- (1)法定外健診とは
- 前述 2(1) の法定健診以外にも、人事労務管理の中では、同(4)の二次健診を含めて、様々な健診が同意により、あるいは、企業内の定めに基きなされている。これらを法定外健診と言う。
- (2)法定外健診の受診義務はあるのか
- 1.受診義務規定がある場合
前述 2(2) の法定健診の際の医師選択の自由に関する規定は、企業が様々な健康配慮義務の遂行の過程で遂行する法定外の健診には及ばない。そこで、次に、これらの法定外健診においては、従業員には、受診義務があるのか。同義務あるとした場合には医師の選択の自由があるのか、が問題となる。
まず、健康管理規程等により就業規則上受診義務に関する規定がある場合について、判例(帯広電報電話局事件・最判昭61.3.13労判470-6)は、以下のように判示し、企業指定医師による法定外の頚肩腕症候群総合精密検診の受診命令の有効性を認め、これを拒否した労働者の戒告処分を有効としている。即ち、「就業規則の規定内容が合理的なものであるかぎりにおいて当該具体的労働契約の内容をなしている」から、就業規則の性質を持つ健康管理規程に基づき、「要管理者は、労働契約上、その内容の合理性ないし相当性が肯定できる限度において、健康回復を目的とする精密検査を受診すべき旨の健康管理従事者の指示に従うとともに、病院ないし担当医師の指定及び健診実施の時期に関する指示に従う義務を負担しているものというべきである。」、と。2.受診義務がない場合
就業規則上受診義務に関する規定がない場合については、規定がある場合以上に従業員の法定外健診への受診義務自体の存在や医師の選択の自由が間題とされることとなる。しかし、裁判例は、就業規則上受診義務に関する規定がない場合についても、一定の場合につき、受診義務を認めている。例えば京セラ事件・東京高判昭61.11.13判時1216-137は、企業としては従業員の疾病が業務に起因するものであるか否かは同人の以後の処遇に影響するなど極めて重要な関心事であり、しかも従業員が当初提出した診断書を作成した医師から従業員の疾病は業務に起因するものではないと説明があったなどの事情がある場合には、企業が従業員に対し「改めて専門医の診断を受けるよう求めることは、労使間における信義則ないし公平の観念に照らし合理的かつ相当な理由のある措置であるから、就業規則等にその定めがないとしても指定医の受診を指示することができ、従業員はこれに心ずる義務がある」、とした。この判決は、会社の就業規則等に指定医の受診に関する定めがない場合に、会社側指定医の診断を受けよとの業務命令が適法であるとされた最初の事例である。その後、空港グランドサービス・日航事件・東京地判平3.3.22判時1382-29も、a.医師選択の自由の原則を認めつつ、b.「被用者の選択した医療機関の診断結果について疑間があるような場合で、使用者が右疑問を抱いたことなどに合理的な理由が認められる場合」使用者指定の医師による受診義務の例外的な発生があり得ることを認めた。3.二次健診の受診義務
以上の検討によれば、前述 2(4) の二次健診については、安衛法や労災保険法上は従業員に受診義務はないと解されるが、上記受診義務規定の存否に拘わらず、その受診義務を課す合理性は認められ、労働契約上は、従業員には企業から命令された場合、受診義務があると解される。