当社は、衣料品の販売会社です。先日、来店したお客様からの一度着用した肌着を返品したいとのお申出をお断りしたところ、お客様が激怒して、アルバイトの販売員を2時間以上も怒鳴り続けました。このような場合、当社がとるべき対応を教えてください。
当社は、衣料品の販売会社です。先日、来店したお客様から、「一度着用した肌着を返品したい」とのお申出がありました。商品の性質上、着用済の肌着の返品はお断りをしているため、アルバイトの販売員がお客様にその旨を説明して丁寧にお断りしたところ、お客様が「どうして返品できないんだ!」と激怒して、「俺が店員なら返品を受け付けるぞ!」、「金返せ!」などとアルバイト販売員の目の前で繰り返し怒鳴り続け、結局、2時間も店に居座ってしましました。
このお客様は、最後に、「また来るからな」と言い残して店から出ていきました。そして、怒鳴られたアルバイトの販売員は、次の日から、ショックでアルバイトに来なくなってしまいました。
このようにお客様が無理なご要望をしてくるケースが、最近、増えてきています、当社としては、どのような対応をすればよいのでしょうか。
いわゆるカスハラ(カスタマーハラスメント)に当たりうる事態です。会社としては、正当な要求なのかカスハラなのかを見極めて、警察への通報を含めて現場で適切な対応をする必要があります。また、そのためには、事前にカスハラに対する対応方針を策定するなどが必要であり、また、従業員に対する安全配慮義務違反がないようにすることも重要です。
1 カスハラとは何か?
企業などに対する理不尽なクレーム、度を越した要求、暴言や暴行などの行為は、カスタマー(顧客、消費者、利用者など)によるハラスメントとして、カスタマーハラスメント(いわゆる「カスハラ」)と呼ばれ、近年、社会問題となっています。
最近では、新型コロナウイルスの感染拡大に関し、ドラッグストアでマスク不足に対する理不尽なクレームをつける顧客が問題になっており、これもカスハラ問題であると言えます。
また、態様についても、店舗での直接のクレームのほか、コールセンターに対するクレームの電話、さらにはSNSを通じてカスハラが行われる場合もあります。
なお、パワーハラスメントに関する指針(「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」令和2年厚生労働省告示第5号。いわゆる「パワハラ指針」)においても、「カスハラ」という用語そのものは使用されていませんが、顧客等からの著しい迷惑行為として、カスハラについての言及があります。
2 現場での対応
顧客などからのクレームについて、その内容が正当なものであれば、企業としては、当然、真摯に対応する必要があります。
しかし、土下座を強要する、物を叩く・壊す、店舗に居座って怒鳴り続ける、暴行、脅迫が行われるなどの悪質なカスハラについては、強要罪、器物損壊罪、威力業務妨害罪、暴行罪、脅迫罪などの、刑法上の犯罪に該当する可能性があります。
このような行為があった場合、企業(現場)としては、直ちにその場で警察に通報することが考えられますし、そのようにすべきであると言えます。
3 方針策定の必要性
また、企業としては、顧客等からのクレームが正当な要望なのか、それともカスハラなのかを見極めた上で、カスハラ行為に対しては毅然とした対応をすることが必要です。
そのため、カスハラ行為に対する対応マニュアルなどで方針をあらかじめ定めておき、社内で研修を実施するなどして、現場のアルバイトを含めて会社で共有すべきであると言えます。
また、事後的な対応策として、以下の「対応策」で述べる対策をとることも必要であると言えます。
4 従業員との関係(安全配慮義務違反について)
さらに、カスハラは、アルバイトを含む従業員との関係でも問題となる場合があります。
労働契約法第5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定めており、使用者(企業)の労働者に対する安全配慮義務を定めています。すなわち、企業としては、従業員が怪我をしたり、健康を害したりすることのないよう、従業員の安全に配慮(注意)することが求められています。そして、このような安全配慮義務(あるいは、更に進んで健康配慮義務)に違反した場合、企業は当該従業員に対して損害賠償義務を負うことになります。
そして、カスハラが発生した場合についても、例えば、従業員がカスハラを受けているにもかかわらず、企業が何も対応をしなかったときや、事前に全く対応策を準備していなかったときは、カスハラを受けた従業員に精神疾患などの被害が発生した場合、安全配慮義務違反として、企業が責任を負う可能性があると言えます。
したがって、カスハラ問題については、企業が安全配慮義務違反を問われないよう、十分に対策を講じる必要があります。
対応策
上述のパワハラ指針においては、顧客等からの著しい迷惑行為(暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等)により、その雇用する労働者が就業環境を害されることのないよう、雇用管理上の配慮として、事業主が、(1)相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、(2)被害者への配慮のための取組、(3)顧客等からの著しい迷惑行為による被害を防止するための取組をすることが望ましいとされています。
これらを参考にして、カスハラへの対応方針を策定してマニュアルを作成し、社内研修などの実施により対応策を社内で共有することが必要であると言えます。
予防策
上記の対応策を講じることに加え、カスハラは、業種・業態等によりその被害の実態や必要な対応も異なると考えられます。したがって、業種 ・業態等における被害の実態や業務の特性等を踏まえて、それぞれの状況に応じた必要な取組を進めることが、被害の予防(防止)に当たっては効果的であると考えられます(上述の指針参照)。