法律Q&A

分類:

マイカー利用の交通事故の責任

弁護士 近藤 義徳
1997年4月:掲載(校正・木原 康雄(ロア・ユナイテッド法律事務所)2007年11月)

従業員が、通勤途中にマイカーで交通事故を起こしたら?

会社の従業員が、マイカーで通勤途中に過って交通事故を起こしました。被害者は会社に損害賠償を求めてきましたが、会社も責任を負わなければならないのでしょうか。

マイカーが純粋に通勤目的のみに用いられていれば、会社は使用者責任を負わないとされる可能性が高いといえます。

1.損害賠償責任の根拠
 会社の従業員が過失によって交通事故を起こした場合、事故を起こした本人が損害賠償責任を負うのは当然ですが、会社も「使用者」(民法715条)あるいは「運行供用者」(自賠法3条)として責任を問われる場合があります。
2.使用者責任
 使用者は、被用者がその「事業の執行について」第三者に加えた損害の賠償をしなければなりません(民法715条1項)。
「事業の執行について」とは、広く被用者の行為の外形を捉えて客観的に観察したとき、使用者の事業の態様・規模からしてそれが被用者の職務行為の範囲内に属するものと認められる場合で足りるとされています(最判昭和42.11.2民集21.9.2278)。
 この点、従業員がマイカー通勤途上で起こした交通事故に関しては、マイカーが純粋に通勤目的のみに用いられており、業務に一切使用されていない場合には、「事業の執行について」生じたものとは言えず、使用者責任は生じないとするのが判例です(最判昭和52.9.22民集31.5.767)。
これに対し、マイカーを会社が積極的に提供させ、業務に利用していた場合のほか、マイカーが通勤だけでなく業務のためにも日常的に使用されており、会社がこれを容認、助長しているような場合には、例外的に、たとえ通勤途上であっても外形的には職務行為の範囲内であり、「事業の執行に付き」なされたものにあたると一般に考えられています。
もっとも、近時の裁判例(福岡地裁飯塚支判平成10.8.5判タ1015.207)は、会社がマイカー通勤を前提として従業員に通勤手当を支給していた事案につき、「通勤を本来の業務と区別する実質的な意義は乏しく、むしろ原則として業務の一部を構成するものと捉えるべきが相当である。したがって、マイカー通勤者が通勤途上に交通事故を惹起し、他人に損害を生ぜしめた場合(不法行為)においても、右は『事業の執行につき』なされたものであるとして、使用者は原則として使用者責任を負う」として、使用者責任の成立を緩やかに認めていますので、注意が必要です。
3.運行供用者責任
 交通事故が人身事故であった場合には、自賠法が適用されますので、会社が同法の規定する「自己のために自動車を運行の用に供する者」に当たると、損害賠償責任を負わされます(自賠法3条)。
「運行供用者」とは、加害車両について運行支配及び運行利益を有する者と一般に定義されますが、マイカー通勤途上の事案において、会社(使用者)がこの「運行共用者」にあたるかどうかについては、上記使用者責任の「事業の執行について」の解釈とほぼ同様に考えられていますので、使用者責任が成立するような事案では「運行共用者」に該当するとされる可能性が高いでしょう(最判昭和52.12.22判時878.60等)。

対応策

1.交渉
 被害者から損害賠償を請求された場合、会社としては、従業員のマイカーが純粋に通勤目的のみに用いられていれば、そのことを明らかにする客観的な資料を被害者に示して、使用者責任が発生しないことを説明すべきでしょう。

2.紛争処理
 被害者との直接交渉で解決できない場合は、[1]交通事故紛争処理センターの利用、[2]日本弁護士連合会交通事故相談センターの示談斡旋の利用、[3]いくつかの弁護士会が行っている斡旋仲裁制度の利用や、[4]民事調停、民事訴訟による解決を考えなければなりません。
それぞれ、費用や、解決に要する期間等手続きについて違いがありますので、詳しいことは、弁護士会や弁護士に相談するのが賢明です。

予防策

 会社としては、従業員のマイカーを会社の業務に利用する事は、できるだけ避けるべきです。
 そして、従業員のマイカー利用が純粋に通勤目的のみに用いられていることを客観的に明らかにするためには、[1]従業員のマイカー通勤、出張時のマイカー利用を原則として禁止し、例外的にマイカーを利用する場合は、上司の許可を要すること等を定めた社内規定を設けること、[2]社内規定を書面で配布するなど、従業員に周知徹底させたことを証拠化しておくこと、[3]マイカー通勤についてガソリン代等の便宜を供与しないことが必要です。
 また、万一会社の責任が認められる場合に備え、従業員に任意保険への加入を義務付け、未加入の従業員のマイカー通勤はすべて禁止するのが望ましいといえます。

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