法律Q&A

分類:

第10回 過労死等の企業責任

弁護士 小林 昌弘
1 はじめに
 脳血管・心臓の疾患などによるいわゆる過労死、及び、職場でのストレスによるいわゆる過労自殺(以下、まとめて「過労死等」と言います)に対する企業責任としては、事後的には、[1]従業員に対する健康配慮義務違反に基づく損害賠償責任がありますが、この責任を事前に回避するためには、健康配慮義務の履行、つまり[2]労働環境の整備が必要です。
2 従業員に対する健康配慮義務違反に基づく損害賠償責任
(1) 労災認定基準の緩和化に加速され、損害賠償請求訴訟が増加しており、その動向からすると、企業が健康配慮義務違反を理由とする損害賠償責任を免れることは不可避と言えるでしょう(例えば、システムコンサルタント事件(最判平12.10.13労判791-6等)。
 過労自殺についても、業務の過重性を理由に損害賠償責任を認める判決が増えています。その先例は有名な電通事件(東京地裁平成8.3.28労判 692- 13)ですが、その後も、損害賠償責任を認めた判決がいくつも出ています(川崎製鉄事件(岡山地倉敷支判平成10.2.23労判733-13)、東加古川幼児園事件(大阪高判平成10.8.27労判744-17、最決平12.6.27労判795-13でも支持)協成建設事件(札幌地判平成10・7・16労判744-29)、三洋電機事件(浦和地判平成13.2.2労判800-5)等)。

(2)企業の損害賠償責任を認める裁判例が続出している傾向の中で、企業として労災認定申請へ協力することは安全配慮義務違反を自ら認めることにもなりかねず、消極的な企業も多いようです。そこで、訴訟の場面においてですが、一定の要件の下で、事業主が労働基準監督署長を補助するため訴訟に参加することを認める判決が出されました(レンゴー事件(最決平13.2.22労判806-12))。

 なお、遺族から損害賠償請求訴訟を提起されることを防止するためには、見舞金の支払を前提として遺族が損害賠償を求めないことを文書で約束した上で勤務状況報告書を出すことを企業から遺族に提案するという方法もあります。

3 労働環境の整備
 企業が上記の損害賠償責任を免れるためには、健康配慮義務を履行すること、つまり過労死等を起こさない労働環境の整備が必要です(健康配慮義務の履行の基準については「過重労働による健康障害防止のための総合対策」(平成14.2.12基発第0212001号)参照)。

 具体的には、[1]マニュアルやチュックシートの作成(「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く)の認定基準について」(平成 13.12.12基発第1063号)参照)、[2]就業規則及び36協定により、労働時間の削減・調整、従業員の受診義務や指定医の制度、健康診断に基づく業務軽減措置等を明確にすること、[3]災害補償規定等の整備及び損害保険会社の上積み労災保険(労働災害総合保険)などへの加入(労災認定が受けられない場合には右総合保険ではカバーされないこと、遺族からの被害感情を鎮める必要があることから、さらに別の傷害保険や生命保険への加入も)を検討すべきでしょう。

 なお、平成15年の労基法改正により、[1]裁量労働制に係る健康・福祉確保措置の具体的な内容の1つとして、働き過ぎにより健康を損なうことのないよう、必要に応じて、使用者に産業医等による助言・指導を受けさせること、[2]専門業務型裁量労働制についても、労使協定により健康・福祉確保措置および苦情処理措置の導入を要することとされました(なお、従来の「労働基準法第38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針」(平成11年12月27日)も参照)。

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