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在宅勤務における従業員の勤務形態と時間管理

弁護士 村林 俊行(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2020年12月掲載

在宅勤務における従業員の勤務形態と時間管理について、留意点を教えてください。

在宅勤務における勤務形態としては、(1)①通常の労働時間制、②みなし労働時間制(裁量労働制<専門業務型・企画業務型>・事業場外みなし労働時間制)、③変形労働時間制(フレックスタイム制を含む)のうちどの制度を用いて時間管理を行うのかを決めるとともに、(2)それぞれの労働時間制度に応じた時間管理を行う必要がある。

1 在宅勤務における勤務形態
 在宅勤務においては、育児等と仕事の両立や時間の有効活用といったワー ク・ライフ・バランスの実現、優秀な人材の確保、生産性の向上、コスト削減、 BCP(事業継続計画)対策などの効果があるといわれています。他方で、IT技術の活用が不可欠であるとともに、①労働時間管理、②情報セキュリティー、③人事評価の困難性、④社員のメンタルヘルス、⑤通勤手当・通信費等の様々な課題があります。
在宅勤務の従業員に適用される労働時間制については、①通常の労働時間制、②みなし労働時間制(裁量労働制<専門業務型・企画業務型>・事業場外みなし労働時間制)、③変形労働時間制(フレックスタイム制を含む)のうちどの制度を用いて時間管理を行う場合なのか決める必要があります。このうち在宅勤務を行う場合によく検討される制度としては、通常の労働時間制のほかに、事業場外みなし労働時間制とフレックスタイム制があります。
 事業場外みなし労働時間制は、従業員が事業場外で労働し、労働時間の算定が困難な場合に適用されうる制度であり、従業員が在宅で勤務する場合に煩雑な時間管理を回避するためには検討に値する制度です。但し、在宅勤務に適用されるためには、①業務が、起居寝食等私生活を営む自宅で行われること、②情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと、③業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないことが必要となります。
 フレックスタイム制では、始業及び終業の時刻をそれぞれ従業員が選べ、生活と仕事の調和を図りながら効率的に働くことができるフレキシブルな労働時間制度であるために、活用を検討する会社も多いようです。

2 在宅勤務における労働時間管理
 在宅勤務における労働時間管理上の留意点については、厚労省作成の「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」にて示されています。
 通常の労働時間制により在宅勤務を行う場合には、使用者はその労働者の労働時間の適正な把握をする責務を有しており、労基法41条に規定する労働者(管理監督者等)を除き、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に基づき適切に時間管理を行う必要があり、始業・終業時刻の報告や記録の方法をあらかじめ決めておく必要があります。原則的な方法としてパソコンの使用時間の記録等の客観的な記録による方法、やむをえない場合には自己申告制によって労働時間の把握を行う方法等により労働時間を把握する必要がありますが、在宅勤務においては、一般的には始業及び終業の際に上司に電話や電子メールで連絡を入れる方法がとられているようです。
 また、始業・終業時刻やその変更をすることを認める場合には、その運用ルールもあらかじめ決めておく必要があります。
 さらに、在宅勤務においては、労働者が業務から離れる時間が生じやすいことから、いわゆる「中抜け時間」について、休憩とするのか、休憩として始業時間の繰り上げ又は終業時間の繰り下げを行うことができるのか、時間単位の年次有給休暇として取り扱うのか等について検討する必要があります。但し、通常のオフィス勤務の際の中抜けの場合よりも厳格に時間管理を行うことは現実的ではないので、例えば労働時間に算入しない場合を「〇分以上の離席の場合」というように限定する必要があるものと解されます。
 事業場外みなし労働時間制については、1②の要件に関しては情報通信機器を通じた使用者の指示に即応する義務がない状態を意味します。また、「使用者の指示に即応する義務がない状態」とは、使用者が労働者に対して情報通信機器を用いて随時具体的指示を行うことが可能であり、かつ、使用者からの具体的な指示に備えて待機しつつ実作業を行っている状態又は手待ち状態で待機している状態にはないことを意味します。さらに、1③の要件に関しては「具体的指示」とは、例えば当該業務の目的、目標、期限等の基本的事項を指示することや、これらの基本的事項について所要の変更の指示をすることは含まれないものとされています。
 フレックスタイム制については、コアタイムを(労働する義務のある時間帯)設けるかどうか、設けない場合には1日当たりの最低限仕事をしなければならない時間(例えば1日最低1時間等)を規定するか検討する必要があります。なお、フレックスタイム制の導入に当たっては、就業規則等に始業及び終業の時刻をその労働者の決定にゆだねる旨定めるとともに、労使協定において、対象労働者の範囲、清算期間、清算期間における総労働時間、標準となる1日の労働時間等を定める必要があります。
 みなし労働時間制については、通常の労働時間制や変形労働時間制のような時間管理は必要ありませんが、深夜労働・休日労働の把握や健康確保のために時間管理を行う必要があります。

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