法律Q&A

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第16回 むすび

岩出 誠(弁護士・ロア・ユナイテッド法律事務所)
むすびに代えて-紛争の回避と拡大防止のために
 今まで、今回を入れて16回に亘って、中小事業主が押さえておきたい「健康配慮義務」に関する諸問題を、労働安全衛生法や労働基準法等の法令・各種指針や裁判例等を紹介しつつ解説してきたが、最後に、以下のことを再確認しておく。
1 低い予測可能性の範囲内(グーレー・ゾーン)での模索の必要性
 健康療配慮義務に関する諸間題は、裁判例の数から相対的に研究がすすんでいる損害賠償の分野を除いては、健康配慮義務履行の程度・内容、同義務の履行としての業務軽減・変更措置等に伴う処遇(労働時間の短縮に伴う賃金の減額、業務内容の変更による職務給の喪失、責任の軽減に伴う降級・降格等)、従業員の健康情報の管理・利用(医療情報の開示時期・開示内容と対象の範囲等)等のいずれについても、最高裁判例も少なく、近年、実務的には、押さえておかねばならない通達(平成12年12月20日旧労働省「労働者の個人情報保護に関する行動指針」、「過重労働による健康障害防止のための総合通達」<平成 14.212 基発第0212001号>)等が整備されつつあるとは言え、それらも、各諸問題につき網羅的にカバーされているとは言えず、学説等においても、その検討は未だ緒に付いたばかりと言う外ない。

 従って、人事・労務管理の現場においては、当面、労使共に、それらの通達等を踏まえつつ、紛争の発生やその展開につき低い予測可能性の範囲内(グーレー・ゾーン)での模索を回避できない現状が続かざるを得ない。

2 当面の、紛争の回避と拡大防止の有効な方策―健康管理諸規定等の整備の必要性
 そこで、できる限り、リスクの発生を予防し、トラブル発生の場合の損害の拡大を防止し、その迅速・公正な解決を図るためにも、諸規定の整備が必要である。即ち、健康配慮義務に関連して発生する諸問題への健康診断等の予防対策についても、休業や軽減措置義務等の発生後の処遇等の対応、それらの過程での労働者のプライバシー保護対策、最悪の過労死・過労自殺等の発生後の補償等への対応等の全てに亘り、各事態に備えた、健康管理等の諸規定の整備により、あらかじめ特定の場合の指定医師による受診義務制度や、健康診断に基く業務軽減措置への処遇内容等を明確に規定しておくことが必要である。

 勿論、残念ながら、これらが整備されない状況において紛争が発生した場合には、例えば、裁判例が労使の信義則の適用として許容している受診義務等の要件を踏まえた説得と可能・必要な懲戒処分等の強制措置の可否・当否を個別具体的に検討せざるを得ない。

 例えば、旧労働省の、平成12年7月14日「健康情報に係るプライバシーの保護に関する検討会中間取りまとめ」や、これを受けて示された「労働者の個人情報保護に関する行動指針」(平成12年12月20日労働省)においても、企業における「社内規定の整備」等によるルールの明確化を図っている。

 参考に判例(帯広電報電話局事件・最判昭61.3.13労判470-6)に現われた健康管理規程の実例の一部を挙げておく。

 「公社」‥は、本件当時、疾病の予防、罹患者の早期発見、早期回復、保健指導、衛生環境の整備等職員の健康管理を適正に実施し、もつて業務の円滑な運営に資することを目的として健康管理規程を定めていたが、右規程は、職員の健康管理にあたって職員の疾病状況に対応した有効な施策を講ずること(二条一項)を規定する一方、職員は常に自己の健康の保持増進に努め(二条二項)、健康管理上必要な事項について、健康管理従事者の指示もしくは指導を受けたときは、これを誠実に守らなければならない(四条)として職員の遵守すべき義務を明らかにしている。そして、職員の疾病の予防、保健指導を行うとともに罹患者の早期発見等を行うため配置された健康管理医が検診の結果等により必要と認めたときは、当該職員に精密検診を受けさせなければならないこととし(二四条)、また、検診の結果等に基づき、健康管理医は、管理が必要であると認められる個々の職員(以下「要管理者」という。)につき、病状に応じて、「療養」、「勤務軽減」、「要注意」、「準健康」の各指導区分を決定し(二六条)、右決定のあつた当該職員を右指導区分に従い個別に管理することとしている。また、右要管理者については、日本電信電話公社就業規則(以下「公社就業規則」という。)一六五条において、「職員は、心身の故障により、療養勤務軽減等の措置を受けたときは、衛生管理者の指示に従うほか、所属長、医師及び健康管理に従事する者の指示に従い、健康の回復につとめなければならない。」と定めるとともに、健康管理規程三一条において、「要管理者は、健康管理従事者の指示に従い、自己の健康の回復に努めなければならない。」と規定している。

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