法律Q&A

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私生活上の非違行為における退職金の不支給・減額

弁護士 中野 博和(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2019年4月掲載

業務に関係ない犯罪や違法行為を行った従業員を懲戒解雇する際に、退職金を不支給ないし減額することはできますか?

 退職金の没収規定が整備され、労働者のそれまでの勤続の功労を抹消ないし減殺してしまうほどの著しい背信行為といえれば、退職金を不支給又は減額することも可能ですが、業務上の犯罪や違法行為の場合と比べて、退職金を不支給又は大幅に減額することは認められにくいでしょう。

1 減額・不支給規定の有効性
 退職金は、賃金の後払い的性格をも有することから、退職金を減額あるいは不支給とすることは、賃金全額払の原則(労基法24条1項本文)に反することとならないかが問題となります(岩出誠「労働法実務大系」〔民事法研究会・平成27年〕206頁以下参照)。
 そもそも、賃金全額払いの原則は、有効に発生した賃金債権についてその全額の支払いを義務付けるものであって、具体的に発生していない賃金については同原則との抵触の問題は生じないところ、退職金は、具体的な退職金額が確定する退職時に発生するものであり、退職金の減額・不支給については、あくまで確定額支給時に支給条件を踏まえて年功が総合的に評価され、初めてその額において具体的な退職金が発生し、又は不発生となるため、履行期にある賃金債権からの控除ではないことから、同原則には反しません。

2 退職金の減額・不支給措置の有効性
 退職金の減額・不支給規定が有効であるとしても、別途、具体的な減額・不支給措置の有効性が問題になります。
 多くの裁判例は、退職金が賃金後払い的性格だけでなく、功労報償的性格をも併せ持つことを理由として、「労働者のそれまでの勤続の功労を抹消又は減殺してしまうほどの著しい背信行為」の有無を基準とし、当該行為の態様や業務との関連性、報道等による会社の名誉の失墜の有無、当該労働者のそれまでの勤続の功労の程度、退職金規定に照らして、当該退職金額の算定において労働者の勤続の功労がどの程度考慮されることとなっているのか等を考慮し、減額・不支給規定の有効性やその適用の限界を判断しています(NTT東日本(退職金請求)事件(東京高判平24.9.28労判1063号20頁)、小田急電鉄(退職金請求)事件(東京高判平15.12.11労判867号5頁)など)。
 小田急電鉄(退職金請求)事件は、「退職金の支給制限規定は、一方で、退職金が功労報償的な性格を有することに由来するものである。しかし、他方、退職金は、賃金の後払い的な性格を有し、従業員の退職後の生活保障という意味合いをも有するものである。ことに、本件のように、退職金支給規則に基づき、給与及び勤続年数を基準として、支給条件が明確に規定されている場合には、その退職金は、賃金の後払い的な意味合いが強い。」として、当該退職金の支給基準や支給制限基準を参照して、当該会社での退職金の性格を分析した上で、「その場合、従業員は、そのような退職金の受給を見込んで、それを前提にローンによる住宅の取得等の生活設計を立てている場合も多いと考えられる。それは必ずしも不合理な期待とはいえないのであるから、そのような期待を剥奪するには、相当の合理的理由が必要とされる。そのような事情がない場合には、懲戒解雇の場合であっても、本件条項は全面的に適用されないというべきである。(中略)賃金の後払い的要素の強い退職金について、その退職金全額を不支給とするには、それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要である」と判示し、退職金の全額不支給を認めず、その3割の支給を認めました。
 近年では、このように、退職金の賃金後払い的性格を強調して、退職金の全額ないし一部支給を認める例が増えています(ヤマト運輸(懲戒解雇)事件・東京地判平19・8・27労経速1985号3頁〈酒気帯び運転を理由の懲戒解雇事案で、長年の勤続の功労をまったく失わせる程度の著しい背信的な事由とまではいえず、就業規則の規定にかかわらず、退職金の約3分の1の支払を命じた〉/三重県・県教委(県立A高校職員・酒気帯び運転)事件・津地判平25・3・28労判1074号5頁〈事故なき酒気帯び運転で懲戒免職を認めたが、退職金の没収は否定。なお、同旨の処理は諭旨解雇についてもなされた〉/日本郵便社事件・東京高判平25・7・18判時2196号129頁<酒気帯び運転で懲戒解雇を認めたが、退職金の3割支給を命じた>/X建設事件・東京地判平25・9・27労経速2196号3頁〈労災事故発生事実の隠ぺいを理由とする事務所長への諭旨退職が有効とされたが退職金は2割減額にとどめられた〉)。
 さらに、このような裁判例の傾向から、実務では、懲戒解雇、諭旨解雇等についても、段階的に、退職金の不支給ないし減額を就業規則等で定める例が増えてきています。
 また、前掲小田急電鉄(退職金請求)事件は、「ことに、それが、業務上の横領や背任など、会社に対する直接の背信行為とはいえない職務外の非違行為である場合には、それが会社の名誉信用を著しく害し、会社に無視しえないような現実的損害を生じさせるなど、上記のような犯罪行為に匹敵するような強度な背信性を有することが必要であると解される。このような事情がないにもかかわらず、会社と直接関係のない非違行為を理由に、退職金の全額を不支給とすることは、経済的にみて過酷な処分というべきであり、不利益処分一般に要求される比例原則にも反する」と判示し、業務に関係ない犯罪や違法行為の場合には、より制限的に解しています。
 これは、退職金の減額・不支給の理由が業務に関係ない犯罪や違法行為である場合には、業務上の非違行為とは異なり、企業の業務を具体的に阻害する蓋然性が低く、労働者の勤続の功労を抹消・減殺する程度が低いのが通常であるからであると考えられています。
 裁判例では、業務に関連した犯罪や違法行為の場合は不支給を認める判決は多く見受けられる一方で、業務に関係ない犯罪や違法行為の場合、NTT東日本(退職金請求)事件、前掲小田急電鉄(退職金請求)事件などのように、退職金の不支給を認めなかった事例は多く存在します(前述の裁判例参照)。

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