法律Q&A

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同一労働同一賃金における派遣先の義務

弁護士 木原 康雄(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2020年3月掲載

2020年4月1日施行の改正労働者派遣法で派遣労働者の不合理な待遇差の解消が求められますが、派遣先は新たにどのような義務を負いますか。

派遣先も、派遣元事業主への待遇情報提供義務や教育訓練、福利厚生に関する措置義務等が新たに課されます。

1 派遣労働者の不合理な待遇差の解消
平成30年6月29日成立(同年7月6日公布)の「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(働き方改革関連法)には、労働者派遣法の改正も含まれています。
改正法では、同一企業における正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差をなくすことで、どのような雇用形態を選択しても納得感と意欲を持って働くことのできる環境を整備し、もって多様で柔軟な働き方を選択できるようにするという考え方の下、派遣労働者の不合理な待遇差を解消する(いわゆる「同一労働同一賃金」)ための規定の整備がなされました。

2 「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」
派遣労働者が納得感と意欲を持って働くことができるようにするためには、派遣労働者が実際に就労する派遣先の通常の労働者(いわゆる「正規型」の労働者及び派遣先と期間の定めのない労働契約を締結しているフルタイム労働者)との待遇の均等・均衡が重要な視点となります。
しかし、常に派遣先の通常の労働者との均等・均衡を考慮して派遣労働者の待遇を決定するとなると、派遣先が変更されるごとに派遣労働者の賃金水準が変動することになり、派遣労働者の待遇が不安定になってしまうという問題が生じます。また、一般に賃金水準は大企業であるほど高いことから、派遣労働者の希望が大企業へ集中することになり、そうすると、派遣元事業主において派遣労働者のキャリア形成を考慮した配置が困難になる等の問題が生じ得ます。
そこで、改正労働者派遣法は、派遣労働者の待遇決定について派遣元事業主は、「派遣先の通常の労働者との均等・均衡方式」(派遣先均等・均衡方式、改正労働者派遣法30条の3第1項・第2項)ではなく、「労使協定による一定水準を満たす待遇決定方式」(労使協定方式、改正労働者派遣法30条の4第1項)も選択できることとしています。
派遣元事業主が「派遣先均等・均衡方式」、「労使協定方式」のいずれを選択しているかによって、新たに派遣先に課せられる義務の内容も変わってきます。

3 待遇情報提供義務
(1)派遣先均等・均衡方式の場合
ア 比較対象労働者の選定
派遣先は、労働者派遣契約を締結するに当たって、あらかじめ、派遣元事業主に対し、当該労働者派遣に係る派遣労働者が従事する業務ごとに、比較対象労働者の賃金その他の待遇に関する情報等を提供しなければなりません(改正労働者派遣法26条7項)。情報提供がなされない場合、派遣元事業主は、労働者派遣契約を締結することができません(改正労働者派遣法26条9項)。
「比較対象労働者」とは、派遣先に雇用される通常の労働者であって、職務の内容並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲が、当該労働者派遣に係る派遣労働者と同一であると見込まれるものその他の当該派遣労働者と待遇を比較すべき労働者として厚生労働省令で定めるものをいいます(改正労働者派遣法26条8項、改正労働者派遣則24条の5。「労働者派遣事業関係業務取扱要領」(2020年4月1日以降)第6の2(3)参照)。
イ 提供する情報
派遣先が提供しなければならない比較対象労働者の賃金その他の待遇に関する情報等は以下のものになります(改正労働者派遣則24条の4第1号)。
① 比較対象労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲、雇用形態
② 当該比較対象労働者を選定した理由
③ 当該比較対象労働者の待遇のそれぞれの内容(昇給、賞与その他の主な待遇がない場合には、その旨を含みます)
④ 当該比較対象労働者の待遇のそれぞれの性質及び当該待遇を行う目的
⑤ 当該比較対象労働者の待遇のそれぞれについて、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇に係る決定をするに当たって考慮したもの
ウ 情報提供の方法
派遣先は、イの情報を書面の交付等(書面の交付、ファクシミリ、電子メール等、改正労働者派遣則22条の2第1号)により行わなければなりません(改正労働者派遣則24条の3第1項)。
また、派遣先は、当該書面等の写しを、当該労働者派遣契約に基づく労働者派遣が終了した日から起算して3年を経過する日まで保存しなければなりません(改正労働者派遣則24条の3第2項。)。

(2)労使協定方式の場合
労使協定方式の場合も、情報提供がなければ労働者派遣契約を締結できないこと、情報提供の方法は上記と同じですが、提供すべき情報の内容が異なり、以下のものになります(改正労働者派遣則24条の4第2号)。
① 改正労働者派遣法40条2項の業務に必要な能力を付与するための教育訓練の内容(当該教育訓練がない場合には、その旨)
② 改正労働者派遣則32条の3各号に掲げる福利厚生施設(給食施設、休憩室、更衣室)の内容(当該福利厚生施設がない場合には、その旨)

(3)提供した待遇情報の変更時の対応
上記(1)又は(2)で提供した情報に変更があった場合は、派遣先は原則として、派遣元事業主に対し、遅滞なく、当該変更の内容に関する情報を提供しなければなりません(改正労働者派遣法26条10項、改正労働者派遣則24条の6第1項)。

(4)行政による勧告・公表
派遣先が、以上の待遇情報提供義務に違反し、事実に反するような内容の情報を提供した場合等は、指導・助言(改正労働者派遣法48条1項)のほか、勧告・公表(改正労働者派遣法49条の2)の対象にもなり得ます。

4 派遣料金配慮義務
派遣料金の交渉を行うに際し、派遣先は、派遣元事業主が「派遣先均等・均衡方式」又は「労使協定方式」による同一労働同一賃金を遵守できるよう、派遣料金の額について配慮しなければなりません(改正労働者派遣法26条11項)。
上記義務を尽くしていない場合、指導・助言の対象となり得ます。

5 労働者派遣契約に記載すべき事項
労働者派遣契約には、同一労働同一賃金に関連して新たに、「派遣労働者が従事する業務に伴う責任の程度」及び「派遣労働者を協定対象派遣労働者に限るか否かの別」を定める必要があります(改正労働者派遣法26条1項、改正労働者派遣則22条)。

6 派遣先管理台帳への記載
また派遣先は、派遣先管理台帳にも「協定対象派遣労働者であるか否かの別」と「派遣労働者が従事する業務に伴う責任の程度」を記載しなければなりません(改正労働者派遣法42条1項、改正労働者派遣則36条)。

7 教育訓練の実施
 派遣先は、派遣労働者と同種の業務に従事する派遣先に雇用されている労働者に、業務遂行に必要な能力を付与するための教育訓練を実施している場合には、派遣元事業主からの求めに応じ、当該派遣労働者が当該業務に必要な能力を習得することができるようにするため、原則として、当該派遣労働者に対しても当該教育訓練を実施する等必要な措置を講じなければなりません。
上記義務に違反した場合、指導・助言のほか、勧告・公表の対象にもなり得ます。

8 福利厚生施設の利用機会の付与
(1)給食施設、休憩室、更衣室について
派遣先は、当該派遣先に雇用される労働者に対して利用の機会を与える福利厚生施設のうち、給食施設、休憩室、更衣室については、派遣労働者に対しても利用の機会を与えなければなりません(改正労働者派遣法40条3項、改正労働者派遣則32条の3)。
上記義務に違反した場合、指導・助言のほか、勧告・公表の対象にもなり得ます。

(2)(1)以外の福利厚生施設について
派遣先は、派遣労働者について、当該派遣就業が適正かつ円滑に行われるようにするため、適切な就業環境の維持、診療所等の施設であって現に当該派遣先に雇用される労働者が通常利用しているもの(給食施設、休憩室、更衣室を除く)の利用に関する便宜の供与等必要な措置を講ずるように配慮しなければなりません(改正労働者派遣法40条4項)。
具体的には、派遣先が設置及び運営し、派遣先の労働者が通常利用している物品販売所、病院、診療所、浴場、理髪室、保育所、図書館、講堂、娯楽室、運動場、体育館、保養施設等の施設の利用に関して、派遣労働者に対しても便宜を図るよう配慮するということです(「派遣先が講ずべき措置に関する指針」第2の9(1))。
上記義務を尽くしていない場合、指導・助言の対象となり得ます。

9 情報提供等の協力配慮
派遣先は、派遣元事業主による派遣労働者に対する段階的かつ体系的な教育訓練等、「派遣先均等・均衡方式」又は「労使協定方式」による同一労働同一賃金、待遇に関する事項等の説明が適切に講じられるようにするため、派遣元事業主の求めに応じ、当該派遣先に雇用される労働者に関する情報、当該派遣労働者の業務の遂行の状況その他の情報であって派遣元事業主が当該措置を行うのに必要なものを提供する等、必要な協力をするように配慮しなければなりません(改正労働者派遣法40条5項)。
たとえば、派遣先に雇用される労働者の賃金、教育訓練、福利厚生等の実情をより的確に把握するために必要な情報を提供することや、派遣元事業主による当該派遣労働者の職務の評価等に協力することが挙げられます(「派遣先が講ずべき措置に関する指針」第2の9(1))。
上記義務を尽くしていない場合、指導・助言の対象となり得ます。

10 紛争解決の手続について
派遣先は、前述7の教育訓練の実施及び前述8(1)の給食施設、休憩室、更衣室の利用の機会の付与に関し、派遣労働者から苦情の申出を受けたときは、自主的な解決を図るように努めなければなりません(改正労働者派遣法47条の4第2項)。
上記紛争に関し、派遣先、派遣労働者の双方又は一方から解決につき援助を求められた場合は、都道府県労働局長は、助言、指導又は勧告をすることができ(改正労働者派遣法47条の6第1項)、また、双方又は一方から申請があった場合で、紛争解決のために必要があると認めるときは、紛争調整委員会に調停を行わせることもできます(改正労働者派遣法47条の7第1項)。
なお、派遣先は、派遣労働者が上記の援助を求めたこと及び調停の申請をしたことを理由として、当該派遣労働者に対して不利益な取扱いをしてはなりません(改正労働者派遣法47条の6第2項、47条の7第2項)。

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