法律Q&A

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リハビリ勤務実施の際の留意点

織田 康嗣(弁護士・ロア・ユナイテッド法律事務所)
2019年9月掲載

リハビリ勤務(試し出勤)を実施する際の留意点は何でしょうか。

A社では、休職中の社員が復職する際に、復職の可否を判断するとともに、業務に慣れてもらう目的で、無給でのリハビリ勤務制度を設けています。今般うつ病で休職中の社員Bが、主治医の復職可能との診断を受けて復職を申し出てきましたが、産業医の意見も踏まえて、まずはリハビリ勤務を実施して復職可否を判断しようと思います。リハビリ勤務を実施する際の留意点は何でしょうか。

リハビリ勤務はあくまで休職中に復職可否の判断のためになされるものであり、会社から指揮命令されるなどして、それが「労働」とみなされるような場合には、賃金支払義務が生じる場合があります。対象者には指揮命令をせず、業務性が低い作業にのみ従事させるなどの対応をすることが安全です。

1 リハビリ勤務(試し出勤)とは
 休職期間中に、復職の可否を判断するために、休職者を一定期間定時に出社させ、本来の業務とは異なる軽作業に従事させることがあり、これをリハビリ勤務(試し出勤)などと呼んでいます。
 厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」において、リハビリ勤務は、休業していた労働者の不安を和らげ、労働者自身が職場の状況を確認しながら復帰の準備を行うことができるとして推奨されています。同手引きでは、制度の例として、以下の類型が挙げられています。
①模擬出勤:勤務時間と同様の時間帯にデイケアなどで模擬的な軽作業を行ったり、図書館などで時間を過ごす。
②通勤訓練:自宅から勤務職場の近くまで通勤経路で移動し、職場付近で一定時間過ごした後に帰宅する。
③試し出勤:職場復帰の判断等を目的として、本来の職場などに試験的に一定期間継続して出勤する。

2 休職制度との関係
 リハビリ勤務は、休職期間中に復職の可否を判断するため、また復職に向けた準備措置として実施されるものですから、リハビリ勤務を実施している間は休職期間が進行することになります。
したがって、リハビリ勤務をしたものの耐えることができず、自宅療養に戻ったような場合にも休職期間は中断されません。休職中に出社してリハビリ勤務を行うことで、事実上休職期間が短くなるようにも思えますが、リハビリ勤務は、あくまで債務の本旨に従った労務提供を求めるものではなく、復職可否の判断のために実施するものですので、通常であれば、休職期間を延長する措置を講じる必要もありません。

3 業務命令の可否
 リハビリ勤務中は無給とする例が多いと思われますが、復職可否の判断のために、通常業務に近い業務を強いられるケースも少なくありません。
 この点、NHK(名古屋放送局)事件(名古屋高判平成30・6・26労判1189号51頁)では、「テスト出局が単に休職者のリハビリのみを目的として行われるものではなく、職場復帰の可否の判断をも目的として行われる試し出勤(勤務)の性質を有するものであることなどにも鑑みると、休職者は事実上、テスト出局において業務を命じられた場合にそれを拒否することは困難な状況にあるといえるから、単に本来の業務に比べ軽易な作業であるからといって賃金請求権が発生しないとまではいえず、当該作業が使用者の指示に従って行われ、その作業の成果を使用者が享受しているような場合等には、当該作業は、業務遂行上、使用者の指揮監督下に行われた労働基準法11条の規定する「労働」に該当するものと解され、無給の合意があっても、最低賃金の適用により、テスト出局については最低賃金と同様の定めがされたものとされて、これが契約内容となり(同法4条2項)、賃金請求権が発生するものと解される。」としています。
 最低賃金法では、「使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない」(同法4条1項)と定めるとともに、「最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、最低賃金と同様の定をしたものとみなす」(同条2項)と定めています。ここでいう「賃金」は、労働基準法11条にて規定される労働の対償として支払われるものをいいますので(同法2条3号)、「労働」の該当性が問題になったということです。
リハビリ勤務は、復職可否の判断のために実施される制度であって、対象となる労働者も直ちに復職可能な状態ではないのですから、リハビリ勤務中も「労働」に該当するような作業をさせることは避けなければなりません。リハビリ勤務の内容が「労働」に該当するという疑義をなくすためにも、指揮命令をせず、業務性が低い作業にのみ従事させるなどの対応をすることが安全であるといえるでしょう。

4 おわりに
 上記の裁判例をみても分かるように、リハビリ勤務は指揮命令が行われないことが前提となっており、あくまで休職中の労働者の復職可否の判断のために実施されるものです。そのため、指揮命令もなされず業務に従事していない、また出退勤の自由もあるような状況下でなされるリハビリ勤務には、労災保険の適用もない場合が多いといえます。
 いずれにせよ、リハビリ勤務の位置づけ(処遇や災害が発生した場合の対応、人事労務管理上の位置づけ等)について労使間で十分に検討し、明確化しておくことが重要であるといえるでしょう。
 なお、リハビリ勤務の制度は会社の裁量の下で設けられるものですが、それが具体的な職場復帰決定の手続きの前にその判断等を目的として行うものであることを踏まえ、その目的を達成するために必要な時間帯、態様、時季、期間等に限るべきであり、いたずらに長期に渡ることは避けるべきとされています(厚労省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」参照)。

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