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パワハラ防止法とはどのような法律か

弁護士 山﨑 貴広 2020年4月掲載

パワハラ防止法とはどのような法律ですか?

パワハラ防止法は、パワハラの定義を定め、事業主に対し雇用管理上の措置を講じることを義務付けました。また、同法は、パワハラに関する国、事業主、労働者の責務を定め、行政ADRを整備しています。

 令和元年5月29日、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」が改正され、同法は、パワハラに関し種々の規律を定めました(同法は「パワハラ防止法」などと呼ばれます。)。
パワハラ防止法において重要な点は次の5点です。
(1)パワハラの定義が定められたこと。
(2)事業主にパワハラ防止のための雇用管理上の措置を講じることが義務付けられたこと。
(3)パワハラに関する国、事業主、労働者の責務が定められたこと。
(4)パワハラに関する労使紛争が都道府県労働局長による紛争解決援助、紛争調整委員会による調停の対象とされたこと。
(5)措置義務等についての履行確保措置(助言、指導、勧告等)が整備されたこと。
 このうち特に重要な点は、(1)及び(2)です。
 パワハラ防止法は、パワハラを、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることと定義しました。パワハラ防止法の成立に伴い、厚生労働大臣によりパワハラ指針が定められ、同指針の中では、パワハラの各要素の解釈、判断要素、及びパワハラに該当すると考えられる例などが示されています。
 また、事業主が講ずべき措置に関しては、パワハラ指針がその内容を詳細に定めています。近時、裁判例では、ある行為のパワハラ該当性が問題となることに加え事業主の対応そのものに法的責任を肯定する例も存在しており、指針の理解は重要となります。

1 パワハラ防止法の成立
 令和元年5月29日、第198回通常国会において、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」が参議院で可決・成立しました。
 この中では、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」が改正され、同法の中で、パワーハラスメント(以下「パワハラ」といいます。)に関する種々の規律が定められました(このため、同法は「パワハラ防止法」と呼ばれます。以下「法」と記載する場合は、同法を意味します。)。
 パワハラ防止法の施行は、大企業では令和2年6月1日からです。中小企業は令和4年3月31日までは努力義務とされています。

2 パワハラ防止法で押さえるべきポイント
 パワハラ防止法の中で重要な点は以下の5点です。
(1)パワハラの定義が定められたこと。
(2)事業主に、パワハラ防止のための雇用管理上の措置を講じることが義務付けられたこと。
(3)パワハラに関する国、事業主、労働者の責務が定められたこと。
(4)パワハラに関する労使紛争が都道府県労働局長による紛争解決援助、紛争調整委員会による調停(行政ADR)の対象とされたこと。
(5)措置義務等についての履行確保(助言、指導、勧告等)が整備されたこと。
 以下では、この中でも、特に重要な(1)及び(2)について説明します。

3 パワハラの定義の明定
 パワハラとは、(1)職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより(3)その雇用する労働者の就業環境が害されることと定義されます(法30条の2第1項)。
パワハラ防止法の成立に伴い、法30条の2第3項に基づき、厚生労働大臣によって定めれた、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚労告第5号。以下「パワハラ指針」といいます。)は、この定義の解釈を示しています。
 例えば、「優越的な関係を背景とした」とは、当該事業主の業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が当該言動の行為者とされる者に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものと解されています。
 また、「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」とは、社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当でないものと解され、この判断に当たっては、当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性等の様々な要素が総合的に考慮されるとされています。
 また、パワハラ指針は、パワハラを次の6類型に分類した上で、各類型に該当すると考えられる例と該当しないと考えられる例を示している点も重要です(あくまで、例示である点には留意が必要です。)。
(1)暴行・傷害(身体的な攻撃)
(2)脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
(3)隔離・仲間はずし・無視(人間関係からの切り離し)
(4)業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
(5)業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
(6)私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)

4 パワハラ防止のための雇用管理上の相談体制等の整備
 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければなりません(法30条の2第1項)。
パワハラ指針は、この雇用管理上必要な措置を、概要、次のとおり定めています。
(1)事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
 ・パワハラの内容・行ってはならない旨の方針を明確化、周知・啓発すること。
 ・行為者について、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規   
  定し、労働者に周知・啓発すること。
(2)相談(苦情を含む)に応じ適切に対応するために必要な体制
 ・相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること。
(3)職場におけるハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
 ・事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
 ・(確認できた場合)速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと。
 ・(確認できた場合)事実関係の確認後、行為者に対する措置を適正に行うこと。
 ・(いずれの場合であっても)再発防止に向けた措置を講ずること。
(4)(1)~(3)までの措置と併せて講ずべき措置
 ・相談者・行為者等のプライバシー保護するための必要な措置を講じ、その旨を周
  知すること。
 ・相談等を理由とした不利益取扱いを禁止し、その内容を周知・啓発すること。
 なお、パワハラ指針にもあるとおり、事業主は、労働者が相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはらない点には留意が必要です(法30条の2第2項)。

5 裁判例からみた企業対応の重要性
 パワハラが問題となる紛争では、会社は、当該パワハラの行為者に不法行為責任(民法709条)が成立することを前提に、当該パワハラ行為が「事業の執行について」なされたとして、使用者責任(民法715条)を問われるケースが多いです。
 しかし、裁判例においては、会社の対応に係る個別の法的責任が争われる例があります。
 例えば、日能研関西ほか事件(大阪高判平24.4.6労判1055号28頁)は、団体交渉での対応が悪く倫理委員会の開催が遅れたことについて会社の職場環境整備義務違反を独自の不法行為責任として認め、パワハラ行為による慰謝料とは別に20万円の慰謝料を認めました。また、セクハラの事案ですが、A社損害賠償請求事件(大阪地判平21.10.16ジュリスト1391号80頁)は、会社がセクハラの訴えを受けていたにもかかわらず、行為者から簡単な事情聴取をしただけで、ハラスメントの存否を確認しないまま、行為者に誤解を受けるような行為をしないよう注意したにすぎなかったことについて、調査不十分として、セクハラ行為による慰謝料とは別に慰謝料30万円を認めました。
 他方で、対応を徹底して行うことで、会社の対応に係る個別の責任は免れることができます。
 例えば、関西ケーズ電気事件(大津地判平30.5.24労経速23541号18頁)は、上司のした配置換えが業務の適正な範囲を超えた過重なものとして違法性を認めた一方で、研修の実施やパワハラ防止の啓蒙活動、相談窓口が機能していこと等を理由に、被害者が主張する会社のパワハラ防止体制の構築義務違反を否定しています。また、セクハラの事案ですが、N商会事件(東京地判平31.4.19労経速2394号3頁)は、被害者が会社に対し、セクハラ行為に関する調査義務を怠ったと主張した点につき、会社は相談を持ち掛けられ、間もなく、行為者とされている者に対し事実関係を問い、事実認識について聴取するとともに、問題となっているメールを任意提示させ、その内容を確認するといった対応をとっていることを認め、義務違反を否定しています。
 会社固有の責任は、これが認められてしまうと、会社の杜撰な対応が明らかとなる点で、レピュテーションに与える影響は大きいといえます。
 それ故、会社は、上記4のパワハラ指針の定める対応を遵守することで、会社固有の責任を認められないよう対応することが重要といえます。

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