法律Q&A

分類:

自殺と労災

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2007年1月補正:掲載

従業員が仕事がきついと書き残して自殺してしまいました。会社の法的な責任はどうなりますか?

設計会社A社は一級建築士の従業員Bに対し大手鉄道会社から受任した地下駅舎の設計を指示し、その作業に就かせました。ところが施主の都合や新技術の導入などが重なり次々と設計変更があり、Bは、不眠を抱え、精神科に通い始め、神経症うつ病などと診断された挙句、仕事がきついと書き残してホームから飛び込み自殺をしてしまいました。A社としては、Bの遺族に対して労災の認定につき協力したいがどうしたら良いのでしょうか、又、その場合労災だけで終るのでしょうか。

遺族から労災認定申請への協力要請や損害賠償請求があることを忘れないで下さい。

1.自殺と労災申請・賠償請求の急増と電通事件最高裁判決
 自殺は、従来、20,000~25,000人程度で推移していたのが、平成11年以来約8年間連続して年間3万人台を継続するなど、働き盛りの世代の男性にとって、いわゆる過労死以上に大きな割合と数となっています。又、いわゆるバブル崩壊以降の失業率と自殺数の増加率は極めて酷似した上昇傾向を示しており、いわゆるリストラや最近の成果主義的人事制度のプレッシャー等による職場のストレスがその大きな一因となっていることは否めません(平成16年8月 18日公表の厚生労働省「過重労働・メンタルヘルス対策の在り方に係る検討会」報告書(座長 和田 攻 東京大学名誉教授)等参照)。この急増し、深刻化する自殺に対して、いわゆる過労自殺としての労災認定申請、企業に対する賠償責任を求める動きが加速しています。その中で、後述するように、平成12年3 月24日には電通事件について、最高裁が、初めて過労自殺への企業責任に関する判断を示し、これを契機に、過労自殺をめぐる前述の労災申請、損害賠償請求は加速度を増しています。
2.いわゆる過労自殺の労災認定
(1)自殺の労災認定新基準公表

従前の過労自殺型の認定基準

 従前、厚生労働省は、自殺につき、極めて例外的にしか労災認定をしてきませんでした(質問の事案に類似した認定例である昭和59.2.14基収330号等)。
過労自殺損害賠償認容判例の相次ぐ出現-電通事件判決のインパクト(東京地裁判決の概要)

 かかる状況に劇的に変更を迫ったのが、後に再論する通り、過労による自殺をめぐり、企業に対して安全配慮義務違反を理由として損害賠償を初めて認めた判決である東京地裁平8.3.28  電通事件(労判692号12頁)の出現でした。なお、この事件は、後述の通り、東京高判平9.9.26労判724号13 頁で賠償額は減額されましたが、会社の責任については、基本的に維持され、最判平12.3.24 労判779号13頁でも、責任論については、原審を支持しています。
過労自殺型の労災認定判例の相次ぐ出現

 以上の損害賠償請求事件の動向を反映し、裁判例においても、海外出張中の新入社員の入社後間もなくの2ヶ月に及ぶインド出張中の自殺について、現地でのトラブルから反応性うつ病にかかり自殺したとして、業務上の理由によるものとして、ストレスなどによる自殺について労災保険の適用が、裁判上初めて認められた例(神戸地判平成8.4.26 加古川労基署長事件 労判695号31頁)、長野地判・平成11.3.12 大町労基署長事件判決 労判764号43 頁も、従来の過労自殺の判断枠組みより柔軟に認定しました。

(2)過労自殺型の新認定基準の公表

 以上の中で、厚生労働省は、過労自殺の労災認定に関する新認定基準を公表しました(平成11年9月14日基発第554号・心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針、以下、新基準という)。

(3)新基準の概要

 新基準は、概ね以下の通りです。

[対象疾病]

  1. 分類の国際基準化
    先ず、労災認定の対象となる精神障害(以下、対象疾病と言う)につき、従前の慣用的診断名の、うつ病等の分類によることなく、原則として国際疾病分類第10回修正(以下「ICD-10」という。)第V章「精神および行動の障害」に分類される精神障害としました。
  2. 業務起因性ある対象疾病の拡大
     対象疾病の内、主として業務に関連して発病する可能性のある精神障害は、ICD-10のFOからF4に分類される精神障害とされます。これは、旧基準及び従前の労災認定の実態がうつ病等(F4の分類)に限定されていたことからすると認定対象を拡大したものと評価されますが、いわゆる心身症は対象疾病には含まれていません。しかし、心身症による自殺についても、損害賠償事件においてではありますが、既に、心身症と自殺との因果関係を認め、企業の損害賠償責任が認められるものも現れており(大阪高判平成10.8.27 東加古川幼児園事件 労判744-17)、今後、基準の改正もあり得ます。又、上記精神障害の発症の点についても、同じく過労自殺損害賠償事件においては、既に、反応性うつ病罹患の有無や、うつ病と業務との因果関係などを厳格に認定判断することもなく、過重業務と自殺との因果関係、企業の損害賠償責任を認めるものも現れており(例えば、札幌地判平成10.7.16 協成建設事件 労判744号 29頁)、この点でも、今後、基準の改正もあり得ます。

[判断要件について]

 精神障害の労災認定に当たっては、次のa、b及びcの要件のいずれをも満たすことが必要とされ、その際の心理的負荷の強度の評価については、労災保険制度の性格上、本人がその心理的負荷の原因となった出来事をどのように受け止めたかではなく、多くの人々が一般的にはどう受け止めるかという客観的な基準によって評価される、としています。
 即ち、

  1. 対象疾病に該当する精神障害を発病していること、
  2. 対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、客観的に当該精神障害を発病させるおそれのある業務による強い心理的負荷が認められること、
  3. 業務以外の心理的負荷及び個体側要因により当該精神障害を発病したとは認められないこと

 の3要件です。

[各種要因の総合的評価]

 「判断要件について」のaにより精神障害の発病が明らかになった場合には、同b、cとの各事項について各々検討し、その上でこれらと当該精神障害の発病との関係について総合判断します。なお、この点、新基準は、明確に、「出来事の発生以前から続く恒常的な長時間労働、例えば所定労働時間が午前8時から午後 5時までの労働者が、深夜時間帯に及ぶような長時間の時間外労働を度々行っているような状態等が認められる場合には、それ自体で、・・・心理的負荷の強度を修正する。」として、恒常的過重労働がある場合には、いわば下駄をはかせた判断をすることを指摘しています。

[自殺の取扱い]

  1. 精神障害による自殺
    更に、自殺につき、ICD-10のFOからF4に分類される多くの精神障害では、精神障害の病態としての自殺念慮が出現する蓋然性が高いと医学的に認められることから、業務による心理的負荷によってこれらの精神障害が発病したと認められる者が自殺を図った場合には、精神障害によって正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、又は自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で自殺が行われたものと推定し、原則として業務起因性が認められる、としました。
  2. 遺書等の取扱い
    遺書等の存在について、それ自体で正常な認識、行為選択能力が著しく阻害されていなかったと判断することは必ずしも妥当ではなく、遺書等の表現、内容、作成時の状況等を把握の上、自殺に至る経緯に係る一資料として評価する、とされました。

(4) 新基準の影響

 新基準の影響は、前述の過労死認定基準の緩和の時以上に大きく、最近の過労自殺等の労災申請とその認定件数の急増に関しては、平成18年5月31日厚労省の発表「脳・心臓疾患及び精神障害等に係る労災補償状況について」によれば、下記の通りである。
詳細は、こちらを参照

表2-1  精神障害等の労災補償状況 (件)

平成13年度 平成14年度 平成15年度 平成16年度 平成17年度
精神障害等 請求件数 265 341 447 524 656
認定件数 70 100 108 130 127
うち自殺
(未遂を含む。)
請求件数 92 112 122 121 147
認定件数 31 43 40 45 42

注)1  認定件数は当該年度に請求されたものに限るものではない。

注)2  平成11年9月に精神障害等の判断指針が策定されている。

(5) 過労自殺の労災認定基準の動向は?

 なお、過労死新認定基準における前述の労働時間基準は、精神障害の労災認定に新認定基準における精神的負担の加重要因としての、「出来事の発生以前から続く恒常的な長時間労働」等の具体的内容として援用されることが予想されます。又、裁判例の動向も、後述の損害賠償においてはより顕著ですが、労災認定においても、前述の過労死におけると同様に、新認定基準より緩和された要件をもって判断する動きがあり注目しておかねばなりません。例えば、過重性・心身的負荷の強度の判断につき、同種労働者の中でその性格が最も脆弱である者を基準にしてなすべきとする例もあります(名古屋地判平13.6.18豊田労基署長事件 労判814号64頁。なお、同事件は、「自殺した係長は同じ職場の平均的労働者に比べて精神的に弱かったとは言えない」として、1審の判断基準については維持されませんでしたが、結論は控訴審・名古屋高判平15.7.8労判 856号14頁でも支持され、厚労省は上告を断念し、確定しています。最近でも、名古屋地判平18.5.17名古屋南労基署長(中部電力)事件 労判 918-14が、相当因果関係の判断基準である、社会通念上、当該精神疾患を発症させる一定以上の危険性の有無については、同種労働者の中でその性格傾向がもっとも脆弱である者(ただし、同種労働者の性格傾向の多様さとして通常想定される範囲内の者)を基準とするのが相当であるとして同旨を示しています、)。近時の地公災基金神戸市支部長事件(大阪高判平15.12.11労判869号 59頁)では、過重労働につきさほど言及せず、「うつ病に罹患したことについては、公務外のストレスはその要因となってはおらず」で済ますなど、過労自殺認定基準より緩和された判断をしていると解されます。

 また、過労自殺新認基準の対象疾病の内、主として業務に関連して発病する可能性のある精神障害は、ICD-10のFOからF4に分類される精神障害とされていますが、これは、旧基準及び従前の労災認定の実態が概ねうつ病等(ほぼF4の分類)に限定されていたことからすると認定対象を拡大したものと評価されますが、いわゆる心身症は対象疾病には含まれていません。しかし、心身症による自殺については、過労自殺損害賠償事件においてですが、既に、心身症と自殺との因果関係を定め、企業の損害賠償責任が認めるものも現れ(大阪高判平成 10.8.27東加古川幼児園事件 労判744号17頁)、その後、同事件は、東京地裁で「適応障害」を認定のうえで労災が認定されています(東京地判平 18.9.4加古川労基署長事件 労経速1951-3)、今後、同基準の改正もあり得るところです。さらに、上記精神障害の発症の点についても、同じく過労自殺損害賠償事件においては、既に、反応性うつ病罹患の有無や、うつ病と業務との因果関係などを厳格に認定判断することもなく、過重業務と自殺との因果関係、企業の損害賠償責任を認めるものも現れており(例えば、札幌地判平成 10・7・16協成建設事件 労判744号29頁)、この点でも、今後、基準の改正もあり得るところです。

 なお、近時、社内での隔離状態に追いやられた従業員がうつ病になり、それが労災認定されたことが(数カ月後にはつい立てで囲むなどして隔離状態にされた 36歳の男性は、3カ月後に頭痛やおう吐などを繰り返し、軽度のうつ病と診断された。もう1人の男性もうつと診断され、2人は同年7月、横浜労働基準監督署に「うつ病は会社での勤務状況や職場でのいじめなど仕事に起因している」として、うつ病の労災を申請。平成15年8月29日に認定)、企業を震撼させています(平成15年11月2日付毎日新聞等)。なぜなら、この種の方法がリストラの手法として事実上普及し、これが労災認定されれば、事実上、後述の過労自殺の場合と同様に、その後に、損害賠償請求等が予想されるからである。

(6)過労によるうつ病後遺症も労災対象

 更に、働き過ぎなどが原因で、うつ病などの精神障害の後遺症が残った人に対し、労災認定基準を設定して補償することになっています(平成15・8・8基発080802号)。

3.過労自殺に対する損害賠償請求事件裁判例の動向-電通事件最高裁判決への判例の流れとその今後への影響
(1) 過労死損害賠償請求事件の増加と認容例の相次ぐ出現

 当初、前述の労災認定に限られていた過労死・過労自殺問題は、企業の健康配慮義務の高度化と相俟って(拙稿「従業員の健康管理をめぐる法的諸問題」日本労働研究雑誌444号12頁以下参照)、今や、ほぼ確実に過労死を招いた企業の健康配慮義務違反を理由とする損害賠償請求を不可避とする事態に陥っていると言って過言ではありません。

(2) 過労自殺賠償問題
賠償認容判例の続出―企業の過労自殺賠償責任の最高裁による承認への流れ

 過労死自殺についても、企業に対して安全配慮義務違反を理由として損害賠償を認めた判決が増えています。その先例は、前述の、マスコミでも大きく話題となった前傾電通事件でありますが、その後も、常軌を逸した長時間労働によってうつ病に陥り、そのために自殺したとして、長時間労働とうつ病の間、およびうつ病と自殺による死亡との間にいずれも相当因果関係があるとされた岡山地倉敷支判平10.2.23 川崎製鉄事件(労判733号13頁)、あるいは、前述のように新基準の認めていない、過労による心身症と自殺の因果関係を認めた大阪高判平10.8.27 前掲東加古川幼児園事件(労判744号17頁)、出向先の過労自殺損害賠償責任が認められた札幌地判平10.7.16 協成建設事件(労判744号29頁)などが続発しました。

 そして、電通事件は、前述の通り、高裁(東京高判平成 9.9.26 労判724-13)でも賠償額は減額されましたが、会社の責任については、基本的に維持され、責任論については、最高裁でも、初めて過労自殺の企業責任を認め、民法715条に基づき損害賠償責任を認め、同旨の原審を支持し、会社のこの部分の上告を認めませんでした(最判平12.3.24 労判779号13頁)。

過労自殺の労災認定より緩やかな因果関係・責任の肯認

 注目すべきは、これらの過労自殺損害賠償請求事件では、前述の通り、反応性うつ病罹患の有無や、うつ病と業務との因果関係などを厳格に認定判断することもなく(例えば、協成建設事件・前掲では、精神障害の診断名の推定すら判示していません)、労災認定の場合以上に緩やかに、業務の過重性の存否のみにより、事実上、自殺と業務との因果関係、そして企業の健康配慮義務の違反による損害賠償責任を認める傾向があり、実務的には、企業は、そのような下級審判例の動きへの対応の準備をしなければならないでしょう。

過失相殺等の減額事由をめぐる攻防の重要―過失相殺等の減額事由をめぐる電通事件最高裁判決の留意点とこれへの対応

[電通事件最高裁判決の特徴]
 自殺における本人の生活態度、素因、自己健康管理義務違反等を理由とする過失相殺等による損害額の減額を認めてきた判例の流れの中で(前掲協成建設事件、同川崎製鉄事件、同電通控訴事件等)、最高裁電通事件判決は、民法722条2項の規定を適用又は類推適用して、弁護士費用以外の損害額のうち3割を減じた高裁判決の判断を違法とし、この部分の遺族の上告を認め、原審に差し戻しを命じました。これは、過労死や過労自殺の損害賠償請求事件における安易な過失相殺への歯止めをかけたものとして、実務的には企業にとって極めて厳しい内容となっています。

[電通最高裁判決の影響]
 同判決における過失相殺判断への疑問と差し戻し審での和解の成立と今後の企業の対応

 最高裁判決は、高裁が認めた過失相殺の適用乃至類推適用につき、a「自殺者本人の性格及びこれに起因する業務態様等を理由とする減額」と、b「家族の健康管理義務懈怠による減額」を否定しました。しかし、高裁判決は、30%の減額を認める事由としてこのabのみを指摘した訳ではなく、c実質裁量労働的な労働態様、d精神科等での受診・治療の可能性等の事実も掲げられており、前掲川崎製鉄事件や、過労死に関する東京高判平11.7.28判 システムコンサルタント事件高裁判決(判時1702号88頁)等におけると同様、これらの事実、とりわけ、自己健康管理義務の違反が問題となりうるものと考えられます。

 しかし、前述の通り、電通が東京高裁にて、平成12年6月23日、地裁判決をベースとした約1億6800万円の賠償金支払と謝罪・同様な事故の再発防止の誓約を含む和解に応じ、同事件は終了しました(日経同日夕刊)。従って、企業の過労自殺損害賠償事件での実務的対応に当たっては、電通事件高裁判決の指摘した上記a、bの事情は減額事由になり難くなったことは否めませんので(aの性格・素因が本件における以上に病的な段階であれば、当然減額事由となることは当然です)、その他のc、d等の事情への調査、主張・立証が必要となったということでしょう。

電通最高裁判決の影響

 その後、24歳の食品工場労働者の過労自殺(昼休みに製造現場で首つり自殺)についての損害賠償請求事件で、電通事件最高裁判決後に、企業の賠償責任(約1億3700万円)を認めた、広島地判平12.5.18 オタフクソース・イシモト食品事件(労判 783号15頁等)によれば、本人の自己健康管理義務違反を理由とする過失相殺は否定されています(毎日新聞平成12.6.13付記事等によれば同事件の控訴は取り下げられ確定したようです。又、前掲川崎製鉄事件でも平成12年10月2日付日経新聞記事によれば、同日、前述の過失相殺を否定した和解が成立しています)。

電通高裁判決の実務的先例性

 しかし、裁判例の動きを見ると、実務的には、最高裁を含めて、電通事件最高裁判決が判断を回避したc、dの事情等を考慮し(東京高判平成11.7.28 システムコンサルタント事件 判時1702-88等)、あるいは否定したa、bの事情をも考慮に入れ(浦和地判平成13.2.2三洋電機事件 労判800 -5、横浜地川崎支判平14.7.27川崎市事件 労判833-61等)、更には、極めてアバウトな判断(「重圧に苦しむ者であっても、その全員‥が‥自殺に追い込まれるものではない」等)により(高裁を支持した最3小決平12.6.27東加古川幼児園事件 労判795-27労判795-13等)、5~8 割の大幅減額を認めるものまで現れており、電通事件最高裁判決の過失相殺に関する判断は、実際上、当該事案の特殊事情を考慮した事例としての意味しかもっていない様です(このことは拙著「実務労働法講義」改訂増補版下巻584頁以下の裁判例の一覧表を参照頂ければ明らかでしょう)。むしろ、電通高裁判決の方が、その後の過労死等における損害賠償請求事件における過失相殺の先例性を強くもっていると見ることができます(東京高判平成11.7.28システムコンサルタント事件前掲等は、この電通高裁判決の過失相殺論を墨守している、といえるほどである)。

今後の実務的対応上の留意点

 以上の結果は、元来、過失相殺に関する電通最高裁判決の判断が、法令等の解釈論を判示したものでない以上、民訴法上では矛盾はないものですが、若干の違和感を禁じ得ない。

 客観的には、以上の通り、未だ、過労死等を巡る損害賠償請求に関する過失相殺事由等は、事案毎に幅広い事情を総合的に考慮されるということになります。したがって、過労死等の損害賠償請求案件にかかわる実務家としては、原告・被告のいずれの立場に立つとしても、今後、判例の蓄積により基準が明確化されるまでの間は、労使ともに、これらの過失相殺事由の立証・反証に努めざるを得ないようです。

 また、これは、訴訟前の示談交渉等においても、電通最高裁判決の判断に過大な評価を与えて、依頼者に余計な負担や期待をかけないで、解決すべき際の参考にもしなければならないことを示しています。

過労自殺への対応上の実務上のポイント

・過労自殺の労災認定申請への企業の対応の動向

・勤務状況報告書等の要請への対応の傾向

 質問の場合は、自殺の既遂にまでなってしまいましたが、以上に解説した裁判例や行政解釈によれば、労災の認定が得られる可能性が高いでしょう。従って、前述の過労死の場合と同様(安全衛生・労働災害[実務編]Q2)、A社としてはBの遺族のためにこの間の勤務状態の証明などに協力することが検討されるべきでしょう。しかし電通事件判決以降の大量の過労自殺への損害賠償認容例が出ている現在では、安全配慮義務違反が問題とされる可能性が高いと言わざるを得ません。従って、安全衛生・労働災害[実務編]Q2で述べたと同様の配慮をした上で、B遺族からの要請に対応すべきでしょう。

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