法律Q&A

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第13回 B型肝炎検査と内定取消

岩出 誠(弁護士・ロア・ユナイテッド法律事務所)
(1)国民金融公庫事件
 最近、採用時の肝炎検査の違法性を初めて認め、採用時に、同意なしになされたB型肝炎検査で陽性が判明し、内定が取消された労働者に慰謝料150万円の支払いが命じられた裁判例(国民金融公庫事件・東京地判平15.6.20。判決)が現れた。即ち、公庫Yの採用試験をめぐり、男性Xが「無断の血液検査でB型肝炎を理由に内定を取り消された」として1500万円の損害賠償を求めた訴訟で、判決は、「同意を得ない検査はプライバシー権を侵害し、違法」とした。判決によると、平成9年5月から4回の面接試験や適性検査を受けたXは翌6月及び7月、B型肝炎ウイルス感染の有無を判定するため2回の血液検査を受け陽性と判明後、同年9月にYから不採用通知を受けた。判決は採用時の検査について「特段の理由なく検査を実施してはならず、必要性があっても本人の同意が必要」と述べたうえで、「業務内容から見て検査を実施する必要性は乏しい。しかも2度とも同意を得ておらず違法」で、「検査によって‥精神的苦痛を受けた」と認定した。しかし、検査結果と不採用との因果関係については、「当時、内定が確実な段階ではなかった」などから、「感染だけを理由に不採用になったとは言えない」と、これを否定した。
(2)判決の意義と今後の課題
 先ず、企業による労働者の健康情報の入手につき、平成12年12月20日付旧労働省「労働者の個人情報保護に関する行動指針」は、「使用者は、法令に定めがある場合‥等において、‥医療上の個人情報の処理に従事する者についてこの指針の‥の原則を明らかにした上で、‥(「特別な職業上の必要性」等の-筆者注)目的の達成に必要な範囲内で収集する場合を除き、医療上の個人情報を収集してはならない。」と指導している。他方、現行法令上、B型肝炎ウィルス抗体検査は、海外派遣労働者の健康診断において実施される検査項目に挙げられ、この場合は、労働者に受診義務がある(労安則45条の2、平12.12.25労告120等)。しかし、旧労働省の平成12年7月14日「健康情報に係るプライバシーの保護に関する検討会中間取りまとめ」は、この規定についても、「最近は、B型肝炎については、母子垂直感染によるキャリア化を防ぐ事業が実施される等‥B型肝炎ウイルス抗体検査の必要性は低く‥、日常生活で感染しないことが明らかである感染症については‥個人情報の保護の観点からは健康診断項目からの削除を含め、その取扱いを検討すべきである。」と指摘していた。かかる観点からは、法令の根拠も「特別な職業上の必要性」もなき健康診断を本人の同意なく実施したことの違法性を指摘した判決の結論は当然であろう。

 問題は、同意の上で、これを行った場合の検査自体の当否、その検査結果を理由とする採用拒否の当否であろう。判決からは、この点につき結論は得られない。判決文自体や、旧労働省の前記指針からは、HIVの場合と異なり、一定の検査の必要性ある場合に、同意の下になされた検査自体の違法までは言えないものと解される。しかし、適法になされた検査による陽性の結果のみを理由とする採用拒否については、健康等による選別の自由をも含んだ解される採用の自由を強調する判例(三菱樹脂事件・最大判昭48.12.12民集27-11-1544)との関係では、違法とまでは言えないとも解しうるが、実務意的には、今後の判例の動向に注目すべきであろう。

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