法律Q&A

分類:

人事考課情報の開示

弁護士 木原 康雄(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2008年5月:掲載

問題

従業員から自己の人事考課に関する情報を開示せよとの請求を受けましたが、これに応じなければならないのでしょうか。

回答

1 開示の原則
従業員の人事考課等の評価情報も個人情報ですから、個人情報保護法25条1項本文により、開示しなければならないように思われます(なお、人事考課情報は事実と評価が一体となっているものですが、評価情報も「個人情報」に含まれることについては、経済産業省「個人情報の保護に関する法律についての経済産業分野を対象とするガイドライン」にも明記されているとおりです)。
しかし、評価情報は、もともと従業員本人に開示することが予定されていないものです。にもかかわらず開示しなければならないとすると、職場内の人的関係上、それ以後、評価者が適切な評価ができなくなってしまうおそれがあります。
2 例外として取扱うことの可否
そこで、人事考課等の評価情報は、個人情報保護法25条1項但書2号の「当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合」に該当し、従業員本人からの開示請求を拒否できるものと考えられます。
この点については、たとえば、「労働者の個人情報保護に関する行動指針」(平成12年12月20日労働省告示、以下「行動指針」といいます)でも、開示「請求があった個人情報が、請求者の評価、選考等に関するものであって、これを開示することにより業務の適正な運営に支障が生ずるおそれがあると認められる場合等には、その全部又は一部に応じないことができるものとする」とされています。また、上記行動指針の解説(平成12年12月20日労働省、以下「行動指針解説」といいます)は、以下のとおり敷衍しています。すなわち、「『評価』とは、勤務状況、業績など、個人の能力、適性等についてその内容を見定めることをいい、『選考』とは、個人の知識、能力、資質等の評価等に基づいて、特定の職業、地位等に関する適任者の選定を行うことをいう。/<中略>これらに関する個人情報については、開示することにより、業務の過程や基準等を知らせることになり、その適正な実施に支障が生ずるおそれがあることから、個別の事例ごとに開示の原則の適用除外を認める必要がある。/また、『評価、選考等に関する個人情報であって、これを開示することにより業務の適正な実施に支障が生ずるおそれがあると認められる場合等』の『等』に当たる場合としては、開示の請求があった個人情報に本人以外のものの情報が含まれている場合であって、これを開示することにより第三者の権利利益を侵害するおそれがあると認められる場合/開示の請求があった個人情報が、犯罪等の捜査、保安上の調査、争訟等に関するものであって、これを開示することによりその業務の適正な実施に支障が生ずるおそれがあると認められる場合等が考えられる。/前者の場合には、第三者の権利利益との競合について調整する必要があり、後者の場合には開示することにより捜査、調査等の目的、手順を知らせることになり、その円滑な実施が阻害され、本来の目的の達成が困難となるおそれがあることから、開示の原則の適用除外を認めることが適当と考える。」と指摘しているのです。さらに、「雇用管理に関する個人情報の適正な取扱いを確保するために事業者が講ずべき措置に関する指針」(平成16年7月1日厚生労働省告示、以下「雇用管理指針」といいます)も、人事評価、選考に関する個々人の情報については、「基本的には非開示とすることが考えられる」としています。
3 例外の制限
もっとも、雇用管理指針は同時に、上記情報開示の拒否事由等に関して、「事業者は、あらかじめ、労働組合等と必要に応じ協議した上で、労働者等本人から開示を求められた保有個人データについて、その全部又は一部を開示することによりその業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合に該当するとして非開示とすることが予想される保有個人データの開示に関する事項を定め、労働者等に周知させるための措置を講ずるよう努めなければならない」としています。
また、行動指針解説は、「開示の原則の例外を認めるに当たっては、類型化された適用除外事項として画一的な判断を下すのではなく、個別事例ごとに判断することが重要であり、開示に応じない場合には、その理由の説明に努めることが望ましい」としています。

予防策

上記雇用管理指針、行動指針解説記載の制限は、いずれも努力義務または「望ましい」事項にとどまり、事業者に対応を強制するものではありません。
しかし、このような対応をとった上で非開示とすれば、爾後紛争化した場合も、個人情報保護法違反を問われるおそれは少なくなるものと思われますので、実務上は重要です。

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