法律Q&A

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自己破産した社員について社内融資制度の利用を制限することは可能か

弁護士 村木 高志
2011年01月:掲載
2017年03月:補正

自己破産した従業員につき、会社の福利厚生制度の利用を制限することは可能なのでしょうか

当社では、住宅や教育資金に関する各種融資制度を設けていますが、その適用については、「勤続5年以上」という条件以外、特に制限を設けていません。そこで、自己破産した従業員については、“金銭関係の自己管理能力に難あり”という視点から、同融資制度の利用を認めない、としたいのですが、このような措置には問題がないでしょうか。

各種融資制度につき、自己破産した従業員の利用を認めないとすること自体は可能です。ただし、新たにそのような条件を付けることは、労働条件の不利益変更に該当すると考えられますので、労働協約の締結や、就業規則の不利益変更の規制を踏まえた対応策を採る必要があります。

1 福利厚生としての融資制度について
福利厚生制度には、社会保険や労働保険のように、法律で定められているもののほか、会社が独自の施策に基づいて実施するものがあります。後者の例としては、見舞金などの金銭の給付、住宅の貸与のほか、会社の更衣室や運動施設、保養所など従業員が共同で利用する施設を提供することなどが挙げられます。そして、ご質問にある住宅や教育資金に関する各種融資制度も、会社が独自に実施する福利厚生制度の代表的なものであるといえます。
2 福利厚生制度の実施と法的制限について
このような会社が独自に実施する福利厚生制度については、もともと任意的・恩恵的なものであると言えますので、本来的には、会社側が自由に制度設計を出来ることになります。最近では、時代の変化によって、多種多様な形態を持つ福利厚生制度が現れています。中には、カフェテリアプランと呼ばれるもの(従業員があらかじめ決められた点数などを使って希望する福利厚生制度を選択するもの)や、福利厚生のアウトソーシングなども見られるようになっています。したがって、住宅や教育資金に関する各種融資制度についても、基本的には、会社が独自の判断で制度設計をして実施することができるということになります。ただし、会社による恣意的な運用を防止する観点から、法的な制限に服する場合もあります。たとえば、住宅や教育資金に関する各種融資制度に、違約金・賠償予定や前借金と賃金の相殺の制度が含まれていれば、これは禁止されますし(労働基準法16条、17条)、また、住宅資金の貸付けその他これに準ずる福利厚生の措置については、性別を理由とした差別的取扱いが禁止されています(男女雇用機会均等法6条2号)。
3 自己破産した従業員の融資制度利用を制限することについて
そして、会社が独自の施策に基づいて実施する福利厚生制度が、本来的には会社側が自由に制度設計出来るものであるという観点からすれば、ご質問のケースの住宅や教育資金に関する各種融資制度につき、自己破産した従業員の利用を制限すること自体は、特に、特別な明文の法律上の問題がないものと言えます。また、実質的に考えても、自己破産した従業員が融資制度を利用することを制限したとしても、不当労働行為や性別による差別などには当たりませんし、また、自己破産をしたという事情は、当該従業員の返済能力に不安があるということを客観的に推認させる事情であると言えますので、自己破産した従業員の各種融資制度の利用を認めないとすることは、不合理な制限であるとまでは言えません。したがって、このような制限自体は可能であるということになります。
4 制度化された各種融資制度の変更について
ただし、ご質問の住宅や教育資金に関する各種融資制度が、就業規則や労働協約において規定化されている場合、これは任意的・恩恵的な性格を持つものにとどまらず、労働契約の内容である労働条件であると言えます。そして、ご質問のケースの場合、今までは、「勤続5年以上」という条件しかなかったにも関わらず、今後は「自己破産した従業員には適用を認めない」という条件を加えた取り扱いをすることになりますので、労働条件の不利益変更の問題となり得ます。すなわち、自己破産者につき、"金銭関係の自己管理能力に難あり"という視点から、いきなり融資制度の利用を認めない、とすることには問題があります。この場合、労働組合との間で各種融資制度に関しての新たな内容の労働協約を締結することや、あるいは、就業規則の変更をする必要があります。なお、就業規則の変更については、就業規則の変更を労働者に周知させ、かつその変更が合理的な場合に、労働条件は変更後の就業規則の定めによるとの効果が生じることになります(労働契約法10条)。

対応策

したがって、あらためて、破産者の融資制度利用を制限する制度にするということであれば、上記のとおり、新たな内容の労働協約を締結することや、あるいは、就業規則の変更をする必要があります。
そして、就業規則での変更の場合、ご質問の各種融資制度の場合、破産者の利用を制限すること自体は、上記のとおり不合理なものであるとまでは言えないと思われます。したがって、当該規定に経過措置を設けることや、あるいは、破産者が当該制度を利用することができない期間に制限を設けること(たとえば破産免責決定の確定から7年間は、融資制度の利用をすることができないとすること)などの配慮があれば、当該変更の合理性がより認められ易いものになるでしょう。

予防策

既に述べたとおり、最近では、時代の変化によって、多種多様な形態を持つ福利厚生制度が現れています。そこで、福利厚生の制度について、会社の経営状態と従業員の意識の変化などに応じて、その制度設計を、今の時代に合うような形に見直すことが有用であるといえるでしょう。
また、これまで、福利厚生の制度は、主に正社員に対するものという位置づけがされてきましたが、今後は、非正規雇用の従業員に対する福利厚生の制度のあり方も、十分な検討を要する課題となると言えます(既に、パート労働法3条においては、均等処遇の実現のための措置の一つとして、「福利厚生の充実」が挙げられています)。

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