる自動更新の規定は無効とされます。このため期間満了後も身元保証人を必要とする場合、期間満了の都度、身元保証契約を締結しなければならないのです(a東京地判昭和45・2・3判タ247-280)。
次に会社は、従業員について業務上不適任と考えたり、転勤で勤務内容を大きく変更した場合は身元保証人に対してそのことを報告しなければなりません(3条)。通知を受けた身元保証人は将来に向かって保証契約を解除することができます。しかしこの解除権を行使しない限りいかに勤務内容が変化し、例えば普通銀行員として入行した者が銀行支店長に就任したからと言っても、身元保証契約が失効することはありません(b泉州銀行事件・最二小判昭和44・2・21判時551-50)。
3.あらゆる事情の考慮による制限
最も大事な規定が、保証責任の裁判所による制限に関する規定です(5条)。裁判で争われるもほとんどこの規定による責任範囲です。条文では、裁判所が身元保証人の責任範囲を制限する際に考慮する事情として、【1】会社側の過失、【2】保証するに至った経緯、【3】その他一切の事情が掲げられています。例えば、使用者が右通知義務を怠っている間に、被用者が不正行為をして身元保証人の責任を惹起した場合に、右通知の遅滞は、裁判所が身元保証人の損害賠償の責任及びその金額を定める上で斟酌すべき事情として考慮されます(cユオ時計事件・最二小判昭和51・11・26判時839-68)。
4.会社の従業員に対する求償権も制限されます
なお、民法715条3項による会社の従業員に対する求償権の行使の制限に対する判例の次のような判断基準も、従業員自体と身元保証人における責任の限定について参考となると思われます。つまり、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるとされているのです(d最一小判昭和51・7・8民集30.7.689)。なお、横領の損害額の全額が不明な段階で社員の親族から損害賠償の責任を負うなどの念書を貰ったような場合についても、身元保証法第5条の責任制限の規定の適用があるとされています(e最一小判判昭和57・12・2民集36-12-2359)。

対応策

設問の場合、そもそもA社がBに対して請求できる損害の範囲について、d判決の指摘するような事情を考慮すると、コンピュータへの保険をかけたり、当然なすべきバックアップを取っていなかったことなどから、全額の請求をすることは困難でしょう。これに加えて、身元保証法5条による制限も考えるとCに対して現実に請求できる損害額は大体2分の1位と考えて示談に当った方が無難です。但し、相手方が全く賠償の意向を示さない場合には、戦術的には、建前通り全損害額を請求して、裁判所の判断を求めるしかないでしょう。

予防策

第一は各種の損害保険に加入し、身元保証人に頼らなくても損害の回復がはかれるシステムを作ることが肝要です。第二には身元保証法上の身元保証契約であることを明記した契約書を用いること、第三に確実に身元保証契約を5年毎に切り替え、この切り替えに協力しないことを、就業規則上の解雇理由や期間雇用者の更新拒絶理由に掲げておくこと(新規採用時の事案ですが、このような規定を前提として金銭貸付会社において、身元保証書の不提出を理由とする解雇が有効と認められた例として、シティズ事件・東京地判平成11.12.16労判780-61参照)。第四には身元保証人への通知義務を怠らないこと。第五に最も大事なのだが、身元保証人の資力・支払能力・資産の所在などを確認しておくことです。第六に身元保証契約書は必ず保証人本人の自筆で書いて貰い実印による押印と印鑑証明書を添付しておくことも必要です。前に述べたように身元保証人には無頓着でなっている人が多く、身元保証契約の締結自体が争われる危険があるからです。

身近にあるさまざまな問題を法令と判例・裁判例に基づいてをQ&A形式でわかりやすく配信!

キーワードで探す
クイック検索
カテゴリーで探す
新規ご相談予約専用ダイヤル
0120-68-3118
ご相談予約 メルマガ登録はこちら