法律Q&A

分類:

第1回 健康配慮義務とは

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
はじめに-健康配慮義務への注意の必要性
 企業が従業員に対してなす法定内外の健康診断の充実により(安衛法66条以下等)、生活習慣病、精神疾患を含む様々な傷病が事前にチェックされるケ―スが増えている。他方、法令・判例により企業に課される健康配慮義務は、結果債務に近づきつつあると言わざるを得ないまでに高度化されつつあり、企業が労災認定や損害賠償証責任を回避するためには、診断結果のみならず、普段の業務遂行上から知り得た従業員の健康に関する情報に基き相応な配慮をなさなければならない。

 更に、それらの健康に関する情報の管理・開示につき、プライバシー侵害の問題も提起されている。このように、従業員への健康配慮義務に関しては、健康診断の結果等により入手される健康情報の処理・管理、情報に基く従業員に対する軽減措置・休職等の処遇の他、労災認定・損害賠償責任等の様々な理論的・実務的問題を生じている。そこで以下、中小企業が押さえておきたい健康配慮義務をめぐる様々な諸問題につき、法的規制、裁判例・通達等を概観しつつ、実務的な解決の指針を検討してみたい(健康配慮義務全般に関しては、拙稿「従業員の健康管理をめぐる法的諸問題」日本労働研究雑誌441-12等参照)。

1 健康配慮義務とは
(1)安全配慮義務等との関係
 理論的には、労働安全衛生法(安衛法)による「健康管理義務」と、判例上の安全配慮義務の下位概念であり、その健康管理面における具体的一内容としての「健康配慮義務」とは、法理論的には、別の次元の問題である。しかし、具体的な義務内容の重複性に照し、ここでは、両者の内容の総体を一括して、健康配慮義務と総称する。
(2) 裁判例における健康配慮義務
 裁判例においては、安衛法上の健康管理義務を踏まえて、当該職種等の就労条件についての具体的な法規制、現実の労働環境、当該従業員の素因・基礎疾病や発症している疾病の内容と程度に応じて、個別具体的に、特定業務の軽減ないし免除措置を講ずるなどして就労環境を整備すること、そして健康管理の面においても、従業員の健康への一定の配慮ないし把握を行なうことなど、相当広範かつ高度な健康配慮義務を措定している(大阪府立中宮病院松心園事件・大阪地判昭 55.2.18労判338-57は、「労働基準法及び同法付属関連法例の趣旨に基づき、労働契約上その被用者に対し」負担する義務と明示している)。

 後述(9・10参照)する過労自殺に関する電通事件で、最高裁は、企業の健康配慮義務につき、「労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。労働基準法は、労働時間に関する制限を定め、労働安全衛生法六五条の三は、作業の内容等を特に限定することなく、同法所定の事業者は労働者の健康に配慮して労働者の従事する作業を適切に管理するように努めるべき旨を定めているが、それは、右のような危険が発生するのを防止することをも目的とするものと解される。これらのことからすれば、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」と判示している(最判平12.3.24労判779-13、下線は筆者)。

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