法律Q&A

分類:

派遣労働者と個人情報

弁護士 木原 康雄(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2008年5月:掲載

問題

当社は、派遣労働者を受け入れていますが、個人情報保護のための誓約書を、派遣労働者から直接取得することはできますか。また、労務管理のため派遣労働者の個人情報を、本人から直接取得することはできるでしょうか。

回答

1 個人情報保護のための誓約書の取得・対応策
(1)派遣労働者も派遣先の業務に従事し、当然派遣先が保有する個人情報に触れることになりますので、その漏えい事故防止のための措置が必要になります。
誓約書の取得や非開示契約の締結はその措置の一環ですが、ただし、派遣労働者は、派遣元との労働者派遣契約に基づき、派遣先の指揮命令の下派遣先の業務に従事しているだけで、派遣先と雇用契約があるわけではありません。このように雇用関係にない派遣労働者から、派遣先は、派遣元を介さず直接、誓約書を取得することができるのでしょうか。

(2)個人情報保護法20条は、個人情報取扱事業者に、個人情報の安全管理のため必要かつ適切な措置を講ずるよう求めており、同21条は、その一環として、従業者の必要か適切な監督を求めています。そして、この点について経済産業省の「個人情報の保護に関する法律についての経済産業分野を対象とするガイドライン」は、派遣労働者も「従業者」に含まれるとし、監督の具体的方法として、「非開示契約の締結」を挙げています。また、厚生労働省も、「『雇用管理指針に関する個人情報の適正な取扱いを確保するために事業者が講ずべき措置に関する指針(平成16年厚生労働省告示第 259号)の解説(案)』に対するパブリックコメントの結果について」の中で、「派遣先と派遣労働者との間における『個人情報について開示しない契約』の締結や誓約書・念書の取り交わしについては、雇用関係とならないものであれば、これによって個人情報保護法、労働者派遣法又は職業安定法に抵触することとなるものではありません。」と述べています。

(3)したがって、派遣先が、個人情報保護のための誓約書を、派遣労働者から直接取得することは可能と考えられます。

2 派遣労働者自身の個人情報の取得・対応策
(1)では、派遣先は、派遣労働者自身の個人情報を、本人から直接取得することはできるのでしょうか。
この点については、近時、派遣先がテロ対策などを理由に、派遣労働者に対し、国籍、逮捕歴、犯罪歴、破産歴などを記載した書類の提出を要求した事例があり問題となりました。

(2)そして、この問題について、厚生労働省は、以下のとおり意見を表明しています(平成17年7月1日「派遣先による派遣労働者の個人情報の収集等について(回答)」職需発0701001号)。
[1] 労働者派遣法には派遣先による派遣労働者の個人情報の収集についての規定はないが、派遣先は、派遣労働者との間で雇用関係がなく、雇用主である派遣元事業主との労働者派遣契約に基づく指揮命令の権限によって、派遣労働者を指揮命令するものであり、派遣労働者の個人情報については、原則として、派遣元事業主を通じて、派遣労働者の就業管理上必要なものに限って収集するものである。
[2] 派遣先としての派遣労働者の適正な就業管理のために一律に必要であるとは考えられない国籍、旧姓、学歴、給与額、過去の雇用主、退職理由、逮捕歴、犯罪歴、被告歴、破産歴等の個人情報を記載した書類の提出を派遣労働者に求め、派遣労働者がこれに応じない場合は、当該労働者派遣契約を更新しないという不利益な取扱いを行うことは、民事上、プライバシーの侵害として不法行為となり得る。
[3] これらの個人情報を記載した書類の提出の要求、これに関する身元調査の実施およびその結果により当該派遣労働者にかかる労働者派遣契約を更新するか否かを判断することは、派遣先による派遣労働者の特定を目的とする行為に該当し、労働者派遣法26条7項および「派遣先が講ずべき措置に関する指針」(平成 11年労働省告示138号)第2の3違反となり、また、派遣先と派遣労働者との間に雇用関係が成立していると判断される場合には、職業安定法44条(労働者供給事業の禁止)違反となるおそれがある。
[4] 職業安定法5条の4第1項および「職業紹介事業者、労働者の募集を行う者、募集受託者、労働者供給事業者等が均等待遇、労働条件等の明示、求職者等の個人情報の取扱い、職業紹介事業者の責務、募集内容の的確な表示等に関して適切に対処するための指針」(平成11年労働省告示141号)第4の1の(1)により、労働者の募集を行う者でさえ、労働者の募集に関し、労働者になろうとする者の国籍、旧姓、逮捕歴、犯罪歴、被告歴、破産歴等の個人情報については、特別な職業上の必要性が存在することその他業務の目的に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合を除き、収集してはならないこととされていることにかんがみると、雇用主である派遣元事業主との労働者派遣契約に基づいて派遣労働者を指揮命令する派遣先においても、これらの個人情報について収集してはならないという立場にあると考えられる。

(3)すなわち、派遣先は、派遣労働者の個人情報を、派遣元を通じて取得すべきであり、直接取得してはならないというのです。また、派遣元を通じて取得する場合であっても、就業管理上必要な個人情報以外の個人情報を収集すれば、プライバシー侵害として損害賠償責任が生じる可能性があるとされています。したがって、原則として、派遣先は、派遣労働者の個人情報を直接取得することはできず、あくまで派遣元を通じて、就業管理に必要な個人情報を取得することができるにとどまります。

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