法律Q&A

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第4回 健康情報とプライバシー

村林 俊行(弁護士・ロア・ユナイテッド法律事務所)
(1)法令・裁判例における健康情報の取得制限・守秘義務と従業員のプライバシー保護
a.従業員の個人情報の取得の制限
 旧労働省が制定した「労働者の個人情報保護に関する行動指針」(H12.12.20)によれば、使用者は、法令に定めがある場合及び就業規則等において、使用者を含め医療上の個人情報の処理に従事する者について、[1]特別な職業上の必要性、[2]労働安全衛生及び母性保護に関する措置、[3]労働者の利益になることが明らかであって、医療上の個人情報を収集することに相当の理由があると認められるものという諸目的の達成に必要な範囲内で収集する場合を除き、医療上の個人情報を収集してはならないものとしている。

b.法令上の守秘義務と健康情報の保管に関する取り扱い
 また法令は、健康診断の実施の事務に従事した者等につき、健康診断の実施等に関して知りえた内容に関する従業員のプライバシーの保護に関しても配慮した規定を置いている(労安法第104条、じん肺法第35条の3等)。特に、健康診断に従事する医師につき医師等の秘密漏洩罪(刑法134条1項)をもって保護している外、労安法は、健康診断の実施の事務に従事した者の健康診断に関する秘密の保持を、罰則付きで定めている(104条、119条1号)。
 また、上記指針(H12.12.20)は、医療上の個人情報は、できる限り通常の個人情報とは別途に保管することが望ましいものとしている。

c.健康配慮義務遂行の開示の可否・範囲
 企業が、定期健康診断等により把握した従業員の健康情報については、企業が現実に当該従業員の症状につき増悪防止のための就労免除や業務の軽減等の措置を実施するためには、業務の変更先や元の職場等においても、関係者の協力を求めるため、実際には、一定の説明が必要となり、少なくとも直属の上司にまで、その開示範囲を拡大すべきである。しかし、「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」(改正H12.03.31指針第2号)も指摘するように、プライバシー保護の観点からは、特に就業上の措置の実施に当たって関係者へ提供する情報の範囲は必要最小限とする等の配慮が必要であり、当該従業員との協議により開示してよい範囲を確定する等慎重な配慮が必要である。

d.メンタルヘルスやHIV(AIDSエイズ・ウイルス)に関する健康情報の処理
 メンタルヘルスやいわゆるHIVに関する健康情報については、他の健康情報と異なり、社会的差別につながる可能性が大きいという側面もあり、その処理にあたっては特別な配慮が必要となる。特に、HIVに関しては、「職場におけるエイズ問題に関するガイドライン」(平成7・2・20 基発第75号、職発第97号。以下、エイズ指針という)が、エイズの予防を図るとともに、感染者である労働者が誤解や偏見により職場において不当な扱いを受けることがないように、事業者の職場におけるエイズ問題に関する方針として告示されている。この点、HIVの感染を理由とする解雇の有効性が問題となったHIV感染者解雇事件判決(東京地判平成7・3・30労判667号14頁以下)においては、エイズ指針と同様にHIV感染自体を理由とする解雇を無効としている。さらに、同判決は、エイズ指針が「事業者は、HIV感染の有無に関する労働者の健康情報については、その秘密の保持を徹底する」としていたところ、「個人の病状に関する情報は、プライバシーに関する事柄で」、特にHIV感染に関する情報は、感染者に対する社会的偏見と差別があることから、極めて秘密性の高い情報に属するものとし、派遣先企業の社長から派遣元企業に対する派遣労働者の感染事実の連絡がこの違法な漏洩に当たるとして派遣先企業に対して慰謝料の支払いを命じた。

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