法律Q&A

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安全衛生委員会の取り組み方

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2007年1月補正:掲載

安全衛生委員会ではどのような事項について話し合いをすればよいのでしょうか?

製造業における危険物への認識徹底等といった場合と異なり、話題や問題意識が希薄に成りがちな、いわゆる事務労働での安全衛生委員会を充実したものとするにはどんな運営をしたら良いでしょうか?

要するに、運営方法、委員長のリーダーシップ、労使の参加委員、とりわけ経営側の安全・衛生への問題意識の程度の問題でしょう。とくに平成18年4月施行の改正安衛法の下では、いわゆる過重労働対策が付議事項とされるなど、その役割は大きくなっています。

1.安全・衛生問題の山積
 製造業に限らず、現在の職場では、労働安全衛生法上の定期健康診断でもチェックされる生活習慣病や(労安法66条、労安則43条乃至45条。9実務編Q1参照)、IT関連の職業病として最近アメリカで問題とされつつある手管根症候群などにしても、あるいは、最悪のいわゆる過労死(9実務編Q3参照)、過労自殺の防止についても(9実務編Q4)、その防止と、症状の増悪防止措置についての啓発活動や、具体的措置の徹底についてなど、議論すべきテーマは山積しています
2.様々な健康問題に関する指針等で課せられた衛生委員会の役割
 しかも、政府からも、平成16年10月14日「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(「事業者は本手引きを参考にしながら衛生委員会等において調査審議し、産業医等の助言を受けながら個々の事業場の実態に即した形で、事業場の職場復帰支援プログラム(以下「事業場職場復帰支援プログラム」という。)を策定し、それが組織的かつ計画的に行われるよう積極的に取り組むことが必要である。」等)などのほか様々な、健康管理に関する指針や報告書が示されています。とくに、平成18年4月施行の改正安衛法の下では、それらが改正され、例えば、「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」(平成8.10.1指針第1号 改正平成 14.2.25指針第4号、改正平成18.3.31公示で、「ロ 衛生委員会等への医師等の意見の報告等/衛生委員会等において労働者の健康障害の防止対策及び健康の保持増進対策について調査審議を行い、又は労働時間等設定改善委員会において労働者の健康に配慮した労働時間等の設定の改善について調査審議を行うに当たっては、労働者の健康の状況を把握した上で調査審議を行うことが、より適切な措置の決定等に有効であると考えられることから、事業者は、衛生委員会等の設置義務のある事業場又は労働時間等設定改善委員会を設置している事業場においては、必要に応じ、健康診断の結果に係る医師等の意見をこれらの委員会に報告することが適当である。なお、この報告に当たっては、労働者のプライバシーに配慮し、労働者個人が特定されないよう医師等の意見を適宜集約し、又は加工する等の措置を講ずる必要がある。また、事業者は、就業上の措置のうち、作業環境測定の実施、施設又は設備の設置又は整備、作業方法の改善その他の適切な措置を決定する場合には、衛生委員会等の設置義務のある事業場においては、必要に応じ、衛生委員会等を開催して調査審議することが適当である。」等)、メンタルヘルスに関する「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」(平成12年8月9日基発第522号の2、改正基発平成18年 3月31日第0331001号では「事業者は、以下に定めるところにより、自らが事業場におけるメンタルヘルスケアを積極的に推進することを表明するとともに、衛生委員会又は安全衛生委員会(以下「衛生委員会等」という。)において十分調査審議を行い、メンタルヘルスケアに関する事業場の現状とその問題点を明確にするとともに、その問題点を解決する具体的な実施事項等についての基本的な計画(以下「心の健康づくり計画」という。)を策定し、実施する必要がある。」等を指摘)についてなど多数に及んでいます。
 また、発生してしまったいわゆる過労死等の労災認定に関する指針もそのような過重な労働環境の発生を防止し、改善する基準として利用・参照されるべきであります。
 例えば、いわゆる過労自殺を含む精神疾患の労災認定に関する「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」(平成11年9月14日基発第554号)や、いわゆる過労死の労災認定につき加重性認定の労働時間の目安を示した「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(平成13年12月12日基発第1063号通達)なども、安全衛生委員会で取り上げるべき重要な具体的検討課題を提起しています。その例として、上記改正労働安全衛生法の施行に伴い、上記労災認定基準を踏まえた平成18・3・17 基発0331717008号「過重労働による健康障害防止のための総合対策について」(「事業者は、アの面接指導等を適切に実施するために、衛生委員会等において、以下の事項について調査審議を行うものとする。また、この結果に基づく必要な措置を講ずるものとする。/[1] 面接指導等の実施方法及び実施体制に関すること。/[2] 面接指導等の申出が適切に行われるための環境整備に関すること。/[3] 面接指導等の申出を行ったことにより当該労働者に対して不利益な取扱いが行われることがないようにするための対策に関すること。/[4] アの(ア)の[2]から[4]までに該当する者その他の者について面接指導等を実施する場合における事業場で定める必要な措置の実施に関する基準の策定に関すること。/[5] 事業場における長時間労働による健康障害防止対策の労働者への周知に関すること。」等を)指摘なども示されています。
 そして改正労働安全衛生法の下での各指針や通達には、衛生委員会には、過重労働対策、メンタルヘルス対策等につき、上記に一部引用したような多様かつ重要な役割が課されています。
3.評価システムを組み込んだ運営方法の工夫
 以上の山積する課題を射程に入れると、安全衛生委員会がマンネリ化している暇は無い筈です。要するに、運営の仕方で、経営や組合活動と同様、例えば、関連法規や各種指針等に沿った安全衛生委員会の活動目標を整理し、その優先順位を決定し、その目標実現に向けた期限・進行予定を含む行動計画を立て、月次・年次で進行管理と結果の評価システムを明確化して、更に、次年度の計画に反映させる、いわゆる"PLAN DO SEE"の方法を確実に実践・運用して行けば、山積する課題を前にしながら、安全・衛生委員会が暇になることはないものと考えます(民間の経営ではこれは既に当然の前提として実行されているでしょうが、行政における政策評価システムを参考にする場合には、平成13年1月 15日「政策評価各府省連絡会議了承政策評価に関する標準的ガイドライン(概要)」
http://www.soumu.go.jp/kansatu/gaido-gaiyou1.htm等参照)。

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