法律Q&A

分類:

第15回 諸規定の整備

岩出 誠(弁護士・ロア・ユナイテッド法律事務所)
1 災害補償規程の整備と上積み保険への加入
 不幸にも、健康配慮義務の履行が不十分で、過労死等やその他の労災などが発生した場合に備えた災害補償規程の整備やこれを裏付ける損害保険会社の上積み労災保険である労働災害総合保険などへの加入の必要のあることは勿論である。特に、過労死等のように、完全な私傷病とも言えず、労災認定が微妙な死傷病に対しては、労災認定が受けられない場合には右総合保険ではカバーされないことや、仮に、認定されても、大方の、この種の保険では、業務に起因する疾病の一つとしての過労死等が保険対象になっていなかったりしている上、このような場合にも遺族からの被害感情が会社に強く向けられることを予想して、企業も別個の傷害保険や生命保険などへ加入することが増えている。
2 団体生命保険等の保険金の帰属問題
 生命保険での対応については、以下のとおり、団体生命保険等の受給権をめぐっての紛争が起こらないような補償規程の整備等の配慮が必要である。

(1)企業の保険金取得の論理

 企業にしてみれば、保険金に対しては、かけてきた保険料や保険金受領に伴う税金分はもちろん、特に幹部従業員の場合には、その従業員に投資してきた多大な人材開発費用や、その従業員がてがけていた業務が死亡により頓挫したことに対する逸失利益などへの補填・回収なども当然に期待している。裁判例の中でも、従業員への団体生命保険金の帰属について、業務外の死亡の場合についての請求を否定した例や(山口電設事件・東京地判平10.3.24金判 1047- 34)、役員の一般の生命保険について前述の企業損害へのリスクヘッジとしての保険の論理を認めて、遺族の請求を否定したものもある(成和化成事件・東京地判平11.2.26労経速1695-22)。

(2)従業員の場合は企業による独占は困難

 しかし、多くの場合、従業員については、その遺族の福祉というA保険の本来の目的からは、保険金全額を企業が一人占めすることには到底従業員側の納得は得られない。生命保険会社も、これらの問題を踏まえて、平成8年11月以降、A保険に代えて、従業員の同意取得や保険金について従業員と企業との取得分を明確にすることを求めた総合福祉団体定期保険(新保険)の販売を開始し、平成9年4月1日以降はこの新保険への移行により、A保険の更新を認めていない。現在、この型の保険では前述の企業損害への保険は、ヒューマンバリュー特約として、特約の付加としてなされなければならない。

(3) 保険金の合理的配分の補償規程等による明確化の必要

 注目すべきは、裁判例の中で、生命保険金の遺族等への支払いに際し、一部は、企業による保険料や税金分の控除を認めていたのに対して(日本エルシー事件・名古屋地判平9.5.12労判717-197等)、それらが認められていないことがあるということである。同様な保険により労災などの従業員の死傷病への補償に対処しようとするならば、現在の保険でも求めているように、保険金について従業員と企業との取得分を明確にすることが必要である。但しその場合でも、明確な規定に基づく従業員の退職金や弔慰金、または労災などでの損害賠償金への充当分以外で、企業が当然に取得分を主張できるのは、名古屋地裁等が認めている保険料や税金の負担などまでで、それ以上に前述の諸費用・損失などを回収するには、それらの支出についての合理的な算出方法に基づく明確な補償規定が必要である。なお、労災などで企業が従業員に対して損害賠償義務を負担する場合に備えるには、保険金がどんな損害賠償に充当されるかという損害の填補範囲についての明確な補償規定の必要がある。そうでない場合、企業が保険料の全額を負担して従業員に支払われた保険金を退職金や見舞金などとみなされ損害の填補とされないことがある。

 以上の次第で、最近の団体保険であれば、遺族と企業の取得部分が明確化されているが、その他の保険の利用については、以上の裁判例を踏まえ、補償規程の整備等が必要である(赤武石油ガス事件・仙台高判平成12.11.29労判806-50参照)。

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