法律Q&A

分類:

新型コロナワクチン接種を強く推奨し、社員から接種後の副反応により体調不良の訴えがあった場合の対応

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2021年9月

新型コロナワクチン接種(以下、「接種」ともいう)につき、社員同士、あるいは対顧客における感染拡大防止の観点から、会社として社員に対し強く推奨しています。この場合、①接種時の不就労時間は労働時間として取り扱うべきでしょうか。また、仮に②接種後に副反応で体調不良を訴え、勤務日の全部または一部につき就労困難となったとして、同部分の賃金をノーワーク・ノーペイの原則により不支給として差し支えないでしょうか。

真に自由な意思による接種である限り、法的には、①では労働時間として扱う義務はなく、②でも賃金支払義務はありません。しかし、接種者を増やすことを目指すならば結論は変わってきます。

1 予防接種法上のワクチン接種に関する規制
 新型コロナワクチン接種に関しては、令和2年12月改正予防接種法によれば、対象者については原則として接種を受ける努力義務の規定が適用され(同法9条)、妊娠中の者については努力義務の規定の適用が除外されています(厚労省HP掲載の「新型コロナウイルス感染症に係る臨時の予防接種実施要領」等参照)。

2 接種の推奨自体の適法性
 政府は、接種推奨を禁じる法令はないとしつつ、ワクチンは国民が自らの判断で受けるべきとの見解を示しています(内閣衆質204第35号令和3年2月19日)。接種が、感染防止策の大きな柱として位置づけられ、政府も、市町村長が対象者に対して接種勧奨をすることを定めている中で、企業が、特別な社会的接触関係を持つ、従業員や、内定社員、受け入れ派遣社員、フリーランス、出入りの取引先など全てのステークホールダーのために、安全配慮義務の観点から、最新の適切な医療情報(例えば、厚労省HP掲載の最新版の手引き、実施要領や「新型コロナワクチンの有効性・安全性について」等の公的資料)に基づき、接種推奨すること自体が違法とされるおそれはないでしょう。 

3 接種に要する時間の労働時間該当性
 そこで、推奨された接種に要する時間(接種場所との移動時間も含む)の労働時間該当性が問題となります。社員が推奨に対して真に自由意思に基づき任意に接種を受ける場合(この自由意思の認定には、山梨県民信用組合事件・最二小判平28・2・19労判1136号6頁等が労働条件の不利益変更合意時に求める「労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する」ことまでの高いレベルの任意性は求められないと解されます)、使用者の指揮命令下に業務に従事したことにはならず、接種時の不就労時間やこれに要する往復時間も含めて、労働時間には算入されないことになります(ヒロセ電機(残業代等請求)事件・東京地判平25・5・22労判1095号63頁では休憩時間内に掃除やラジオ体操が行われたとしても、具体的な業務命令に基づくものではなく、社員が労働から解放された自由時間において任意で行っていたもので、休憩時間と評価せざるを得ないとされています)。厚労省も労災保険との関係で「ワクチン接種については、通常、労働者の自由意思に基づくものであることから、業務として行われるものとは認められ」ないと同旨を明示しています(新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)令和3年9月24日時点版Q&A「7 労災補償」問10)。

4 副反応による体調不良理由の就労困難と賃金
 社員が推奨に対して自由意思に基づき任意に接種を受け、接種の副反応による体調不良を理由に就労困難で欠勤となった場合、社員が年休利用などを利用しない限り、私的疾病による欠勤となり、欠勤控除などをしない完全月給制などを適用していない企業においては、質問のように、ノーワーク・ノーペイの原則により(民法624条1項)、賃金請求権が発生しません。なお、厚労省は労災保険の対象にもならないと指摘しています(前掲Q&A7の問10)。

対応策

紛争回避と感染拡大防止推進のためのワクチン休暇等の利用のお勧め
 上記3の接種時間と同4の副反応による就労困難のいいずれの場合も、前提となる質問の「強い推奨」との表現からは、周囲からの同調圧力も加わった事実上又は黙示の指揮命令があったとの主張が出て紛争化するリスクがあります。3で言えば賃金請求や4で言えば、労災補償請求、さらには安全配慮義務違反の損害賠償請求の可能性すらあり得ます。
 前掲Q&A7の問10でも、医療従事者や高齢者施設等の従事者の接種に関しては、「接種は、労働者の自由意思に基づくものではあるものの、医療機関等の事業主の事業目的の達成に資するものであり、労災保険における取扱いとしては、労働者の業務遂行のために必要な行為として、業務行為に該当するものと認められることから、労災保険給付の対象となります。」としています。
 そこで、「強い推奨」の場合も同様に回される可能性があります(例えば、行橋労基署長(テイクロ九州)事件・最二判平成28・7・8労判1145号6頁では、明示的な指示ではない送迎の要請による行動に対しても業務遂行性を認めています)。
 他方、感染拡大防止推進のため接種を進めたい場合には、欧米でも問題となっている若者の接種忌避の動き(令和3・6・14付西日本新聞記事「若いほど抵抗感」等)を抑止するためには、接種に一定のインセンティブが必要となっています。そこで、前述のリスク回避のためからも、接種の拡大のためにも、企業としては、接種に要する時間や副反応時の特別休暇等の措置を取ることが望まれています(前掲Q&A「4 労働者を休ませる場合の措置(休業手当、特別休暇など)」問20)。

関連タグ

身近にあるさまざまな問題を法令と判例・裁判例に基づいてをQ&A形式でわかりやすく配信!

キーワードで探す
クイック検索
カテゴリーで探す
新規ご相談予約専用ダイヤル
0120-68-3118
ご相談予約 オンラインご相談予約 メルマガ登録はこちら