法律Q&A

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業績悪化を理由とする内定取消

弁護士 織田 康嗣(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2020年10月掲載

業績悪化を理由に内定取消をする場合に求められる要件は何でしょうか。

当社では、新型コロナウイルスの影響により、業績が急激に悪化したため、やむを得ず、内定者の内定取消を検討しています。このような内定取消を行う場合には、どのような要件が求められるのでしょうか。

内定取消は、解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができる場合に認められますが、特に業績悪化を理由とする場合には、整理解雇の4要素(①人員削減の必要性、②人員選定の合理性、③解雇回避努力義務の履行、④手続の妥当性)を踏まえたうえでの判断が求められます。特に、新型コロナウイルスの影響による業績悪化の場合には、拡充された各種助成金の申請など、内定取消の回避措置を十分に講じる必要があるでしょう。

1 採用内定の法的性質
 採用内定者と企業との間の法律関係について、判例は、①企業からの募集を労働契約の申込みの誘引、②学生からの応募や採用試験の受験を契約の申込み、③これに対する企業からの採用内定通知を契約の承諾と構成したうえで、採用内定者と企業の間には就労始期付解約権留保付労働契約が成立していると判示しています(大日本印刷事件・最判昭和54・7・20民集33巻5号582頁)。
 したがって、採用内定というのは、単なる労働契約締結前の交渉過程や労働契約の予約ではなく、企業が採用内定を出した時点で、内定者との間で既に解約権の留保が付いた労働契約が成立していることになります。

2 業績悪化を理由とする内定取消
 上記のように採用内定の成立によって、解約権の留保が付いた労働契約が成立していますので、企業側から安易に採用内定を取り消すことは出来ず、内定取消の問題は留保された解約権の行使の適法性の問題となります。
 ここでいう留保解約権の内容は、内定時の誓約書などに記載された内定取消事由を参考に定められますが、判例によれば、内定取消が出来るのは、「解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができる」場合に限られます(前掲大日本印刷事件)。
 さらに、業績悪化を理由とする内定取消の場合については、整理解雇の4要素(①人員削減の必要性、②人員選定の合理性、③解雇回避努力義務の履行、④手続の妥当性)を踏まえたうえでの判断が求められます。

3 新型コロナウイルスの影響による場合
 本問のようなコロナウイルスの影響により、やむなく内定取消を検討せざるを得ない場合についても、経営上の理由によりなされる内定取消ですから、上記の整理解雇の4要素を踏まえた検討が必要です。
 特に、③解雇回避努力義務の履行については、以下のような点に留意する必要があると考えられます。すなわち、厚労省の新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)〔令和2年8月26日時点版〕においては、採用内定の取り消しを防止するため、最大限の経営努力を行う等あらゆる手段を講ずることを求めるとともに、労働者の解雇・雇止めに関する質問に対しては、「雇用の維持は労使双方にとって、また社会的にも極めて重要であり、政府としては、需要の急減による経営不振等の場合であっても、事業主の雇用継続のための努力を全力で支える方針です。まずは休業などによる雇用の維持について検討をお願いします。経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた場合、事業者が労働者に支払う休業手当については、雇用調整助成金が利用できます…。…加えて、事業者が売上げ減少の中で休業手当を支払うために手元資金を十分にするため、資金繰り対策として、政府は金融機関に実質無利子・無担保の融資や既存債務の条件変更を働きかけています。また、補正予算の成立を前提に、中小・小規模事業者等に対する新たな給付金も検討していきます。」と記載されています。
 このような記載を前提とすると、必要なコスト削減はもちろん、新型コロナウイルスの影響拡大により、政府も各種助成金の拡充を行っているところですので、こうした助成金の申請など内定取消の回避努力を尽くすべきでしょう。

4 入社時期の延期(休業)
 上記のほか、内定者について、内定取消を回避するために、当面の間、自宅待機(休業)させ、入社時期の延期を検討することもありえます。内定者を自宅待機等休業させる場合には、当該休業が会社側の責めに帰すべき事由によるものであれば、使用者は、労働基準法第26条により、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければなりません(前記厚労省Q&A参照)。
 ここでいう会社側の責めに帰すべき事由については、民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」よりも広いと解されており、天災事変など不可抗力に該当しない限り、使用者の経営・管理上の障害も含むと解されています。不可抗力による休業といえるためには、①その原因が事業の外部により発生した事故であること(外部起因性)、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること(防止不可能性)の各要素を満たす必要があります。
 この場合、特措法に基づく緊急事態宣言の発令下であるか否か、テレワークや配置転換の可能性などによる休業回避措置の可能性の有無などが問題となると考えられます。しかしながら、少なくとも、本問のような新型コロナウイルスの影響による業績悪化のみを理由とする場合、会社の自主的な判断により休業を命じるものと解されますから、不可抗力に該当するとはいえず、休業手当の支払は必要になるでしょう。

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