法律Q&A

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第6回 軽減措置としての配転

深津 伸子(社会保険労務士・ロア・ユナイテッド法律事務所)
(1)配置転換について
 会社が、健康に問題の発見された従業員に対して、就労を全面的に拒否・免除することなく、憎悪防止のための軽減業務への配転等の軽減措置を採用した場合に問題となるのは、その労働が全部又は一部について不完全なものとなるからである。以下、判例を検討してみよう。
(2)不完全な労働も使用者は受領すべきか(片山組事件最判平10.4.9労判736-15)
a.片山組事件の事案

 労働者は平成2年、ビル建築工事現場にて現場監督業務に従事していた際、パセドゥ病に罹患している旨の診断を受けた。平成3年2月以降は、次の現場監督業務が生ずるまでの間の一時的業務として、図面作成などの事務作業に従事していたが、同年8月に現場監督業務に従事すべき旨の業務命令を受けた。その際労働者は会社に対して、パセドゥ病に罹患している旨を申出、この疾病の為に現場作業に従事する事ができない旨の申出をした。主治医の作成した診断書にも上記内容を認めることが不可欠である旨が記載されていた。

 そこで、会社は、労働者が現場監督業務に従事することは不可能であり、労働者の健康面・安全面で問題を生ずると判断して、平成3年9月に労働者に対し、当分の間自宅で治療すべき旨の命令を発した。労働者は、自宅治療命令が発せられた後に、主治医作成の「デスクワーク程度の労働が適切と考えられる」との診断書を提出した。会社は現場監督業務に従事できる旨の記載がないことから、自宅治療命令を持続した。その後平成4年1月に症状が回復し、現場監督業務に従事した。

 以上のとおり、労働者は不就労期間、現実に労務に服することはなかったため、会社がその間を欠勤扱いとし、賃金を支給しなかった事等の措置について争われた。

b.判決の内容

 判決によれば、「労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である。」という。

 判決の事案では、約21年間に亙り建築工事現場における現場監督業務に従事してきたものであったが、判決は、このような場合にも、労働契約上その職種や業務内容が現場監督業務に限定されていたものではないとし、本人が軽減業務での復職を望んでいる以上、本人が就くべき適当な軽減業務の有無や、以前、問題の従業員以外の現場監督業務に従事していた従業員が病気、けがなどにより当該業務に従事することができなくなったときに他の部署に配置転換された例があったのではないかなどの点を再審理すべきとされ、高裁に差し戻された。

 本判決は、職務の配置について、使用者側の人事権の業務指定権に優位を認めがちな傾向を戒め、労働者の健康状態と就業意思に対応する就労場所・業務等につき、使用者が配慮すべきことを求めたといえる。

 判例が示すように、会社においては、復職を望む労働者に対して、[1]軽減措置として作業内容の軽減、軽作業への部署への配置替え等他の多様な業務について検討し、[2]以前、他の労働者で、配置替えになった者がいたかどうかを十分に検討する必要がある。

 なお、軽減業務である以上、従前の業務と復職時の労働の価値が異なることは明らかであり、その軽減に沿った範囲での一定の賃金の軽減は、理論的には可能であると考えられる。しかし、判例は「債務の本旨に従った履行の提供がある」として、労働者の賃金請求権を認めている。そのため、このような場合に、賃金を減額しようとすれば、減額を認める賃金規定が整備されていることが求められる。

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