法律Q&A

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事業場内での無断録音の禁止

弁護士 岩野 高明(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2019年6月掲載

事業所内で、無断で会話の録音をしている従業員がいます。録音行為をやめるよう命令することはできますか。また、やめない場合に懲戒処分をすることは可能でしょうか。

使用者は、企業秩序維持の観点から録音行為の禁止を命じることができます。また、従わない者に対しては、懲戒処分をすることも可能です。

  1.  ICレコーダー等の安価な録音機器の普及に伴い、「事業所内で、従業員が無断で録音行為をしている」という相談を受けることがあります。当該従業員が言うには、録音の目的は、自身に対するパワハラの証拠や会社の不正行為の証拠を確保することであり、これらは正当な目的なのだそうです。
  2.  たしかに、上司による人格を否定するような発言や、度を越した叱責等が横行している場合、これらの発言を録音する以外に客観的な証拠を確保することは難しそうです。実際、録音記録が証拠として提出されたことにより、裁判でパワハラの事実が認定されたというケースも散見されます。パワハラ発言がいつされるかわからない状況では、ICレコーダー等を携行し、常時録音をしておきたい気持ちも、わからないではありません。
     しかし一方で、社内の会話には企業秘密に属する情報が含まれている可能性があることから、使用者としては、会話が無断で録音されている状況を看過することはできないでしょう。より重大なのは、会話が無断録音されている可能性を役職員が認識することにより、社内で自由な会話をすることが困難になってしまうことです。
     たとえば、たまたま社内のトイレで一緒になった同僚から、上司への不平不満を打ち明けられたという場面を考えてみましょう。あなたも同じような不平を抱いていたことから、軽い気持ちで同僚に同調するような発言をしたところ、後でこの発言がこの同僚によって無断で録音されていたことを知ります。あなたは、当該録音データが上司に渡った場合の上司からの報復を恐れるかもしれませんし、今後は社内で冗談を言うのは控えようと思うかもしれません。
     このようなことが続くと、この同僚が近くにいる際には、周囲の者が自由な発言をすることが難しくなってしまいます。職場の雰囲気が悪化するとともに、従業員どうしがアイデアや意見をぶつけ合うことを躊躇してしまうかもしれません。これは企業運営にとって由々しき事態です。
  3.  このような支障が生じるのを避けるために、使用者は、指揮命令権や施設管理権に基づき、無断録音行為を繰り返す者に対して、その禁止を命じることができるとされていますし、命令をしたにもかかわらずこれに従わない者に対しては、懲戒処分や解雇が正当化されています(T&Dリース事件・大阪地判平21.2.26・労経速2034号14頁、甲社事件・東京地立川支判平30.2.28・労経速2363号9頁)。
  4.  とはいえ、パワハラや不正行為が行われていることが合理的に疑われる場合や、パワハラや不正行為を示す発言が実際に録音されているような場合には、録音行為を理由に懲戒処分等をすることは控えるべきでしょう。これらの場合には、録音行為を責めることはできないとして、懲戒処分や解雇は権利の濫用だと判断されるリスクが残ります。
     録音者に対する懲戒処分等を許容する裁判例がある一方で、ICレコーダーによる録音記録によってパワハラの事実が認定されたという事例も出てきています(住吉神社ほか事件・福岡地判平27.11.11労判1152号69頁など)。パワハラの事実があるのに、これに対処しないで録音者を処分した場合には、処分が無効となるだけでなく、使用者がパワハラ放置の責任を問われる可能性も出てきます。

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