法律Q&A

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治癒後のうつ病再発と業務起因性

岩野高明(弁護士・ロア・ユナイテッド法律事務所))
2010年10月:掲載

症状消失後のうつ病再発と業務起因性

従業員がうつ病による休職から復帰した場合、会社としては、どの程度の分量の仕事を課すことが可能でしょうか。他の従業員と異なる対応が必要かどうかなど、注意点を教えて下さい。

基本的には、復職以降は、国の指針に照らして過重とならない範囲で、通常の従業員と同様の仕事を課すことが可能です。この場合には、仮に症状が再発したとしても、業務に起因するものとは認められず、会社の責任は否定されることになります。もっとも、使用者としては、症状の再発に伴う労働力の損失や、当該従業員から損害賠償請求等を受けるリスクを避けるためにも、当該従業員の復職後の勤務状況を注視しつつ、状況により負荷を軽減するなどの措置を検討すべきでしょう。

解説
1 国の判断指針
 実務上は、うつ病等の精神疾患が業務に起因するものかどうかは、国の判断指針(「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」平成11年9月14日基発544号)に基づいて検討されることになります。これは、在職中の業務に関係する出来事、及び業務に関係のない出来事によるそれぞれの心理的負荷の強度等を数値化した上で、発症が業務に起因するものであるのかどうかを総合判断するというものです。
この判断指針において、症状消失後の再発に関しては、「業務上の精神障害が治ゆした後再び精神障害が発病した場合については、発病のたびにその時点での業務による心理的負荷、業務以外の心理的負荷及び個体側要因を各々検討し、業務起因性を判断する」と明記されていることから、同指針によれば、使用者は、基本的には、復職以降の業務負荷が国の指針に照らして過重とならないよう配慮をすれば、再発についての労災認定上の業務起因性の認定、引いては実際上これに基づく健康配慮義務違反の責任を回避し易くなるということができます。
2 裁判所の判断
ところが、札幌中央労基署長(粧連)事件(札幌地判平成19年11月30日・労働判例命令要旨集(㈶労務行政研究所編・平成20年版)174頁)の第一審では、判断指針は行政内部の準則であって法的拘束力をもつものではないとの見地から、一般には精神障害を惹起しないような軽度の心理負荷しか与えない出来事であっても、過去にうつ病を発症した従業員については、再発が業務に起因すると認められる場合があり得るとの判断が示されました。
これに対して同事件の控訴審(札幌高判平成20年11月21日・年間労働判例命令要旨集(平成21年版)218頁)は、うつ病の再発について業務起因性を検討するに当たっては、第一次発症の存在を考慮することはできず、症状消失時点以降の業務が第二次発症との関係で業務起因性を有するかどうかを判断しなければならないと判示し、判断指針に則った基準を示しました(この事件では、その後従業員が上告受理の申立てしたものの、最高裁がこれを受理しない決定をしたことから(最決平成21年8月12日・同年(行ヒ)第106号・判例集未掲載)、うつ病が再発した場合の業務起因性の判断基準に関しては、現時点では上記控訴審判決が最高位の実質的な司法判断ということになります。)。
3 結論
 上記控訴審判決を踏まえれば、うつ病の症状が消失して復職した従業員に関しては、通常の従業員と同様の基準で再発の場合の業務起因性が判断されることになります。
 もっとも、前記第一審判決が指摘するように、うつ病は、症状の消失と再発を繰り返すことを特徴とする疾病ですので、実務においては、再発した場合の業務起因性や、引いては実際上これに基づく健康配慮義務違反の責任が争われることが少なくありません。症状の再発による労働力の損失や損害賠償請求等のリスクを考慮すれば、使用者としては、復職後の従業員の勤務状況を、いわゆる本人基準説(当該労働者が脆弱であれば、その脆弱性に応じて業務起因性を判断すべしとする考え)的な配慮をもって、特に慎重に観察していく必要があるといえます。

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