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休業要請による休業の場合の賃金支払い義務

弁護士 松本 貴志(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2021年4月掲載

新型コロナウイルスの影響により都道府県から休業要請を受けて休業した場合、従業員に対して賃金を支払う必要はありますか。

賃金の全額を支払う必要はないでしょう。また、「不可抗力による休業」に当たる場合には、賃金の6割に当たる休業手当も支払う義務はありません。ただし、休業要請を受けただけで「不可抗力による休業」に当たるわけではないので、注意が必要です。

【解説】
1 賃金支払い義務について

 事業を何らかの理由で休止して労働者を休業させる場合、休業が事業主の「責めに帰すべき事由」(民法536条2項)に当たる場合には、事業主は、賃金の全額を支払う必要があります。
 新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、「特措法」といいます。)に基づく緊急事態措置による休業要請を受けた使用者は、これに従わない場合、企業名等の公表という実質的な制裁を受ける可能性があります。また、休業に従わなければ、今度は休業命令が出され(特措法45条3項)、これにも従わない場合には、過料が課されることになります(特措法79条)。事業主がこれらの制裁が控えているにも関わらず、休業要請に従わないことは、社会通念上期待し難く、事業主には、休業について「責めに帰すべき事由」はないと解されます。したがって、事業主は、労働者に対して、休業要請による休業期間中の賃金の全額を支払う必要はないと解されます。
 しかし、欠勤控除をしない完全月給制のような定めがある場合は、それにより賃金の全額を支払う必要がある場合があるので、注意が必要です。

2 休業手当の支払い義務について
 もっとも、当該休業が労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」に当たる場合には、事業主は賃金の6割に当たる休業手当を支払う必要があります。労基法26条の「使用者の責に帰すべき事由」は、民法536条2項の「責めに帰すべき事由」よりも広く解され、不可抗力に該当しない使用者の経営・管理上の障害も含むとされています(ノース・ウエスト航空事件・最二小判昭62.7.17・民集41巻5号1283頁)。すなわち、事業主は、休業要請による休業が「不可抗力による休業」と言える場合には、「使用者の責に帰すべき事由」には当たらず、休業手当を支払う必要はありません。
 ここでいう「不可抗力による休業」といえるためには、①その原因が事業の外部より発生してた事故であることと、②事業主の通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること、という2つの要素を満たす必要があります。①については、都道府県から休業要請を受けた事実によって満たすといえます。他方、②を満たすには、使用者として休業を回避するために具体的努力を最大限尽くしているといえる必要があります。具体的努力を尽くしたといえるか否かは、例えば、㋐自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分に検討しているか、㋑労働者に他に就かせることができる業務があるにもかかわらず休業させていないか、といった事情から判断されます(以上について、厚生労働省HP「新型コロナウイルスに関するQ&A」#Q4-6参照)。

3 事業主がとるべき対応策及び予防策
 以上のとおり、事業主が都道府県の休業要請を受けた場合、賃金の支払い義務はないと解されます。一方、賃金の6割に当たる休業手当については、当然に支払い義務を免れるわけではなく、在宅勤務の実施や他の業務に就かせることを検討するなど、休業しないための企業努力が求められます。
 また、労基法上の休業手当の要否に関わらず、新型コロナウイルスの影響で事業が縮小した場合には、国が事業主の労働者に支払う休業手当の一部を助成する制度である雇用調整助成金を利用するなどして、労働者が不利益を受けることを防止することが望ましいです。
 他方、現在は休業要請を受けていない事業主においても、予防策として、就業規則や労使協定等により、休業要請により休業した際の賃金等をどのようにするのかを定めておくことが必要です。
 なお、雇用調整助成金については、以下の厚労省のサイトをご覧ください。
厚生労働省 HP 雇用調整助成金

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