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社内で暴力行為をした社員に出勤停止を命じる場合の留意点

弁護士 難波 知子
2010年8月掲載

出勤停止を命じる場合の注意点は何か

2週間ほど前、ある社員が社内で暴力行為に及びました。それを見た上司が、本人に対し、「しばらく出てこなくてよい」と指示し、それ以降、その者は出社していません。当社としては、この措置自体、懲戒処分ではなく、処分を決めるまでの間、自宅で待機させているだけとの認識です。懲戒処分としての出勤停止も含め、出勤停止(自宅待機)処分を行う場合の注意点を教えてください。

回答ポイント

業務命令としての出勤停止(自宅待機)が有給であれば原則として問題はありませんが、無給であれば実質的な正当な理由がない限り許されません。また、懲戒処分としての出勤停止は就業規則上の懲戒事由に該当し、期間等処分が相当なものでなければなりません。
解説
1出勤停止(自宅待機)について
ア 出勤停止には、懲戒処分として、労働契約をそのまま存続させながら労働者の就労を一定期間禁止するものと、懲戒処分の前置措置として、懲戒処分等をするか否かにつき調査決定するまでの間、業務命令により就労を一定期間禁止するものがあります。後者は、自宅待機とも呼ばれています。貴社は懲戒処分として出勤停止(自宅待機)を行っているわけではないとのことですので、本件は、後者の場合に該当します。そして、その場合、有給の場合と無給の場合が想定できます。

イ 有給での自宅待機
業務命令としての出勤停止(自宅待機)については就業規則で定められている会社も少なくないと思われます。この場合、有効な命令を発することができますが、仮に、就業規則等の定めがなくとも、労働者には原則として就労請求権はないと解されていますので、賃金を支払えば、当該業務命令は有効に発することができます。
 ただし、恣意的な理由、不必要な長期間に渡って出勤停止(自宅待機)を命じる等相当な理由がなく、人事権の濫用とされる場合には、業務命令は有効とはなりませんので、本件でもその点には注意が必要です。
 裁判例には、人事権行使として、処分確定の調査、処分の原因となった事項の除去のため、自宅待機とした処分について人事権の行使として適法なものであり人事権の濫用とは認められないとしたもの(星電社事件 神戸地判平3・3・14 労判584号61頁)、自宅待機処分が適正に職務能力試験を実施した結果業務に従事させることが不可能になったことによるものであり適法としたもの(ノース・ウエスト・エアラインズ・インコーポレイテッド事件 千葉労委命令 平18・2・20 労経速1931号12頁)等があります。

ウ 無給での自宅待機
 他方、無給の場合、使用者は、事故の発生、不正行為再発、証拠隠滅の危険等従業員の就労を拒否する正当な理由がない限り、民法536条2項(履行不能の場合の反対給付請求権の有無に関する原則)に照らして、会社は賃金支払義務を免れられません(日通名古屋製鉄事件 名古屋地判平3・7・22判タ773号165頁等)。近時の裁判例でも、自宅待機するにあたり給与減額の合意があったとは認められないので会社は自宅待機中の給与減額分を支払う義務があるとしたもの等があります(トラストシステム事件 東京地判平19・6・22 労判953号89頁、岩出誠『実務労働法講義』第3版上巻[平22民事法研究会]616頁等参照)。

エ 本件においても、有給での自宅待機である場合、権利の濫用等の事情がない限り問題はないでしょう。他方、無給での自宅待機の場合は、当該労働者の就労を拒否する正当な理由がない限り、許されませんので注意が必要です。

2 懲戒処分としての出勤停止について
ア 懲戒処分としての出勤停止は、通常、賃金が支給されず、勤続年数にも参入されていません。就業規則上このように規定している会社も多いと思われます。この点、就業規則上、出勤停止とは別に懲戒休職を定めている会社もあります。前者については、7日から15日間と定めている会社が多く、後者については1ヶ月から3ヶ月と定めている会社が多いといえます。
出勤停止処分について、明示の法規制はありませんが、行政解釈でも「公序良俗の見地より当該事犯の情状の程度等により制限のあるべきことは当然である」とされていますので(昭23・7・3基収2177号)、相当な期間を超える処分をした場合は、公序良俗(民法90条)等により、無効とされる可能性があります。なお、賃金が支払われない出勤停止の場合、賃金が支払われないことは制裁としての出勤停止の当然の結果ですので制裁規定の制限を定める労基法91条の適用はありません。

イ 懲戒処分としての出勤停止に関する裁判例としては、まず、業務命令拒否を理由とした20日間の出勤停止処分について、諸事情を考慮し「必ずしも合理的理由を欠くものではなく、社会通念上相当として是認できないものではな」く「権利の濫用であるとすることはできない」と判断しているものがあります(ダイハツ工業事件 最判昭58・9・16労判415号16頁)。この裁判例からは、情状の程度により最長で1ヶ月程度は出勤停止処分が認められるのではないかと考えられます。
他方、園外保育中に二人の園児を一時見失ったことを理由としてなされた保母の出勤停止処分につき、「7日間の出勤停止処分は重きに失する」「裁量権を逸脱し、無効である」としているもの(社会福祉法人七葉会事件 横浜地判平10・11・17労判754号22頁)もありますので、事情に即し必要、相当な範囲での出勤停止処分であることが必要といえます。
また、懲戒休職の場合、上記のとおり、期間も長く賃金が支給されず、勤続年数にも算入されないのが通例であり、労働者に重大な不利益を与えますので、休職事由該当性、処分の相当性等については、労働契約法15条に基づき厳格に判断されています。
裁判例でも、懲戒休職6ヶ月では最高限度であり、長期の給与の不支給を伴う重いものであって、「休職3ヶ月の限度で有効であり、これをこえる部分は懲戒権の濫用であって効力がないと認めるのが相当である」としたものがあります(岩手県交通事件 盛岡地一関支判平8・4・17労判703号71頁)。

対応策

以上より、有給での自宅待機である場合、権利の濫用等の事情がない限り問題はないといえます。他方、無給での自宅待機の場合は、当該労働者の就労を拒否する正当な理由がない限り、許されませんので注意が必要です。今後、懲戒処分としての出勤停止処分を行う場合には、就業規則上の懲戒事由該当性、期間等処分の相当性について、客観的な証拠を集め、それをもとに検討の上、相当な処分とすることが重要になるといえるでしょう。

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