法律Q&A

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事前承認なき残業

弁護士 木原 康雄(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2019年5月掲載

 当社では、所定終業時刻以降に残業を行う場合には、従業員は必ず、所属長に対して、所定終業時刻までに残業時間等を申告した上で残業を行う旨を申請し、その承認を得ることとしています。ところが、この度、事前承認を得ないで残業を行ったという従業員から残業代の請求を受けました。事前承認をしていない以上、当該請求を拒絶できないでしょうか。

 その従業員に与えられた業務量が所定労働時間内に終わらせることができないようなものであったり、事前承認なき残業を禁止するという態度が曖昧だったりすると、事前承認なき残業時間も労働時間に該当するとされ、残業代請求を拒絶できないとされる場合があります。

1 労働時間とは
 当該残業時間が労働基準法上の労働時間に該当するのであれば、会社は残業代(割増賃金)を支払う義務を負います。ここで、労働基準法上の労働時間とは、「使用者の作業上の指揮監督下にある時間または使用者の明示または黙示の指示によりその業務に従事する時間」をいいます(岩出誠「労働法実務体系」民事法研究会・平成27年・226頁)。

2 残業事前承認制を徹底して実施している場合
 この点、残業事前承認制を徹底して実施している場合、事前承認を得ずして残業をした時間については、使用者が指揮監督しているとはいえず、また、明示・黙示の指示もしているとはいえませんので、労働時間とは認められません。
 たとえば、ヒロセ電機(残業代等請求)事件・東京地判平25・5・22労判1095号63頁では、就業規則に、時間外勤務は直接所属長が命じた場合に限り、所属長が命じていない時間外勤務は認めないことが規定され、また、時間外勤務命令書に注意事項として、「所属長命令の無い延長勤務および時間外勤務の実施は認めません。」と明記され、かかる時間外勤務命令書について労働者が内容を確認して確認印を押していたという事案において、以下のように判断されています。すなわち、就業規則上、時間外勤務は所属長からの指示によるものとされ、所属長の命じていない時間外勤務は認めないとされていること、実際の運用としても、時間外勤務については、本人からの希望を踏まえて、毎日個別具体的に時間外勤務命令書によって命じられていたこと、実際に行われた時間外勤務については、時間外勤務が終わった後に本人が「実時間」として記載し、翌日それを所属長が確認することによって把握されていたことは明らかであり、したがって、会社における時間外労働時間は、時間外勤務命令書によって管理されていたというべきであって、時間外労働の認定は時間外勤務命令書によるべきであるとされています。

3 労働時間とされる場合
 しかしながら、残業事前承認制を採っていたとしても、労働者の業務量等との関係で、事前承認なき残業が労働時間と認められる場合があります。
 そのような例として、クロスインデックス事件・東京地判平30・3・28労経速2357号14頁があります。
 この事例では、午後7時以降の残業を行う場合には、会社代表者に対して、所定終業時刻である午後6時までに残業時間等を申告した上で残業を行う旨を申請し、その承認を得る必要があるとされていました。ところが、本件労働者は、事前に残業申請して会社代表者の承認を得ることなしに残業をし、その分の割増賃金を請求したのです。
 この事例において、裁判所は、本件労働者は通訳・翻訳部において通訳・翻訳のコーディネーターとして勤務していたが、通訳・翻訳部においては、特に勤務年数の長い本件労働者の業務量が多く、本件労働者が所定労働時間内にその業務を終了させることは困難な状況にあり、本件労働者の時間外労働が常態化していたということができる。このように、会社が、本件労働者に対して所定労働時間内にその業務を終了させることが困難な業務量の業務を行わせ、本件労働者の時間外労働が常態化していたことからすると、本件係争時間のうち本件労働者が会社の業務を行っていたと認められる時間については、残業承認制度に従い、本件労働者が事前に残業を申請し、会社代表者がこれを承認したか否かにかかわらず、少なくとも会社の黙示の指示に基づき就業し、その指揮命令下に置かれていたと認めるのが相当であり、割増賃金支払の対象となる労働時間に当たるとしました。
 この判断の前提として、使用者は、労働者の業務量を当然に把握すべきであるという考えがあります。
 なお、判決文は、会社代表者は、午後7時過ぎ頃に退社する際に会社に残っている本件労働者を見かけるとともに、本件労働者から深夜にメールを受信することもあったほか、本件労働者に対して事前の残業申請がないことを理由に「出勤及び交通費清算管理帳」の退社時刻の記入の修正を求めた際にも、忙しくて残業申請をする時間がなかったのは言い訳にならず、会社の規律に従うよう伝えるにとどまり、残業そのものを否定していなかったと認められ、これらによれば、会社は、会社代表者が承認した以外にも本件労働者が残業していたことを現に認識していたといえ、このことも上記結論を補強する事情となると述べています。

対応策

 以上のように、厳格な残業事前承認制が採られている場合、事前承認なき残業については、労働時間とは認められず残業代(割増賃金)は発生しないとされるケースがある一方で、その労働者に与えられた業務量や使用者側(代表者や所属長等)の態度によっては、黙示の指示があるとして労働時間に該当するとされ、残業代(割増賃金)が発生する場合があります。
 残業代請求を受けるリスクを避けるためには、使用者としては、残業事前承認制を採っている場合も、労働者の業務量を適正に保つとともに、事前承認なくして残業をしている労働者がいた場合には、残業を禁止したり、また現に残業しているところを発見した場合には、業務を中止させ、直ちに帰宅させるなどの措置を講じる必要があります。

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