法律Q&A

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弁護士会の照会請求への対応

弁護士 木原 康雄(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2008年5月:掲載

問題

弁護士会から、当社の従業員に関する情報の開示を求める照会請求がきましたが、これに応じてよいのでしょうか。

回答

1 弁護士会照会とは
上記照会は、弁護士法23条の2に基づくものであり、弁護士が受任事件の処理のため弁護士会に照会申出を行い、申出を受けた弁護士会は、当該申出の必要性・相当性を審査した上で、各照会先に照会文書を送付するという手続がとられます。
そして、照会先には、法律上の報告義務があり、正当な理由がない限り、回答を拒否できないものと解するのが通説であり、裁判例上も確立しているといってよいでしょう。また、個人情報保護法との関係でも、弁護士会照会は16条3項1号、23条1項2号の「法令に基づく場合」に該当しますので、情報主体の同意を得ずして、個人情報を弁護士会に報告してよいことになります。
2 回答の許否・対応策
では、いかなる情報であっても、すべて開示してよいのでしょうか。

近時の大阪高裁平成19年1月30日判決(判時1962-78)は、銀行が、ヤミ金業者の預金口座に関する情報提供を求める弁護士会照会や民事訴訟法 186条に基づく裁判所からの調査嘱託に対し回答を拒否したという事案について、以下のとおり判示しています。すなわち、弁護士会照会や裁判所の調査嘱託を受けた者は、弁護士会または裁判所に対し、報告を求められた事項につき報告すべき公的な義務を負う、したがって、銀行が預金顧客を特定する情報につき報告を求められた場合であっても、当該義務が個人のプライバシー保護や守秘義務の観点から制約を受けることはなく、たとえ預金顧客との間で守秘義務契約を締結していたとしても、それは公序良俗に反し無効である、というものです。これによれば、照会に対しては、いかなる場合も回答が許されるように思われますが、実はそうではないのです。弁護士会照会についてはリーディングケースとして、最高裁昭和56年4月14日判決(判時1001-3)があります。これは、「中労委、京都地裁に提出するため」との理由でのXの前科及び犯罪歴についての弁護士会照会に対し、照会を受けた区役所が、Xには道路交通法違反11犯、業務上過失傷害1犯、暴行1 犯の前科がある旨の回答をしたという事案についてのものですが、判例は以下のように述べています。すなわち、前科及び犯罪経歴は人の名誉、信用に直接かかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する、よって、「中央労働委員会、京都地方裁判所に提出するため」といったように、漫然と弁護士会の照会に応じ、犯罪の種類、軽重を問わず、前科等のすべてを報告することは、公権力の違法な行使にあたるとしているのです。このように、最高裁は、弁護士会照会に対し回答を行ったことは違法だと判断しているのですが、それでは、どのような場合に回答ができ、どのような場合にできないのでしょうか。この点については、結局、弁護士会照会により達成される利益(真実発見、公正な判断の確保等)と個人の名誉やプライバシー、通信の秘密など保護されるべき利益との利益衡量により決せられることになります。すなわち、情報の種類・性質・開示範囲・利用目的・弁護士会照会以外の情報収集手段の有無等を総合的に考慮し、個人の名誉やプライバシー、通信の秘密など保護されるべき利益の方が重い場合には、弁護士会照会に対する回答は違法として、情報主体から損害賠償請求を受けるおそれがあることになります。ただし、逆に、正当な理由なく回答拒絶したと判断される場合には、弁護士に照会を依頼した者に対する損害賠償義務を負うおそれもあります(京都地裁平成 19年1月24日・判タ1238-325)ので、いずれにしても、回答の諾否については慎重な判断が必要です。

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