法律Q&A

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第8回 過労死の労災認定

深津 伸子(社会保険労務士・ロア・ユナイテッド法律事務所)
(1)業務上の疾病
 業務上の疾病は医学の知識上、定型化されるものは、有害因子ごとに労基法規則(別表1の2)に列挙されている(例えば粉じんによるじん肺等)。しかし、脳・心臓疾患等に関しては、業務上の有害因子を特定できないために、「その他業務に起因するこの明らかな疾病」として、業務上と認定されることが必要となる。以下、業務上の事由に因る脳・心臓疾患(過労死)の認定基準について検討する。
(2)過労死の認定基準
 厚生労働省は、過労死の認定基準につき、平成7・2・1基発第38号を示し、一定の基準を示していた。しかし、横浜南労基署長事件(最一小判平 12.7.17労判785-6)等、認定基準の再検討を迫る最高裁判決が相次いだ。この事件は、支店長つきの運転手が、運転中に脳動脈瑠の破裂により、くも膜下出血を発症した事案である。判決は、約半年前からの業務について検討し、従前の業務と比較して負担の軽いものといえず、それまでの長期間にわたる過重な業務の継続と相まって、労働者にかなりの精神的、身体的負荷を与え、基礎疾患を、自然の経過を超えて増悪させ、発症に至らせたとした。

 このような判例をうけ、厚生労働省は新たな通達「脳血管疾患及び虚血性疾患等の認定基準について」(平成13年12月12日基発第1063号。新認定基準)を示した。新認定基準による主な改正点は、a脳・心臓疾患の発症に影響を及ぼす業務による明らかな過重負荷として、長期間にわたる疲労の蓄積についても考慮すべきであるとし、b長期間の蓄積の評価期間をおおむね6ヶ月とし、c長期の業務の過重性評価における労働時間の目安を示し、d業務の過重性評価の具体的負荷要因として、労働時間、不規則な勤務、拘束時間の長い勤務、出張の多い業務、交替制勤務、深夜勤務、作業環境(温度環境、騒音、時差)、精神的緊張(心理的緊張)を伴う業務等やそれらの負荷の程度を評価する視点を示したこと等である。

(3)過労死認定基準の影響
[1]労災認定の急増
 平成14年度、脳・心臓疾患による障害の業務上の認定件数は過去最多の317件(前年度比2.2倍)、うち死亡は160件にも上ったことが、厚生労働省から発表された(平成15年6月10日付「脳・心臓疾患及び精神障害等に係る労災補償状況について」)。これは認定基準が緩和されて始めての1年間の統計となり、その影響が大きいとみられる。

[2]企業責任の高度化
 法理論には、労災認定における労働時間基準と安全配慮義務違反の成否は直接関係が無い筈であるが、実際には、影響を免れないものと考えられる。なぜなら、新認定基準によれば、労働時間基準を超えるような長期の過重労働を放置しておくことが、業務上の脳・心臓疾患を招来する蓋然性が前提とされている。他方、労働時間は、原則として、企業の支配下でコントロール可能な筈である。そうすると、企業は労働者に対して、労働時間基準を超えるような労働をさせてはない健康配慮義務を負担し、これに違反すれば、前述の通り、労災認定の問題に留まらず、損害賠償責任を免れない危険が増大する。これに対して企業は、責任を回避乃至過失相殺を受けるべく、新認定基準では、「総合的判断」の中に包含されている、当該労働者の素因等の業務外の要因や当該労働者の自己健康管理義務違反等の責任軽減事由を反証する必要が高まったと言わざるを得ない。

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