法律Q&A

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盗難車両による交通事故

弁護士 菊地 健治
2000年10月:掲載(校正・木原 康雄(ロア・ユナイテッド法律事務所)2007年11月)

盗難された車両により交通事故が起きたら?

当社の社員が社有車を使用して取引先に訪問していたところ、車に鍵を付けたままだったので、訪問中に社有車を盗難されてしまいました。盗難した者が社有車を運転中人身事故を起こしてしまったようです。当社は車の所有者として責任を負わなければならないのでしょうか。

盗難されたときの状況によっては責任を負うこともありえます。

1.
 あなたの会社の車であっても、無関係の第三者が起こした事故ですから、会社が責任を負ういわれはないとも思われます。
2.
 しかし、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」といいます。)3条本文では、「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる」と運行供用者の責任が規定されています。
 したがって、あなたの会社がこの「運行共用者」にあたるとされないかが問題になります。
 「運行供用者」とは、加害車両について運行支配(及び運行利益)を有する者と一般に定義されますが、この点の判例を概観すると、車の所有者と運転者との間に雇用関係や、身分関係等の人的関係がある場合、所有者運行利益がある場合、返還予定がある場合、所有者が運転者に運転を許容するであろうことが予測される状況である場合等であれば、所有者は当該車両の運行を支配しているといえ「運行供用者」にあたる(最判昭和39年2月11日判時363号11頁等)が、このような場合でなければ、所有者に運行支配・運行利益はなく、原則として「運行供用者」にあたらないと考えられているといえます。
そして、盗難車の場合につき東京高判昭和62年3月31日判タ645号226頁は、車の盗取が乗り捨ての意思でなされ、客観的に見て運転者において盗取者による運転を容認したと同視しうる状況も存しないときは、責任がないと判示しています。
3.
 もっとも、上記東京高裁の判決は、同時に、運転者において車両管理上の過失があった場合には、民法715条の使用者責任によって、運転者を使用していた会社に責任が生じる可能性があることも認めています(ただし、この判決では、事故を起こしやすい者がその自動車を無断で運転する危険が具体的に予見されない状況下で行われたこと、自動車を離れる時間が短かったこと(この判決の事例では、自動車を離れて近くの商店に駆け込んで110番通報している間の時間でした)から、運転者に車両管理上の過失があったとはいえないとして、使用者である会社の民法715条による責任も否定しました。)ので、注意が必要です。

対応策

 したがって、上記の判例の事例からしますと、車から離れていた時間が短かったときなどでは会社は責任を負わないものと思われます。
しかしながら、会社が民法や自賠法の責任を負うかどうかはこのように法律解釈の問題になってきます。ですから、事実関係が不明であるときや、前記の判例に照らして責任の有無が明白でないときなどは、弁護士に相談して場合によっては弁護士に交渉の代理を依頼すべきときがでてくるでしょう。

予防策

 いずれにしても盗難車での事故は事実関係がポイントになるだけに、裁判沙汰になる可能性も高い事例といえます。特に、被害者が人身事故を負い、車を盗んだ加害者が賠償の資力もなく、しかも任意保険にも加入していなかった場合などは、資力のある会社を相手に訴訟を提起してくる可能性は高いといえます。
 そこで、根本的にこのような裁判沙汰になるような事態が起こらないようにするには、従業員に対して、車を離れる際には短時間であってもエンジンを掛けっぱなしにしたり、鍵を付けっぱなしにしないなど鍵の管理について基本的な事項を徹底して教育し、就業規則にも罰則を伴う形でその旨明記することが必要でしょう。車が会社の所有物であることから、従業員の軽率な行動によって多大な損害を被るおそれがあるということをよく理解させることです。

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