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リモートハラスメント(リモハラ)とは何か

弁護士 織田 康嗣(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2021年8月

リモートハラスメント(リモハラ)とは何でしょうか。

当社では、新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ、テレワークを導入しましたが、オンラインでの就業環境では新しいタイプのハラスメントが問題視されるようになったと聞きました。どのような行為が問題となるのでしょうか。

テレワークの普及により、上司から部下に対する指示命令もメールやチャットを通じて行われ、社内会議もオンラインで実施されることが多くなりました。不相当な態様・表現によるメールやチャット、業務時間外のメールやチャットを強要する、不必要なオンライン面談を設定し、その容姿や部屋の様子を写すよう強要する等の行為は、リモートハラスメントに該当する場合があります。

1 リモートハラスメントとは
 テレワークの普及により、上司から部下に対する指示命令はメールやチャットで行われ、社内会議もオンラインで実施されることが少なくありません。従来とは異なるオンラインでの就業環境においては、新しいタイプのハラスメントが問題視されるようになりました。具体的には、業務時間外のメールやチャットを強要される、不必要なオンライン面談を設定し、その容姿を写すよう強要される等の行為です。これらのハラスメントについて、オンライン環境で生じる「リモートハラスメント」と定義します。
 リモートハラスメントは、パワーハラスメントの要素を持つ「パワハラ型」とセクシュアルハラスメントの要素を持つ「セクハラ型」に分類できます。リモートハラスメントだからといって、従前のハラスメント該当性の判断枠組みと異なるわけではありません。

2 パワハラ型
⑴ パワーハラスメントとは
 パワーハラスメントとは、①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害される行為をいいます(労働施策法30条の2第1項)。ここでいう、①から③の要素を全て満たすものが職場におけるパワーハラスメントに該当します。
 パワハラ指針(事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針、令和2年厚労告5号)によれば、「職場」とは、労働者が業務を遂行する場所をいい、当該労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、業務を遂行する場所については、「職場」に含まれると解しています。そのため、オフィスに居なくても、テレワークにより自宅で業務遂行している限りでは「職場」に該当するということになります。

⑵ パワハラ型のリモートハラスメント
 パワハラ型のリモートハラスメントとして、業務時間外のメールやチャットへの即回答を要求する、多数の社員をCCに入れたうえで、部下に人格的な非難を加えるメールを送信するなどの不相当な態様でのメール指導、WEBカメラでテレワーク中の姿や部屋の中の撮影を強要することが想定されます。
 WEBカメラでの不必要な撮影はセクハラとしての側面もあるでしょうが、プライバシーの観点から室内を映したくないという社員に上司が無理に見せるよう強要することは、精神的な攻撃、私的なことに過度に立ち入るものとして、パワハラに該当する可能性が高いでしょう。ただし、前述のとおり、パワハラに該当するのは、「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」場合に限ります。オンライン会議ツールでは、カメラを起動させる設定にしたとしても、ソフトの設定により背景を消すことも可能です。また、オンライン会議において、出席者の顔を映すことで、出席者の反応を確認する、効率的なコミュニケーションを図るという一定の合理性もあると考えられ、少なくとも顔を画面に映すことを部下に求めたことをもって、直ちにパワハラに該当するとは言えないと考えられます。
 なお、業務時間外のメール送信に関し、裁判例では、飲酒を強要したこと、体調不良であったにもかかわらず自動車運転を強要したことに加え、深夜に叱責のメールを送信ないし留守電を残したこと、夏季休暇中の深夜に「お前。辞めていいよ。辞めろ。辞表を出せ。ぶっ殺すぞ、お前」などという留守電を残したことに関して、不法行為を構成すると判断した事例があります(ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件・東京高判平成25・2・27労判1072号5頁)。業務時間外のメール・チャットは、過大な要求としてパワハラに該当し得ることはもちろん、当該時間が時間外労働として認定され得ることにも注意が必要です。
 また、部下に強いストレスを与える文言・態様でなされたメール指導に関し、裁判例では、「意欲がない、やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います」などと記載した電子メールを被害者とその職場の同僚に送信した行為に関して、不法行為を構成すると判断した事例があります(三井住友海上火災保険事件・東京高判平成17・4・20労判914号82頁)。このほか、社内チャット(チャットワーク)において、同僚の陰口を書き込んでいた行為に関して、違法性を肯定した事例も存在します(港製器工業事件・大阪地判平30・12・20労ジャ86号44頁)。

3 セクハラ型
⑴ セクシュアルハラスメントとは
 セクハラ指針(事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針、最終改正令和2年厚労告6号)によれば、セクシュアルハラスメントとは、職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により、当該労働者がその労働条件につき不利益を受けるもの(対価型セクハラ)、及び、当該性的な言動により労働者の就業環境が害されるもの(環境型セクハラ)をいいます(均等法11条1項)。
 セクシュアルハラスメントの定義における「職場」とは、労働者が業務を遂行する場所を指すと解されており、通常就業している場所以外の場所であっても、業務を遂行する場所については、「職場」に含まれます。パワハラと同様、セクハラであっても、テレワーク中の自宅等は、セクハラの定義における「職場」に含まれることになります。

⑵ セクハラ型のリモートハラスメント
 セクハラ型のリモートハラスメントとして、例えば、女性従業員を含めたオンライン会議において、女性従業員の室内の様子について執拗に言及する、女性従業員の全身をWEBカメラに映すことを求める、テレワーク中の服装について言及するといった行為が想定されます。このような行為は、労働者の意に反する性的な言動(行為)により、その就業環境が不快なものとし、能力の発揮に重大な悪影響が生じさせるものですから、環境型セクハラとして整理されるでしょう。
 なお、前述のとおり、合理的な理由なく、WEBカメラでテレワーク中の姿の撮影を強要することはパワハラに該当し得ますが、その動機が性的なものであれば、セクハラにも該当し得ます。

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